Tansaに入るまで、私は話を聴くことは得意な方だと思っていた。
初対面の人と話すのに抵抗はなかったし、保育園で栄養士として働いていた時も保育士や保護者からアレルギーや離乳食、偏食などの相談を受けていた。小規模保育園には、給食運営について、保育士や調理員からヒアリングをすることも多かった。
だが、取材は違った。取材ではなかなかうまくインタビューができない。
ネオニコチノイド系農薬の取材に本格着手した2022年6月、徳島県で無農薬栽培に取り組む農家の方に取材をした。
開始早々、私は話に詰まってしまった。間が空いてしまい、互いに緊張は増すばかり。
取材のサポートで同行していた編集長の渡辺が助け舟を出してくれ、なんとかインタビューを終えることができた。
失敗の原因は、予習不足だった。無農薬栽培に取り組んでいることはわかっていたが、その人の経歴や、無農薬栽培を始めた背景など取材に必要な知識が身についていなかった。
質問に対する回答を想像し、インタビューの展開を予想することもできていなかった。
徳島での失敗を繰り返さないために、次の取材先の佐渡に行く前は予習を徹底した。
取材相手に関する記事を読み、ネットや書籍に書いてないことは何かを考えて質問を用意した。記事に引用されている言葉や写真から、その人の人柄も想像した。
佐渡に向かう新幹線やフェリーの中では、質問が書かれたノートを見返し取材のシミュレーションを行った。
自分でも手応えのある取材となった。取材に同行していた渡辺が言った。
「次々質問できてた。インタビューちょっと上手くなってきたな」
インタビューの予習がいかに大切か。取材される側の立場になると、よくわかる。先月、中日新聞の編集局教育部の記者が渡辺を取材しにきた時のことだ。インタビューはTansaの事務所で行われ、私は同じ部屋で別の作業をしていた。
記者の方は、渡辺と名刺交換をしながら記者経験は15年ほどだと言っていた。
だが、渡辺の経歴を「元々はテレビ朝日におられて」といきなり間違えた。質問も「メンバーはどのような構成ですか? 」「経営体制はどのようなもの? 」とTansaのサイトをみればわかるようなことばかり聞いてくる。
私は「これは取材を受ける側が嫌になるだろうな」とチラッと渡辺を見ると、白けた表情をしていた。渡辺は耐えかねてTansaのパンフレットを取り出し、「ここにもホームページにも既に書いてある」と言い記者に渡していた。
出来上がった記事には、Tansaのサイトや渡辺を取り上げたこれまでの記事を読めばわかることしか書かれていなかった。
先週は初めて、私1人で専門家のところへ取材に行った。専門用語だらけの論文を時間をかけて読み込むなど、これまでにないくらい予習をした。
質問を50個書き出してそれを6項目に振り分け、どんな返答がくるかシミュレーションもした。
だが、インタビューを終えて取材メモを整理してみると、取材が甘かったことに気づいた。せっかく話を聞いてきたのに記事に使える材料が少ないのだ。
取材メモを確認した渡辺は「頭の中で記事のストーリーを組み立てながら、相手に話を聞けていないからだ」と言った。私は録音を聞き返した。相手の答えに対してもっと深掘りすべきだったところがたくさん見つかった。
インタビューはまたもや失敗だった。悔しい。
栄養士の時は、保育士や調理員が相談しやすいように「傾聴すること」を一番に心がけ、相手の答えをできるだけ受け入れていた。だが傾聴するだけでは探査報道のための取材はできない。相手の答えに「なぜ? 」と疑問をぶつけたり、時には「私はこう思う」と意見を言ったりして取材相手と双方向のやりとりをしないと、記事にする深い情報は掘り起こせない。
このコラムをリリースしているころ、私は北海道でインタビューをしている。今度こそ、うまくやり遂げたい。
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