編集長コラム

自前でやったれ ! (7)

2022年04月25日18時14分 渡辺周

先日、東京・板橋区の「農民連食品分析センター」を訪れた。ネオニコチノイドという農薬の取材の一環だ。ネオニコは人体や生態系へ悪影響が指摘されているが、日本ではビジネスが優先されている。健康や自然環境より利益を優先する構造を作り出している正体とは何か。Tansaは9月にシリーズで取り上げる予定だ。

食品分析センター所長の八田純人さんが、取材に対応してくれた。すぐに意気投合した。センターとTansaの「姿勢」がそっくりだからだ。

センターの設立は、日本がWTOに加盟した1996年。農産物の輸入が増え、検査も簡略化された。消費者は「自分たちが口にする農産物は大丈夫だろうか」と不安を抱くようになった。こうした不安に応えるため、自前で食品の検査をする機関としてセンターが立ち上がった。設立資金は、農業者や消費者による募金。行政や企業からの影響を排するためだ。

センターが手がける分野は「残留農薬・化学物質」「放射性物質汚染」「遺伝子組替え作物」「栄養」と幅広く、検査の質は高い。検査機器は充実していて、フランスから取り寄せた7000万円相当の放射性物質測定器もある。スタッフは4人の専従検査員がいる。

私が「これだけの設備とスタッフを維持するのは大変でしょう」と言うと、八田さんは「いやー大変です」。だが終始笑顔で楽しそうだ。白衣で試験管を凝視する検査員の目も生き生きとしている。

八田さんと私で意見が一致したのは「自前でやることの大切さ」だ。行政という「お上」がやることを待っていたら、いつになるか分からない。そこに問題点を見出したなら、自分たちで即やってしまえばいい。

シリーズ「虚構の地方創生」で取り上げたコロナ対策臨時交付金の検証もそうだ。内閣府は1億円かけて大手シンクタンクに検証しているが、いまだに結果が出ていない。チンタラしているうちに、無駄遣い予算がどんどん国会と地方議会で通過する。

そもそも政府から予算をもらって検証するシンクタンクは、政府の失敗を追及する検証結果を出せないだろう。

Tansaは、若手メンバーの猛烈エネルギーで1ヶ月足らずで6万5000事業を統合したデータベースを作った。そのデータベースをもとに無駄事業を洗い出して現場に出かけた。

シンクタンクの担当者が、どんな人たちなのかは分からない。ただ、Tansaの取材班の方が目を輝かせて取材していると確信している。

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