編集長コラム

始まりの地へ(228)

2026年08月29日16時35分 渡辺周

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韓国のニュースタパの創設者、キム・ヨンジンさんからメールが届いた。9月19日と20日にソウルで開かれる「韓国独立報道機関ネットワーク」(Korean Independent Newsroom Network 略称KINN)のシンポジウムに登壇してほしいという。韓国では、新聞やテレビといった従来のマスコミを良しとせず、自ら報道機関を立ち上げる若手ジャーナリストが出てきている。KINNはそのネットワークだ。

「Tansaが歩んだストーリーは、報道機関を立ち上げたばかりの若手の同僚たちにとって、大きなインスピレーションと勇気の源となるだろうと信じています」

私はニュースタパに触発されて、Tansaを立ち上げた。2015年8月、まだ朝日新聞の社員だった私は、ニュースタパを訪問。そこで市民が支える探査報道機関があることを知った。

ヨンジンさんは、公共放送KBSの探査報道部長を務めた経験もあったが、大統領の言いなりになるKBSに見切りをつけた。私にも「とにかく始めろ、市民が応援してくれる。お金は後からついてくる」と言う。私は2016年3月に朝日新聞を退社し、2017年2月にTansaの前身「ワセダクロニクル」を創刊した。

KINNのシンポジウムへの登壇を、私は快諾した。

さて、何を話そうか。取材や編集、経営の技術についてあれこれ話すよりも、シンプルなメッセージの方が重要だと思う。私が伝えたいのは「方向性が間違っていなければ、あきらめるな」ということだ。

独立報道機関の活動を続けるということは、報道内容に干渉されない資金を得るということだ。取材と編集に専念していればいい大会社の記者と違い、資金の獲得に奔走しなければならない。報道による権力との闘いと同時に、お金との闘いがある。

私自身、その闘いのしんどさが身に沁みた。

探査報道だから膨大な取材をする。虎の尾を踏むので、裁判や家宅捜索、物理的な攻撃への備えを講じる。これだけで、心身共に一杯になる。

一方で、金策に奔走しなければならない。

初期の頃は知り合いの伝手を頼っては、寄付のお願いに回った。東京から大阪まで足を運び、動画まで用意してプレゼンテーションしたものの、「ウチも従業員を食わせていかなあかん。渡辺さんのやっていることは素晴らしいと思うけど、ごめん」と断られたこともある。資金を獲得するどころか、新幹線代分、赤字だ。こういうことはザラだった。

だが、捨てる神あれば拾う神あり。同僚の中から「お金が集まらなかった場合の『店じまい』を考えた方がいい」という声も上がる中、寄付をお願いに行ったら、快く応じてくれた人たちもいた。ある人は寄付をしてくれた上で、「本当に困ったらまた私の所に来なさい」と言ってくれた。どれだけ有り難かったか。今年に入って久しぶりに会食し、鉄板焼きをご馳走になったがTansaが軌道に乗ってきたことを、心から喜んでくれた。今度は私が美味しい鯖料理をご馳走したいと伝えている。

あきらめずにいられたのは、自分たちがやっていることが、方向性として間違っていないと確信していたからだ。方向性さえ間違っていなければ、いつか必ず共感を得られる時がくる。

その「いつか」がいつなのかという問題はある。共感を得られるまでに、自分たちが倒れてしまうかもしれない。

しかし、Tansaはサービスへの対価を資金源としていない。共感に根差した寄付が資金源だ。その共感の結集が、活動資金となるだけではなく、社会を変えていくエネルギーになる。「Tansaに賭けよう」と思ってもらえるほどの覚悟と努力が、Tansaのメンバーには必須だ。

ニュースタパのキム・ヨンジンさんが2015年の夏、「とにかく始めろ、市民が応援してくれる。お金は後からついてくる」と言ったことを、私は時々、笑い話にしている。「ヨンジンさんには『お金は後からついてくる』と言われたが当初はついて来なかった。だまされた」。

だがヨンジンさんは正しかった。Tansaは創刊10周年をあと5カ月で迎えるが、市民の支えがあってこそだ。ヨンジンさんは、「市民が寄付で支えるジャーナリズム」という方向性に確信があったのだ。

ヨンジンさんがKINNに力を入れているのも「マスコミを目指さない、若手ジャーナリストの挑戦」という方向性に確信があるのだろう。

2017年10月2日、ソウルのニュースタパで

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