編集長コラム

情報公開法は社会の武器になるか(11)

2022年05月23日15時52分 渡辺周

Tansaの基本動作の一つに、情報開示請求がある。省庁や自治体、大学など独立行政法人に情報公開法に基づいて公文書を請求する。

情報公開文書がスクープになることがよくあるが、あれは記者クラブに当局がいかにまともな情報を提供していないかの裏返しでもある。記者クラブに当局は「出したい情報」しか与えていない。だから、情報公開法という法的義務のもとで公開された文書がスクープになるのだ。Tansaでも「強制不妊」や「狙われるDNA」など、情報公開で入手した公文書自体がスクープになったシリーズがある。本来なら、情報公開法で出てくる文書が基準で、当局が何がなんでも隠蔽したい情報を暴露するのがスクープであるはずだ。

しかし、法律に基づいた請求だからといって、手続きさえ踏めばスンナリと文書が出てくるわけではない。当局は、この法律をなめきっている。政府の委員会の議事録でさえ「率直な意見交換が不当に損なわれる」から不開示、コロナワクチン購入の際の製薬会社との契約書も「企業の競争上の地位と正当な利益を害するおそれがある」から不開示といった具合だ。

後者は、なかなかコロナワクチンが日本に入ってこない最中に開示請求した。情報公開法には、「企業の競争上の地位と正当な利益を害するおそれ」があったとしても、「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」は開示するという規定がある。これに照らせば、まさに開示すべき情報だ。

しかし、当時の田村憲久厚労大臣は不開示の決定を下した。田村大臣にとっては、日本に住む人の命よりも製薬会社の利益の方が大事なのだろうか。EUの欧州委員会は、コロナワクチン供給に関しアストラゼネカと交わした契約書を公開している 。

どうすれば情報公開を当局がまともに運用するようになるか。私は開示請求者がその都度、当局と闘うしかないと思う。「行政機関として、法に従わなければ責任を取る必要がある」と迫るのだ。

警察庁への情報開示請求で、担当者と交渉した時のことだ。私はいつものようにICレコーダーを担当者の眼前に置いて録音を始めた。情報公開法では、不開示決定に不服があれば裁判までできることになっている。その場合に備え、当局が決定を下すまでのプロセスを記録する必要がある。

すると、警察庁の担当者は「庁内では録音できない」と怒り出した。だがこれは法的な手続きの一環だ。私は「あなたに録音の可否を判断する権限はない」とつっぱねた。怒鳴り合いとなり、私は言った。

「あなたがこの場で録音の可否を判断して責任を取れるのか。これは法的な手続きの一環だ。本当にあなたは自分の判断に責任を取れるか」

すると担当者はこう言って、席を立った。

「少々、お待ちください。上司と相談してきます」

30分くらい待たされただろうか。担当者は上司を連れて戻ってきた。上司がニコニコ顔で言った。

「どうぞ、録音をお取りください」

情報開示請求はジャーナリストでなくても、誰でもできる。職業も国籍も年齢も一切問わない。せっかくの権利を社会全体で行使していけば、風穴があくと思う。ぜひ戦列に加わってほしい。

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