飛び込め! ファーストペンギンズ

マングース研究者の葛藤(26)

2023年02月21日14時47分 小倉優香

2023年2月10日に環境省が鹿児島県奄美市で、令和4年度奄美大島におけるフイリマングース防除事業検討会を実施した。毎日新聞によると、奄美大島からマングースが根絶されたかどうかを今年9月以降に判断するという。2018年4月を最後に、奄美大島ではマングースが捕獲されていないためだ。

12年前に亡くなった私の父は、琉球大学農学部でマングースの研究をしていた。奄美大島にも頻繁に足を運んでいた。ヤンバルクイナやアマミノクロウサギをはじめとする、絶滅危惧種をマングースから守るのが目的だ。

ヤンバルクイナの生存区域である沖縄本島の山原(やんばる)の北部にマングースが侵入しないよう、マングース北上防止柵や捕獲するための罠を父は開発した。小学生だったころ、私も山原で柵を立てるのを手伝った。休みの日には大学へ行き、屋外に設置された研究用の柵の横で遊んでいた。ある日シェパードを大学で飼い始め、マングースの糞を嗅ぎ分けられるように訓練すると聞いた時は驚いた

亡くなる直前に父は研究者と共同で本を執筆した。「この本ができたら一旦仕事がひと段落するから、そしたら別のことでもしようかな」と言っていた。

父は、マングースを捕獲する罠に別の動物が入ってきてしまう「混獲」について書いている。罠を仕掛ける対象地域には、天然記念物や絶滅危惧種に指定されている動物も多い。混獲が起きないように罠や餌を工夫したそうだが、ゼロにはできず当時問題視されていたようだ。

だが、マングースだけを排除できる技術はない。マングースが捕獲されることによって他の種の数が回復していること、混獲によってその種の数が減っていないことを根拠に、「混獲は仕方ない」という結論を出した。

しかし、マングースを島から根絶させることに父が疑問を持っていたことを、父の死後に知った。沖縄タイムスのコラム欄「大弦小弦」で田嶋正雄さんが当時の父の葛藤を記事にしていた。

「マングースの効果的な駆除法を探りながら、『動物が好きで動物学者になったのに、動物を殺す方法ばかり考えている』と自嘲気味に語った姿が忘れられない。外来種も被害者であり、命に変わりはないというスタンスは不変だった。生き物をただの研究対象としない温かみと真剣さがあった」

父がそうやって葛藤するのもわかる。小学生の頃、友達の家からの帰りに野良犬がついてきたことがあった。私が団地の階段を登ってもついてくる。怖くなり、大声で家にいる父を呼んだ。追い払うのかと思っていたら、降りてくるなり「先に上がっときー」と私に伝えて犬を撫で始めた。階段の踊り場から見下ろすと、家には入れないと何度も犬に言い聞かせていた。

マングースの「根絶宣言」や「捕獲ゼロ」という事実だけに焦点を当てる記事が目立つ。だが私は、これから様々な出来事を取材する時に、起きた事実だけでなく人の葛藤や迷いにも目を向けることを忘れたくない。

 

 

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