飛び込め! ファーストペンギンズ

現場に足を運ぶ(8)

2022年09月27日19時24分 小倉優香

2022年9月5日、静岡県の認定こども園の送迎バスに、3歳の女の子が取り残され死亡する事件が起きた。まだ暑さが続く9月上旬、車内に約5時間取り残され、熱中症で亡くなった。

園児が送迎バスに取り残され死亡する事件は、2021年7月にも福岡県で発生していた。

福岡の事件の大きな原因は、バスの運行時に、運転と園児の世話の両方を園長1人で担当していたことだった。

再発防止を目的として、文部科学省と厚生労働省は連名で、全国の園に通知を出した。

通知内には、「マニュアルを見直すこと」「運転を担当する職員の他に子どもの対応ができる職員の同乗を求めることが望ましい」など5つの項目が記載されていたが、国による具体的な対策は記されていなかった。国は、事故の原因となった「職員の1人乗車」への対策を義務付けなかった。

今月発生した静岡の事件に対しても、文科省と厚労省は再び連名の通知を出した。驚いたことに、通知に記された5つの項目は、1年前の福岡の通知と一字一句同じだった。

文科省や厚労省は逼迫する現場に数枚の通知を送り、解決は現場に任せきりだ。バスのルールを見直すだけで、本当に事件は再発しないのだろうか。

事件を繰り返さないよう、根っこにある原因を取り除くには、国が保育士の労働環境に目を向けることが必要だ。数年前、こども園で栄養士として勤務していた体験からそれを強く思う。

私が働いていたこども園は、0歳から5歳までの園児が約200人通っていた。バスを利用していた子供は約50人ほどだった。送迎バスは全部で3台。たくさんの子供たちを時間通り送り届けるために、保育士は必死だ。帰りの時間帯には栄養士が送迎バスの交通整理を担っていたので、送迎時の忙しさはよく目にしていた。

バスで帰る子どもたちは教室から駆け足で玄関に向かい、急いでくつを履き、同乗する保育士とバスに乗り込んでいた。出発時間ギリギリになって「この子もバスで送迎です!」と他の保育士に連れられ、転びそうになりながら駆け込み乗車をする姿もよく目にしていた。

同じ年に入社した保育士達は、子供たちが帰った後もイベントの制作物や事務作業に追われ、サービス残業に追い込まれる日々が続いていた。毎日の業務を振り返る時間は全くない。忙しさのあまり、5人いた同期の保育士は全員が1年以内に退職した。

国が定める認定こども園の職員配置基準は、3歳以上は「おおむね20人につき職員1人」となっている。

私が勤めていた園は、3歳児40人に対して2〜3人の職員が配置されていた。新人保育士も、ベテラン保育士も「20人に1人」の基準は同じだ。同期の保育士は「一度に見る園児数が多すぎて、日々の業務に余裕がない」と話していた。

通知文書を作った文科省や厚労省の人は、保育現場の実情を知らないのではないだろうか。現場の声に耳を傾けていれば、不幸な事件は防げたかもしれない。

Tansaでは、現場に足を運ぶことを惜しまない。現場に行き、街の様子を知ったり人々の声に耳を傾けたりすることで、より出来事を正確に理解できる。社会をいい方向へ変える報道をするために、これからも現場へ足を運び続け、事実を積み重ねていきたい。

 

 

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