飛び込め! ファーストペンギンズ

1行のために地を這う(3)

2022年08月23日15時25分 中川七海

ジャーナリストを目指す学生から、探査報道の魅力は何かと聞かれた。私は迷わず、「泥臭いところ」と答えた。

記者経験ゼロからTansaに飛び込んで2年半。これまでに私が手がけたシリーズは3つ。「巨大たばこ産業の企み」と「双葉病院 置き去り事件」、今連載している「公害PFOA」だ。

探査報道の泥臭さを知ったのは、初めて手がけた「巨大たばこ産業の企み」の取材だ。コロナ流行に乗じて言葉巧みに加熱式たばこを売る企業と、その恩恵に群がる行政の実態を報じた。

2020年12月、東京の大崎駅そばの喫煙所へ向かった。フィリップモリスが品川区に代わって費用を全額負担した、「密を防ぐ加熱式たばこ専用喫煙所」を調べるためだ。地面に貼られたシールを避けることで、利用者同士が接近せず感染対策になると謳っている。

ところが、実態は違った。誰もシールを気にせず、ギュウギュウになって喫煙していたことを編集長に報告した。しかし取材が甘かった。

「ギュウギュウって、具体的にどういう様子? 」

「どんな場所に、どんな人がいたか、読者にイメージが湧く情報が必要やで」

私は区役所に電話をかけ、喫煙所の詳細を尋ねた。だが、頭にイメージが浮かぶ情報は得られない。もう一度、喫煙所へ向かった。外周は歩幅で、奥行きは両手を広げて大きさを測る。歩道に煙が出ていないかどうかや、どこまで臭いが届いているのかも重要だ。利用者のパターンを探り、コメントもゲットした。気づけば2時間がたっていた。

家に帰り、取材のメモを見返した。喫煙所の様子も、利用者の属性もよくわかる。だが、何かが足りない。利用者のコメントが、みな匿名だったのだ。

次の日、また喫煙所を訪れた。3度目となると、グーグルマップに頼らなくてもたどり着ける。

たばこを吸わずに喫煙所をウロウロしている私は、まるで不審者だ。名刺を出しても、知名度のないメディアなので余計に怪しい。利用者が一服するわずか数分で声をかけ、私の身分や取材の主旨を説明し、質問する行為を繰り返した。何十人目だろうか。名前の掲載を許可してくれる人を取材できた時は、めちゃめちゃ嬉しかった。

探査報道は、原稿のたった1行のために地を這う仕事だ。記者1年目の「3往復」の経験は、一生忘れないだろう。

 

 

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