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鳥の目で見る(7)

2022年09月20日16時13分 辻麻梨子

「地方創生臨時交付金」を取材する中で考えさせられたのが、一連の無駄遣いの責任を誰に問うかだ。

地方創生臨時交付金とは、コロナ対策と地方創生を図る名目で、全国の自治体に配られた交付金である。石川県能登町の巨大イカモニュメントが有名だが、全国でさまざまな無駄遣いが横行していることを今年春にTansaで報じた。

交付金は、自治体が事業計画を作り、それを内閣府が審査することで支給される。だが内閣府は会見で「まったく審査する気はない」と言ってのけた。実際にチェック体制はほぼなかった。

他方で自治体も花火の打ち上げや婚活支援、ゴミ袋の無料配布など、コロナや地方創生への効果があるとは思えない事業を列挙した。区の財源で一律12万円の給付をおこなったとする千代田区は、財源の一部に交付金も充てていたことを隠していた。

財布を握る財務省はこう言った。「交付金制度を誰が始めたのかわからない」「何兆円の予算を出す場合でも、規模ありきで上からオーダーが降りてくる」

内閣府、自治体、財務省、どこに取材しても「コロナ禍なので仕方がなかった」などと言い訳をする。この中の誰が血税を無駄に垂れ流す「悪人」なのだろうか。取材をすればするほど、わからなくなった。

だが、記事の構想を書いているときに、編集長からアドバイスをもらった。「大切なのは、それが起こった構図を捉えること。ビッグピクチャーを描くことだよ」。

私は臨時交付金が、地方創生と紐付けられていたことによって、「なんでもあり」が加速したのだと考えた。

では地方創生とは何か。

2013年に「地方自治体が消滅する」と政府もメディアも騒ぎ立て、人口減少対策が叫ばれた。その翌年には衆議院選挙、さらに翌年には統一地方選挙があり、自民党は圧勝する。だが、東京一局集中が改善する兆しはない。この間、地方の計画づくりや事業運営を都心の大企業が大量に受託している。

そこで、思い切って冒頭部分をこう書き換えた。

「2014年から当時の安倍政権下で進められた『地方創生』が政権維持に利用され、都会の大企業がその利権に群がり、地方は活性化の処方箋を持たないまま税金が浪費されるという構図が浮かび上がりました」

タイトルも「コロナと税」から「虚構の地方創生」に変えた。臨時交付金は単体で行われた政策ではない。それ以前から続く地方創生の枠組みごと捉える必要がある。続編では、地方創生に乗じた利権と地方の疲弊を描く予定だ。

鳥の目で見た構図を暴くには、地道で膨大な取材が必要になる。だが、誰もやっていない仕事には心が躍る。

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