コロナ禍で停滞していた海外のジャーナリストたちとの交流が、再開している。中川七海は6月後半から、ポーランドのワルシャワに出張。世界から探査報道ジャーナリストが集まって開かれている研修で、主催者から無料で招待された。
期間中は、共通の取材テーマでコラボできないかを探る情報交換の場でもある。中川は早速アフリカのジャーナリストから日本の大企業が絡む不正を掴んだ。
Tansaは創刊当初から、海外の仲間たちとの交流を重視している。「探査報道ジャーナリズム世界ネットワーク」(Global Investigative Journalism Network, GIJN)に加盟したのは2017年。88か国227もの組織が加盟しているにもかかわらず、日本からは初加盟だった。その年に南アフリカのヨハネスブルグで開かれたGIJNの世界大会では、「やっと日本から加盟した!」と拍手で歓迎された。
世界のジャーナリストには、共通する二つの心持ちがある。
一つは「ジャーナリスト同士が仲間として連帯する」。
2019年にドイツのハンブルグで開かれたGIJNの世界大会は象徴的だった。フィリピンのオンラインメディア「ラップラー」(Rappler)の編集長兼最高経営責任者のマリア・レッサさんが、1700人のジャーナリストの前でスピーチした。フィリピンでは、当時のドゥテルテ大統領が「麻薬撲滅戦争」を口実に、「容疑者」としてみなした人を少なくとも8600人殺した。レッサさんは「権力による罪」として追及し、ドゥテルテ政権に11回訴追され、2回は逮捕された。
レッサさんは、会場に呼び掛けた。
「ジャーナリストが攻撃を受けている時、民主主義は攻撃を受けています」
「古いしきたりは捨てなさい、ジャーナリストは協力し合うのです」
「コラボレート!コラボレート!コラボレート!」
Tansaのメンバーを含め、世界中から集まった1700人のジャーナリストが一斉に立ち上がって拍手を送った。私は鳥肌が立った。
Tansaによるレッサさんへのインタビュー記事と動画を以下のリンクからぜひみてほしい。
https://tansajp.org/columnists/6739/
もう一つの心持ちは「作品を出してこそ」。
私はTansaの前身のワセダクロニクルを立ち上げる前、韓国のニュースタパ(打破)の代表であるキム・ヨンジンさんにソウルまで会いに行ったことがある。二ユースタパは韓国の公共放送であるKBSやMBCのジャーナリストたちが、イ・ミョンバク政権による弾圧で退職に追い込まれて立ち上げた。探査報道を約3万5000人の市民による寄付で支えているニューズルームだ。非営利独立のニューズルームとして、世界で最も成功している。
私が頭を悩ませていたのは、資金だ。いくらやる気はあっても、お金がなければ何もできない。ギャンブルのようなことはできない。
そのことを私がソウルの居酒屋で話すと、キムさんはマッコリのグラスを片手に言った。
「とにかくまずは探査報道の作品を発射するんだ。お金はついてくる」
キムさんの言葉に元気を得た私は、電通と共同通信・地方紙の癒着を暴いた「買われた記事」を発表してワセダクロニクルの創刊に踏み切った。
だが韓国とは違って、寄付文化がない日本ではキムさんの言う「お金はついてくる」という状況は生まれなかった。無給生活が続き、取材費も自腹ということがしばしばだった。
しかし今は、1周回ってやはりキムさんの言うことが正しかったと思う。創刊から間も無く5年半だが、少しずつではあるが運営が上向き、私を含む専業メンバー4人に給料が払えるようになったのは、愚直に取材を重ね探査報道の作品を出してきたからだと思う。どんなに苦しくても、取材費だけは削ってこなかった。
世界のジャーナリストたちとの会話は「君はどんなテーマを取材しているんだい」で始まり、「それならばこういう情報がある」で盛り上がり、「コラボしないか」という提案で終わる。これまでTansaは以下のテーマとパートナーで国際連携し、探査報道作品を発表してきた。これからもジャンジャン世界のニューズルームとコラボしていく。
ニュースタパ(韓国)、Tempo(インドネシア)、FoE(国際環境NGO)
ガーディアン(英国)
OCCRP(Organized Crime and Corruption Reporting Project)
Mongabay(米国)、Environmental Reporting Collective
「野村グループをドイツ検察が捜査/欧州各国、世界の金融詐欺ネットワークから株配当税で20兆円の被害/「CumEx文書」が暴露」
CORRECTIV(ドイツ)
ニュースタパのキム・ヨンジン代表(左)とソウルで
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