編集長コラム

スナックママの力(218)

2026年06月13日15時24分 渡辺周

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希望ある記事だと思った。

「『スナ女』と名乗ってスナック文化を発信する 五十嵐真由子さん」

朝日新聞の6月13日付「ひと」欄の記事だ。

全国のスナック1400軒を訪ねたという五十嵐さん。スナックの魅力を知ってもらおうと、東京・京橋のオフィスビルの通路にスナックを集めた「横丁ワンダーランド」を仕掛けた。4月から6月にかけて、計9日。4月と5月の6日間は、スナック初心者らで連日大入りだったという。6月18日〜20日は12店舗が出店し、スナックのママが接客する。

記事の中で五十嵐さんは言っている。

「AI時代だからこそ血の通った人のもてなしが力を持つ」

その通りだ。

私は島根県松江市が初任地で、兵庫県西宮市、静岡県浜松市、名古屋市で勤務してきた。行く先々で、スナックのママに随分とお世話になった。

ママの前では、客は職業も性別も世代も超越する。客同士が仲良くなる時ばかりではないが、ママが支配する一つの空間の中で、それぞれが疲れを癒す。温泉に脳が入浴している感じだ。

名古屋のMママは、ダミ声で豪快に笑う。その笑い声を聞いただけで、元気がムクムクと湧いてきたものだ。

Mママは矢沢永吉さんの大ファンだ。矢沢さんが名古屋にコンサートにやってきた時は、一緒に出かけた。

矢沢さんは、歌はもちろん素晴らしいがトークもいい。その時は名古屋出身のフィギュアスケート選手、浅田真央さんのことを話題にした。こんな感じだ。

「真央ちゃん、スケートを始めた頃は楽しくて、ジャンプが成功したらまた楽しくなって、という日々だったと思う。でも最近は成功させなきゃ、失敗したら駄目だという気持ちになっているんじゃないかな。矢沢もプロとしてその気持ちが分かります。でも真央ちゃんらしく、楽しめばいいんだと思います。矢沢もこの前の紅白歌合戦で歌詞を間違えました! では歌います!」

Mママは矢沢さんのこのトークに「きゃーっ! 永ちゃんかっこいい!」と絶叫した。私も矢沢さんのトークには感動したが、Mママがここで絶叫するところがカッコいいなと思った。

浜松のNママの店は、繁華街ではなく隠れ家的な場所にあった。

浜松に赴任してすぐ、ある会社の社長を緊急で取材しなければならなくなった。私を含め、各社の記者が彼を探したのだが、会社にも自宅にもいない。

Nママの店に通うようになってまもなく、その社長が店にいた。私が「なんだ、ここにいたんですか」と言ったら、彼は「あの時は騒がしかったから、夜はここにおったんだわ」と笑った。

面白いのは、その社長にしても刑事にしても、普通なら記者のことは嫌がるだろうなという人たちが、Nママを介して知り合うと率直に話をしてくれるということだ。店にいるだけで、随分といろいろな人と出会い取材に繋がった。もちろん取材が目的で通っていたわけではないが、市役所の記者クラブにいるよりもよっぽど血肉の通った情報に接することができた。

店が忙しい日は、私もカウンターの中に入って接客を手伝わされた。新鮮だった。景色が違う。お客さんたちの表情や仕草がよく観察できる。こうやってママは、お客さんの様子を見守りながら絶妙なタイミングで声をかけたり、お酒を注いだりしているのだなと学んだ。

その他のママたちにも随分とお世話になったし、学んだ。心から感謝している。

スナックは店内が外からは見えないので、飛び込みで入るのは少し勇気がいるかもしれない。だが野生の勘に従って、「ここだ!」と思う店の扉を開けてみるといいと思う。心の栄養補給を手伝ってくれるママに出会えるはずだ。

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