編集長コラム

「官邸の忠犬」は国葬文書をいかに隠したか(25)

2022年09月10日20時36分 渡辺周

97日に「国葬めぐる嘘つきはどっち?/岸田首相は「しっかり調整」、内閣法制局は「意見なし」/協議内容の開示は文書1枚で隠蔽」を報じた。

内閣法制局は、「法の番人」として本来ならどこよりも法律をしっかり守る必要がある。だが内閣法制局は、『行政機関の保有する情報の公開に関する法律』(情報公開法)という法律上の手続きの中で、官邸側との協議内容を隠蔽した。

一体どうやって、そのような隠蔽をやってのけたのか。

Tansaが内閣法制局に開示請求した文書は、2件あったということが重要だ。内閣法制局内での協議と、対外的なやりとりとをそれぞれ請求したのである。

 安倍晋三・元首相の国葬について、内閣法制局内で協議した文書一切

 

②安倍晋三・元首相の国葬について、内閣法制局外とやりとりした文書一切

ところが、内閣法制局が開示したのは外とのやりとりである官邸側との「応接録」だけだ。

この応接録はたったの1枚で、国葬について「意見がない」と1行しか書かれていない。当然受け入れられないが、そもそもおかしいのは、内閣法制局の内部で協議した文書は、こちらの請求を無視して開示していないことだ。Tansaが請求した2つのうち、「安倍晋三・元首相の国葬について、内閣法制局内で協議した文書一切」自体をなかったことにしているのである。

情報公開の手続きは他省庁とも頻繁に行っているが、ここまでひどい対応は初めてだ。

ではなぜ、内閣法制局は内部で協議した文書を隠すのか。内閣法制局の立場になって考えると、こんな感じか。

「めんどくさい文書をTansaが請求してきたなあ。官邸の人の前では、国葬をやっても『問題ない』と答えたけど、ウチらが内部で協議した時は国葬の問題点についても意見が出たからなあ。国葬に内閣法制局内から異論が出たとバレたら、官邸に睨まれるからまずいよね。内部での協議文書は出さずに、官邸に『意見なし』って回答した応接録だけ出して、やり過ごそう」

内閣法制局はもはや「法の番人」ではなく、「官邸の忠犬」に堕ちてしまっているのだ。

しかも、忠犬として官邸の役に立っているとも言えない。

再度、Tansaの開示請求文言を思い出してほしい。「安倍晋三・元首相の国葬について」というように、「国葬」という言葉を用いている。

しかし、岸田首相は「国葬」ではなく「国葬儀」という言葉を使っている。内閣府設置法に基づく「国の儀式」として行うからだというのが理由だ。

屁理屈ではあるが、私が内閣法制局の担当者なら、これで岸田首相を守る。Tansaが「国葬」という言葉で文書を請求している以上、該当する儀式はないと突っぱねるのだ。形式にこだわる「超お役所仕事」ではあるが、情報公開法に違反する今回の対応に比べればマシだ。実際、私は開示請求をしたあとに、「国葬」という言葉を使ってしまったことに気づき、「内閣法制局に突っぱねられるかもな」と後悔した。杞憂だったが。

内閣法制局と官邸側とのやりとりについては、官邸側からも開示がある。開示決定日は当初予定から「業務多忙」を理由に30日間延長され、926日。文書を入手し次第、報じる。

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