編集長コラム

絶滅危惧の「ジャーナリスト志望」(44)

2023年01月28日16時41分 渡辺周

野球日本代表の栗山英樹監督と、サッカー日本代表の森保一監督の「SAMURAI監督対談」(TBS)を観て引き込まれた。ふたりとも、往年の名監督のようなオーラや強い個性をまとっているわけではない。だが物腰柔らかで「オレ様」な感じが全くない。互いの話に真摯に耳を傾ける姿は「こういう人と仕事をしたいな」と思わせるものだった。

私が感銘を受けたのは、栗山監督も森保監督も若手への愛情があり、それぞれの業界全体のことを真剣に考えていることだ。これを観たら、野球やサッカー選手になりたいと思うや若者は増えるだろうなと思った。

翻ってジャーナリストの世界はどうだろう ? マスコミ会社が経営難に喘ぐ中、語られているのは、どうやってページビューを稼ぐかといった生き残りのためのビジネス戦略がほとんどだ。ジャーナリズムの未来は語られない。

こういう業界の先人たちをみて、ジャーナリスト志望の若者が増えるとは思えない。ビジネスを主眼とするならば、他にもっと魅力的で稼げる業界があるからだ。

実際、私の実感としてはジャーナリスト志望の若者はこの10年でめっきり減っている。これまで様々な大学で講義してきた。7,8年くらい前までは、講義の後に「ジャーナリストになりたいんですが、今日のお話で質問があります」と私のところにやってくる学生がいたが、今はいない。積極的な質問をしてくる学生もいて「この若者はいいな」と思っても、ジャーナリスト志望ではない。

これは危機である。どんなにマスコミ会社が消えていっても、ジャーナリストという職業は必要だからだ。

しかし問題は、ジャーナリスト志望を増やすための特効薬がないことだ。Tansa自身、優秀な学生インターンたちを育ててきた自負があるが、じゃあ卒業後にTansaで雇えるかといったら資金がなくて無理だ。泣く泣くマスコミに就職していくが、そこでろくな教育も受けられないどころか、経営難でギスギスした組織の中で心身をすり減らす。中にはジャーナリストという職業に全く興味を失くしてしまった若手もいる。新聞社の幹部と記者教育について意見交換していた時、その幹部は「生ぬるい働き方改革のせいで記者ががんばらなくなったし、がんばれと上の者が言わなくなったことが記者の実力低下を招いている」という考え方だった。これでは若手がやる気を失うのは無理もない。

今のところ、私ができることはジャーナリストの仕事の楽しさとやり甲斐、ワクワク感と使命感をTansaの若手ジャーナリストと共に実際の仕事を通して発信していくことだ。

それとぜひ若手のみなさんに伝えたいのは、どんな業界も落ち目の時こそチャンスが眠っているということだ。100からの引き算より、0からの足し算の方が断然楽しい。これだけは私の経験から言える。

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