編集長コラム

サイコーな「3.5%」(8)

2022年05月02日13時55分 渡辺周

気候変動の問題をどうやって解決するのか。10~20代の若者が模索するイベント「3.5 seed 明日のための時間」が4月30日に開かれ、講師として呼ばれた。東京・赤坂の会場に30人、オンラインで10人が参加した。主催は小出愛菜さんら若者たちの一般社団法人「we Re:Act」。パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社とUNIVERSITY of CREATIVITYが後援した。

イベントのタイトルになっている「3.5」には、重要なメッセージが込められている。「全体の3.5%の人が本気で動けば、社会は変わる」というメッセージだ。ハーバード大学のエリカ・チェノウス教授らの研究を根拠にしている。20世紀以降の数百の事例を調べたところ、社会の3.5%の人が非暴力的な方法で運動を展開すれば成功するという結果を得たのだ。

イベントで私は、Tansaのシリーズ「石炭火力はとまらない」を題材にした。日本の政財界は、インドネシアや横須賀での石炭火力発電所の建設をなぜ強行するのか。相手側になり切って、その意図を推察してもらった。「脱炭素を進めなければならないのに、いまだに石炭火力を稼働させるなんてひどい」と怒るだけでは不十分だからだ。推進側は「そういう意見もありますね、貴重なご意見ありがとうございます」とかわしてしまう。効き目があるのは事実を提示することだ。相手の立場になって問題を捉えると、隠している不都合な事実がどの辺りにあるか目星がついてくる。

自民党の茂木敏充幹事長、石炭火力発電所を建設しているJERAの小野田聡社長(東電と中電が出資)、経産省の多田明弘事務次官になり切って発言してもらった。

茂木幹事長役の若者は「自民党は経団連と仲良くしてまだ利権がほしいです。東電など経団連企業が政治資金パーティーでパーティー券を買ってくれるかしれません」、小野田社長役は「世界のJERAになってまだ稼ぎたい」、多田事務次官役は「とにかく現状維持したい」・・・。こうしたなりきり発言に「ではなんでそう思うんだろう」「本当にそうだろうか」と自民党、電力会社、経産省の背景を説明しつつ質問して、さらに深く推察していった。

若者たちとの70分はあっという間だった。若者たちはまだ話し足らないようで、会場を出ようとする私のところ5人ほどがやってきて、口々に言った。

「なんで日本の市民は動かないんだろう、なんでだろう、どうしたらいいんだろう」

「やっぱり外圧でしか日本は動かない国なんですかね」

「ちゃんと気候変動に取り組まない企業の株主総会に出席して、発言するのもいいですよね」

主催者の小出さんたちは、事前の打ち合わせで「3.5」に込めたもう一つの意味を「サイコー」だと教えてくれていた。なるほどな、と思えたイベントだった。

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