編集長コラム

「誰も助けてくれない」に応える(213)

2026年05月09日18時05分 渡辺周

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シリーズ「イマジン 戦争をさせないために」が始まった。長期にわたり記事や動画を出していく。

まずは連載「健軍から」。初回は、海北由希子さんの心の叫びを見出しにした。

「誰も助けてくれない」

海北さんは、「平和を求め軍拡を許さない女たちの会 熊本」の事務局長を務める。熊本市の健軍駐屯地では、3月に長距離ミサイルを配備。「女たちの会」はこのミサイル配備に反対している。

今回のミサイル配備に反対するのは当たり前だ。

健軍駐屯地のミサイルは中国が射程に入る。日本が「敵基地攻撃能力」を持つために配備すれば、中国も「敵基地」を無力化するために健軍駐屯地を攻撃してくる可能性が高まる。

健軍駐屯地は市街地にあるので、市民が巻き添えになってしまう。しかも周囲1km圏内に、病院や小学校、盲学校、ろう学校がある。避難しようにも相当な困難を伴う。

防衛省は、「ミサイルを発射する場合は、健軍駐屯地からミサイルを移動させる」と説明している。だから健軍駐屯地は狙われず、市民が犠牲になることはないということだが、そんな理屈が通用するだろうか。

相手の立場になってみるといい。自国にミサイルを発射されたくなければ、ミサイルが配備されている健軍駐屯地を攻撃する。ミサイルを発射場所に移動するまで待つわけがない。防衛省は、考えが甘すぎる。

ところが、海北さんたちが反対運動をしていると、右翼活動家から罵声を浴びる。先の尖った長い棒を持って向かって来られる。車をぶつけようとしてきたことさえある。

警察は動かない。むしろ威圧する側に回る。

「強者」の側には傍観者がなだれ込み、多数派を形成している。ミサイル配備に反対する人たちの包囲網を築いている。

「堅牢な壁と卵とでは」

2009年、作家の村上春樹さんがイスラエルの文学賞「エルサレム賞」を受賞した。当時もイスラエルは、パレスチナ自治区のガザを攻撃していた。犠牲になった1300人超のほとんどは市民で、子どもも多かった。村上さんのスピーチに、私は深く共感した。

「高く堅牢な壁と、それにぶつかって砕ける卵とでは、私はいつも卵の側に立ちます」

村上さんはこの言葉を、小説を書く際に心に留めていることとして語った。

ジャーナリストも同じだ。私たちの仕事は、要は弱い方の側に立ち、権力という堅牢な壁にぶつかっていくこと。「誰も助けてくれない」とは、誰にも言わせないことだ。

さらに言えば、卵の側に立つことに職業は関係ない。程度の差はあっても、「誰も助けてくれない」という体験をした人は多いはずだ。その時のことを思い起こせば、卵の側に立とうと踏み出す意思は誰しもが持ち得る。

熊本では、海北さんが事務局長を務める「女たちの会」だけではなく、勇気を持ってミサイル配備に反対している人たちがいる。Tansaはもちろん壁にぶつかっていくが、卵の側に立とうという人がどんどん合流してほしい。

国会前のデモ=2026年4月8日、友永翔大撮影

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