編集長コラム

マンスリーサポーター200人増、ありがとうございます!(123)

2024年08月03日11時43分 渡辺周

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新たに若手記者を雇うため、昨年12月に始めたマンスリーサポーター募集キャンペーンで、目標の200人増を達成しました。これで、キャンペーン開始時は445人だったマンスリーサポーターは645人になりました。「マンスリーサポーター200人増達成!/若手記者採用へ始動」という記事をリリースしましたので、ぜひご一読ください。

いつもこの欄は、編集長として筆を執っていますが、ニューズルームとしてのTansaを運営する「NPO法人Tansa」の理事長も、私は兼ねています。今日はTansaの経営者として綴ってみようと思います。

2017年に創刊したTansaですが、今振り返ると私は恐ろしいほど無知な経営者でした。それまでは一新聞記者として、取材して記事を書くということしかやったことがありませんから当然かもしれません。

経営の素人の私が、創刊に踏み切ったきっかけの一つは、韓国のニュースタパの活躍です。KBSなど韓国の大手テレビ局の記者たちが、集団退社して2012年立ち上げたのがタパで、代表のキム・ヨンジンさんとはかねてより知り合いでした。私は探査報道に特化したメディアを立ち上げたいとは思っていたものの、お金がありません。タパを視察がてら、キムさんに意見を聞いてみようとソウルに行きました。

キムさんはお酒が大好きです。タパのオフィスでの説明はそこそこに、マッコリのおいしい居酒屋へ。そこでキムさんが言ったのが「Money follows you(お金はついてくる)」から、とにかく始めろということでした。タパには4万人のマンスリー寄付会員がいます。今ではビルも建てました。「ジャーナリストが覚悟を決めて頑張れば、市民が応援してくれる」。その自信があると言います。

私はキムさんとの夕べを経て元気百倍です。

「確かに日本には寄付文化はないかもしれない。でも寄付で探査報道メディアを運営する組織は、日本ではまだない。寄付でジャーナリズムを支えたいという人たちは自分たちに集中するはずだ。しかも日本は韓国の2倍の人口だ」

このような甘すぎる算段をして、創刊に踏み切りました。

ドラッカーの言葉

創刊時は、うまくいきました。クラウドファンディングで350万円の目標を設定したところに、550万円超が集まりました。ただこれは、創刊のご祝儀のようなものでした。すぐに資金集めに苦慮します。

編集内容に介入はしないが、大口の寄付をしてくれる人はいないか。知人から紹介された人がいれば、足を運びました。マンスリーサポーターも200人弱という状態が続きましたので、軽食付きのオフ会を頻繁に開いては、サポーターを募りました。

しかし、ほとんどが空振りでした。

知人に人気歌手のマネージャーを長年務めていた人がいます。その人からTansaを創刊した当初に「どんなにいい歌手でも、CDを1枚作るより、1枚売る方が大変だぞ」と言われたことを思い出しました。

これは経営の勉強をしなければと思い、往年の名経営者の本などを読みあさりました。2冊の本が腑に落ちました。

1冊は、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海、ダイヤモンド社)です。経営学者のピーター・ドラッカー氏の名著『マネジメント』を参考にして、高校野球のマネージャー・川島みなみが野球部を改革し、甲子園に連れていこうとするストーリーです。

みなみが、ドラッカー氏の『マネジメント』の中の一節を読んで、突然、わけもわからず目から涙があふれ出す場面があります。それは経営者の資質についてのドラッカーの言葉です。

「学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていかなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである」

私もみなみ同様、この言葉にはこみ上げるものがありました。知識や技術で経営力を高めようと右往左往し、肝心な真摯さを置き去りにしてはいけないと強く思ったからです。

もう1冊は、『常勝集団のプリンシプル』(岩出雅之、日経BP社)です。帝京大学ラグビー部の監督として、大学選手権9連覇という偉業を成し遂げた岩出氏が、強いチーム作りについて綴っています。トップダウンではなく、部員それぞれが自律的に動く「脱体育会系」。上級生は下級生に愛情をもって臨み育成する。そこに強さの秘訣があったといいます。

私がこの本でハッとしたのは、次の一節です。

「最初の10年間は早稲田大学、明治大学、慶應義塾大学といった伝統校と呼ばれる大学にまったく勝てませんでした。その時期の私は、勝利という頂上をめざして、ラグビー部という重い荷車を、自分ひとりで坂道を引っ張りあげようとしていました。先頭に立って、部員に事細かく指示命令し、がむしゃらに組織を牽引していくことが、リーダーである自分の役割だと信じきっていたのです。でも、荷車はなかなか坂道を上っていきません」

自分のことを言われているようです。私も変わろうと思いました。そうでないと、Tansaを将来に渡って社会に貢献できるジャーナリズム組織にはできないと気付きました。荷車をメンバー全員で押す体制が必須なのです。

その体制が軌道に乗ってきた結果が、今回のマンスリーサポーター200人増です。創刊準備以来、力を貸してくれた人たちを含め、Tansaのメンバー全員にこの場を借りてお礼を言いたいと思います。ありがとう。

月額平均で2000円寄付していただけるマンスリーサポーターが、200人増えれば1人のメンバーを採用することができます。サポーターのご厚意を得ながら、荷車を押すメンバーをその都度増やしていきます。

採用基準で最も大切なことは二つです。

一つは、真摯であること。

もう一つは、Tansaの挑戦が成就することを信じて疑わないことです。

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