編集長コラム

反面教師にしたい恐竜組織(38)

2022年12月10日17時26分 渡辺周

Tansaの取り組みについて、ジャーナリストを志望しているわけではない学生や、ビジネスパーソンを対象に講演する機会が増えてきた。その際に興味を示してくれる話がある。「反面教師にしたい恐竜メディア」という話だ。

恐竜は隆盛を極めたが、環境の激変に対応できず絶滅した。新聞社などマスメディアは、その恐竜に似ている。Tansaはマスメディアを反面教師として、全く逆のことを実践していると伝えている。

確かにマスメディア組織だけではなく、大企業、官僚組織、政党など「日本ムラ」の構成メンバーの恐竜ぶりが、様々な変革に大きな壁として立ちはだかっている。今回は講演で挙げている恐竜メディアの6つの特徴を紹介する。

頭抜けた成功体験がある

読売新聞1000万部、朝日新聞800万部と日本の新聞社は、世界的に類を見ない巨大部数を達成した。その時の成功体験が身体に染みついていて、新しいことに挑戦する気運に乏しい。危機感を本当に抱いているのか疑問だ。「なんだかんだ言っても大組織だから」という慢心が深層心理にあるように思える。これでは間も無く熱湯となることに気づかない「茹でガエル」になってしまう。

→Tansaはゼロからのスタートで、リスクだらけの日々。緊張の連続の中で新たな試みに挑戦している。

女性が少ない

新聞協会によると、2022年の女性記者の比率は24.1%。20年前の11.4%に比べれば倍層しているものの、4人に1人しか女性記者がいない。

→Tansaは記者4人のうち、3人は女性で男性は私だけだ。

人事の話が大好物

社内での自分の立場ばかり気にする人が多すぎる。かつて私は、先輩が人事異動の紙に蛍光ペンでマーキングしながら「この部署に行ったからこいつは終わったな」と呟いている姿に、戦慄を覚えた。

→Tansaのメンバーはそういう類の話には全く興味がない。内向きのエネルギーを使っているような余裕はない。

若い人が従順

古今東西、中高年の幹部たちが保身に走って横暴な組織運営をすることはよくある。大切なのは、そうした幹部たちに異議を唱え抵抗することだ。だがマスメディア組織の若者たちを見ているととても従順だ。萎縮して幹部たちのやることに身を任せてしまっている。

→編集長の私とは20歳ほど年下のTansaの若手たちは、至って当たり前に異議を唱える。それが組織のためだし、私も成長したい。そうした異議は必要不可欠だ。

業界全体のことを考えていない

マスメディア組織は記者教育を「自分で何とかしろ」と放棄している。それどころか、有能な若手を潰してしまっている。心を病んだり退職したりしている若手が続出している。こんなことをしていては、将来のジャーナリズムの担い手がいなくなる。業界がどんどん衰退していく。

→Tansaは、記者としての技術をマニュアル化して実践し、計画的に育成している。その育成プログラムはTansaで独占することなく、Tansa Schoolに所属組織を越えて集まった若手記者たちに伝授している。

国際化していない

記者クラブに象徴させるように、日本でしか通用しない習慣がマスメディアには多い。「ガラパゴス化」している。外国メディアとのコラボも少ない。

→Tansaは、世界探査ジャーナリズムネットワーク(Global Investigative Journalism Network)に加盟する日本で唯一の報道機関だ。国際コラボに力を入れている。これまで韓国のニュースタパ、インドネシアのTempo、イギリスのガーディアン、ドイツのコレクティヴなど様々な外国メディアとコラボして発信してきた。

以上の6項目に当てはまる組織にいる場合、次第に心身が削られていくだろう。そこから脱出するかどうかはそれぞれの事情で決めることだろうが、せめて学生には恐竜組織を避ける選択をした方がいいと私は勧めている。

 

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