きのうのTansaの勉強会は、兵庫県の斎藤元彦知事に対する内部告発をテーマにした。勉強会は2週間に1回、Tansaのメンバーで開いている。探査報道に生かすためだ。
経緯をたどると、内部告発者である西播磨県民局長への、斎藤知事の対応が常軌を逸していたことが分かる。
匿名の告発が報道機関や兵庫県警に寄せられたのは3月12日。斎藤知事のパワハラや、阪神・オリックスの優勝パレードの経費に関する不正などを告発した。
告発の情報をキャッチした斎藤知事は、3月21日に県の幹部たちに内部調査を指示する。告発者が誰かを探し始め、西播磨県民局長だと特定する。3月27日の記者会見では、告発内容を「嘘八百」だと言った。3月いっぱいで定年退職予定だった西播磨県民局長の退職を保留にし、懲戒処分を下せるようにした。
4月4日、西播磨県民局長が今度は実名で、県庁内に設置されている公益通報窓口に告発文書を提出する。
これに対して県は5月7日、西播磨県民局長を「知事に対する誹謗中傷であり不正行為だ」と停職3か月の懲戒処分にした。
最初の告発から2カ月もしない内に、県は結論を出した。しかも3月末で定年退職予定の西播磨県民局長を退職させなかったのだから、「処分ありき」だったことが分かる。
7月7日、元西播磨県民局長は自殺した。
問題は、告発内容に対する十分な調査はまだ途中で、真相が明らかになっていないということだ。真相究明のための県議会の百条委員会は、今も継続している。百条委員会とは、地方自治法百条に基づいて設置される。行政の不正に関する疑惑を調べるため、関係者を出頭させるなど強い権限がある。
「村八分」の異常
これまで私は、数々の内部告発者を取材してきた。正義心からの行動であっても、告発者は組織から「裏切り者」扱いされる。
告発が報道機関にもたらされた場合、組織は徹底的に犯人探しをする。社員や職員から情報収集し、目星がついたら、携帯やパソコンを取り上げて中身を隅々まで調べる。「容疑者」に対しては、弁護士の同席もないまま取り調べで追及する。別件での業務上のミスや、私生活を突いてくることもある。
告発者は精神的に追い込まれていく。当初は「組織の膿を出して社会に誇れる仕事をするんだ」と覚悟を決めていたとしても、不安に苛まれる。もうこの組織にはいられなくなるのではないか、そうなったら家族の暮らしはどうなるだろう、自分は同僚たちに迷惑をかける駄目な人間なのだろうか・・・。
最初は組織に告発し、その後に報道機関に駆け込んでくる場合もある。自組織では相手にされないどころか疑惑を隠蔽された上、配置転換などの憂き目に遭ったからだ。
いずれにしても、こちらは全身全霊で告発者と向き合う。弱音がメッセージに含まれていたら、すぐに連絡し会いにいくことはしばしば。居酒屋で相手の気が上向くまで、「あなたは間違っていない」と説く時があった。組織内で居場所がなくなった告発者のため、次の就職先を探して転職に漕ぎ着けるまでサポートしたことも何度かある。
そこまでするのは、内部告発者は社会にとって必要不可欠な貴重な存在だからだ。何としても守らなければならない。だからこそ、公益通報者保護法が2004年にできて、2006年から施行されている。保護法では、告発者に対する不利益な取り扱いを禁じている。
法律に反してまで、告発者を裏切り者扱いして追い込むのは異常だ。保身であり、村八分であり、大人のいじめだ。
そういう組織は、社会に対する「裏切り者」ではないのか。
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