編集長コラム

フェイクニュースより怖いもの(29)

2022年10月08日19時13分 渡辺周

10月3日、私の携帯に非通知設定で電話がかかってきた。「誰だろう」と思いつつも、取り込み中で出られなかった。留守電にメッセージは入っていなかった。

翌日、また非通知設定でかかってきた。今度は出た。相手は「国葬事務局のワタナベ」と名乗った。情報公開の件で伝えたいことがあるという。

私は国葬について、9月26日に官邸側に開示請求をしていた。7月12日〜14日にかけて、官邸側が、「法の番人」の内閣法制局と国葬の是非についてどのような協議をしていたのか。協議内容を記録した文書を請求した。ワタナベ氏はその件で私に電話してきたのだ。

ワタナベ氏が私に伝えてきたのは、「文書特定のための面談はしない」ということだった。

「文書特定」とは、開示請求者のリクエストに合致する文書が何かを特定することだ。開示請求する側は、行政機関が具体的にどんな文書を持っているのかはわからない。そのため情報公開法の第22条では、開示請求者が文書を特定できるように行政側が情報提供をするよう定めている。

行政機関の長は、開示請求をしようとする者が容易かつ的確に開示請求をすることができるよう、公文書等の管理に関する法律第七条第二項に規定するもののほか、当該行政機関が保有する行政文書の特定に資する情報の提供その他開示請求をしようとする者の利便を考慮した適切な措置を講ずるものとする。

実際、防衛省であれ、厚労省であれ、東京都であれ、他の省庁や自治体は文書特定のための面談に応じる。文書が複数ある場合は、どのような文書があるかリストを出してくる。情報公開で場数を踏んできたTansaの実体験である。今回も文書特定の面談に応じるよう、私は国葬の協議に関する開示請求書で要請していた。

しかし、ワタナベ氏は「それは行政側のサービスだ」と言う。そして、こう言い張る。

「そもそも、そちらは『7月12日〜14日の協議』と期間を指定している。だから国葬事務局は文書を特定できる。特定のための面談は必要ない」

そういう問題ではない。国葬事務局が文書を特定しても、数ある文書のうちから都合の良いものだけを出してくるかもしれない。開示請求者である私が、どのような文書があるのかを把握する必要がある。開示請求者である私としては、国葬事務局側に詰問しながら文書を特定する場を持つことで、相手による隠蔽を防ぎたい。

特に今回は、隠蔽を阻止したかった。7月12日〜14日の協議記録を、内閣法制局側に開示請求した時は、「意見なし」と書かれた紙1枚しか出てこなかったからだ。3日間も協議して記録が1枚というのはおかしい。明らかに隠蔽している。私はワタナベ氏に言った。

「要するに、私はあなたたちを信用していない。内閣法制局に国葬の協議記録を開示請求した時は、文書1枚しか出してこなかったからだ」

するとワタナベ氏は「それは内閣法制局の話であって、ウチは・・・」と言う。私は「国葬に関する政府としての情報公開への対応を問うている。省庁かどこであろうと関係ない」と返した。

結局、話は平行線のまま。私は最後にワタナベ氏の役職と氏名を尋ねた。私たちのやりとりは、情報公開法に基づいたやりとりである。行政の開示結果に不服がある時は裁判を起こせることになっており、その際の証拠として行政側の担当者の氏名を記録しておくことは基本動作だ。

ワタナベ氏の役職は主査、氏名は渡邉裕也というそうだ。「裕也」の漢字を説明する時に「内田裕也の裕也です」と言っていたが、内田裕也氏のロック魂と渡邉氏の今回の対応との落差に、私は脱力した。

フェイクニュースならば検証できるが、隠された情報は検証できない。しかも隠される情報は大抵、権力者たちに不都合なものだから相手も必死だ。

出回っている情報を疑うだけではなく、隠された情報を暴く。これこそが探査報道の役割だと思っている。

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