若手の頃は、学校行事の取材にしばしば出かけた。「なるほどなー」と感じ入ることがよくあった。
兵庫県西宮市内の小学校では、阪神大震災でのボランティアを児童たちに追体験させる行事を取材した。2004年のことで、震災から9年が経っていた。
その小学校には震災時、千人を超す被災者が身を寄せた。だが小学校も断水で水が使えない。トイレで使う水をプールで汲んで、リヤカーで運ぶのは児童たちの仕事だった。水がなくなると「パンダさんチーム出動してください」と校内放送が流れる。1日数回、水汲みをしていたという。
行事では、震災時と同じようにプールから水を汲みリヤカーで運んだ。担当したのは6年生の6人だ。震災時は2歳。当時のことはよく覚えていない。
私が「いいな」と思ったのは、6人が胸を張ってリヤカーをひいていたことだ。行事の後、「なんで胸を張ってたん?」と聞いてみた。
児童たちによると、震災当時にこの作業をやっているところを撮影した写真が、小学校に残されていた。その写真ではみんなが胸を張ってリヤカーをひいていた。だから自分たちも同じように胸を張ったのだという。
西宮市内の養護学校では、地域の人を招いた演劇発表会を取材した。感銘を受けたのは中学部3年生の演劇だ。
『きりかぶ』(なかやみわ作)という絵本を原作にした。木を切られ、残った切り株が「自分は役に立たない」と落ち込んでいると、自分の上で子どもがお弁当を食べたり、カップルが結婚式を挙げたり。「自分にしかできないことがある」と自信を得るストーリーだ。
この演劇で一番緊張していたのは、ナレーションを担当した教諭だった。演劇が終わった後、彼女に取材するとこう言って涙声になった。
「生徒に教えられることが多かったなあと、いろいろ思い出しちゃって。今日もね、本番前に私が緊張していたら、生徒たちは何も言わずにポンと肩をたたいてくれたんですよ」
あれから20年が経った。今の子どもと若者は、誰かのために生き生きとする実感を得られているだろうか?
「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」(2023年度)を見つけた。こども家庭庁が、インテージリサーチという調査会社に委託して実施した。日本、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデンの13歳から29歳の若者が対象だ。各国のそれぞれ約1000人に調査した。
以下の質問項目があった。
あなたが40歳になった時、多くの人の役に立っていると思いますか?
「そう思う」と回答したのは、5か国の中で日本がダントツで低かった。
日本:39.2%
フランス:66.1%
スウェーデン:69.3%
アメリカ:70.2%
ドイツ:77.4%
結果は、子どもと若者の目に映る日本社会を投影しているのではないか。社会の先達は、誰かの役に立つようなことができていないと映っていて、希望を失っているのだろう。
あの時の西宮の小学校や養護学校の生徒たちのように、楽しみながら自分のできることで誰かの役に立つ。できたことには胸を張る。年齢を問わずこれを実践するだけで、状況はずいぶんと良くなると思う。