飛び込め! ファーストペンギンズ

前に倣うな(2)

2022年08月16日19時18分 小倉優香

私には、8つ歳の離れた大学3年生の従姉妹がいる。就職のことについて相談したいと言われ、お盆休みに会った。てっきり、就活の手順や心得のようなことを聞かれるかと思っていたが違った。

聞くと、学校で就職活動の話があり、卒業後の進路を考え始めたという。大学の先生だけでなく、友人との会話にも頻繁に登場するようになった「就活」のふた文字に、彼女は戸惑っていた。

「なぜ皆同じ格好をして面接や説明会へいかなくてはならないのか。」「正社員として企業に就職するだけが本当に正しい道なのか。」といった具合だ。だがその違和感は、友人や大学教師から共感を得られないこともあり、自分が間違っているのかと錯覚してしまう時もあるという。

就活をしないことや、それに違和感をもつことが理解されない風潮は、私が彼女と同じ歳だった8年前と何も変わっていなかった。私も学生時代に、同じように悩んだこともあったが、幸いにも周りの友人からの理解があった。友人は、自分の行きたい道を自分の意志で決めていた。私もそんな友人の姿があったからこそ、周りと比べず進んでくることができた。

彼女から相談を受けた時、私は彼女の当たり前を疑う感性を大事にしてほしいと思った。違和感をもつ彼女の背中を少しでも押すことができたらと、私はTansaメンバーの話をした。

編集長の渡辺は、朝日新聞を退社しTansaの前身であるワセダクロニクルを立ち上げた。辻は、給料が出ないうちからTansaの一員となった。他社と掛け持ちをしていたが、先月から専業になる決断をした。中川は予定していたアメリカ留学を取りやめ、記者経験がない中Tansaへ飛び込んだ。そして私も、この春に栄養士から記者へ転身した。

同じ進路決定でも、四者四様。決まった道筋はなくそれぞれのストーリーがあるが、共通していることは「前に倣ってこなかったこと」だと思う。Tansaのような非営利独立のメディアは日本にない。知名度もまだまだ高くなく、財政も不安定だ。前に倣っていたら、そもそもワセダクロニクルは立ち上がらず、中川や辻もTansaの一員にはなっていなかった。シリーズ「公害PFOA」や「虚構の地方創生」で描いている実態は、未だ明るみに出ていなかっただろう。皆、自分が感じ取った違和感から目をそらさず向き合い、行動している。

前に倣うことなく信念を貫くTansaメンバーの姿は、彼女の心に刺さったようだった。別れ際、最初は足元を見つめて悩んでいた彼女の表情は明るくなり、未来を向いていた。

 

 

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