編集長コラム

大学生からの質問「人を惹きつける文章って?」(223)

2026年07月18日15時27分 渡辺周

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年度の前半は毎週土曜日、青山学院大学の法学部でジャーナリズムの授業を受け持っている。少人数のゼミ方式。各自が興味のあるテーマを選び、記事を半年弱かけて書いていく。

残り3回となった授業内容をどうするか。学生たちに要望を出してもらった。今日はその中の一つ、「人を惹きつける文章を書くためにはどうしたらいいか教えてほしい」というリクエストに答えることにした。大学の授業で提出するレポートや答案は、無味乾燥なものが多く、読者の心をとらえるような文章を書く機会がないという。

難しいようで、答えははっきしている。

それは「大切な人のことを思いながら文章を綴る」ということだ。技術ではない。

私が感銘を受けた文章がある。2010年に取材した相手の文章だ。女性から男性になった人が、男性から女性になったパートナーと結婚。結婚式の挨拶で読み上げた。

「心と体を1分1秒でも早く一緒にしたいと悩み続け、母親は『男の子に産んであげられなくてごめんね』と泣き崩れました。でも、今日という至って普通な結婚式を迎えました。お互いの性を変え、結婚もできるようになった今の世の中、何より両家の両親に感謝です」

この結婚式を、彼の父親は「気持ち悪い、俺には関わるな」と言って欠席している。それでも、「両家の両親に感謝」と彼が言ったのは、式に水を差さず、和やかな雰囲気を維持したかったからだと思う。パートナーのことを大切に思っているからこそだ。その気持ちは文章全体に行き渡っている。

学生たちには、「自分が大切に思う相手」についてよーいどんで書いてもらった。人でなくて、動物でもOKにした。

それぞれ、すぐに書き始めた。思い当たる相手がいるようだ。

私は教室を出て、コーヒーを飲みながら一休み。締め切り時間に戻ってきた。

「エブリバディ、書けたかー」

だがみんな、私に見向きもしない。一心不乱に原稿を書いていて、「じゃまするな」と言わんばかりだ。私はあきらめて再度、教室を出た。

再度教室に戻り、10分ほどして原稿が出揃った。

黒い目がクリクリしている豆大福の大きさのハムスター、少年の頃に両親が仕事で家におらず話し相手になってくれた隣のおじいさん、大切なライバルであり味方である友人――。

それぞれの大切な相手なことを、読み手がシーンを想像できるくらい具体的に書いていた。情感がこもっていて、今読み返してもじーんとする。

面白いのは、原稿を出した後でも「最後のところ書き直したから、改訂版の原稿を読んで」とか、「フィードバックがほしい」とか、自分の文章をより良くするための執着心が芽生えていたことだ。

もちろん、自分が大切に思える人は限られている。

でもだからこそ、人に会いに行って取材する。五感で相手と対峙し、「この人のために頑張ろう」「この人と同じつらい思いをする人は、これ以上出さない社会にしよう」と心のエネルギーを注入する。ジャーナリズムの役割は「権力監視」であり、権力の暴走を食い止める原動力は怒りだが、大切に思っている人の存在なしに怒りは込み上げない。

私の教え子たちが将来、ジャーナリストになってくれれば嬉しいが、それぞれに目指す道があるだろう。だが何をするにせよ、「大切な人を思って文章を綴る」という行為は人生を豊かにすると思っている。

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