誰が私を拡散したのか

【アルバムコレクション運営者を追う】「犯罪とわかったものは多分返金している」(26)

2024年06月06日17時00分 辻麻梨子

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(イラスト:qnel)

 私はアルバムコレクションの運営について直接尋ねるため、編集長の渡辺周とシンガポールで高浜憲一に会った

高浜はアルバムコレクションの前身であるアプリ、「写真カプセル」の運営に関わっていた人物だ。

写真カプセルは、アフィリエイトビジネスとのシナジー効果があるとして、他社から事業譲渡を受けたものだった。高浜が創業した株式会社ファーストペンギン(元インフォトップ)と、自身が社長を務めるMAX PAYMENT GATEWAY SERVICES(以下MAX社) が共同で購入したという。

だが写真カプセルは、児童ポルノの取引に使われた。

写真カプセルの後継アプリである「動画コンテナ」と「アルバムコレクション」も、引き続き犯罪の温床となった。

なぜこのようなアプリの運営を続けたのか。高浜に問うたが、具体的に答えない。アプリの運営は、高浜と連名でTansaに記事の削除要求をしてきたもう1人の人物、新田啓介がしていたのだと繰り返した。

シンガポールで次の取材の打ち合わせをする=2023年11月27日NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班撮影

2023年11月から、Tansaはアルバムコレクションの運営者とAppleなど巨大プラットフォームに関する本連載の取材を、NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班と共同で行なっています。共同取材の成果として得た情報、撮影した映像などは双方で共有します。NHKスペシャルは、6月15日午後10時~10時49分 (再放送 19日(水) 午前0時35分~1時24分)放送予定です。

「写真カプセルから児童ポルノを持ってくる」

高浜が運営していた写真カプセルが、犯罪行為に利用されていたことは公になっている。

当時、写真カプセルとよく似たアプリに「写真箱」があった。運営会社の元社長は児童ポルノ禁止法違反(公然陳列)ほう助罪で有罪になったのだが、裁判記録にはその元社長から元従業員に対する指示の内容が残っている。

「写真カプセルは写真箱から児童ポルノをダウンロードして写真カプセルにアップロードしたのだから、今度は自社でも写真カプセルから写真箱へアップロードし直す」

写真カプセルと写真箱が、互いに児童ポルノという「商品」を奪い合い、競争していたということだ。

当時の写真カプセルの掲示板サイトには、子どもの性的画像の取引をアプリで行なっていると宣伝する書き込みも、大量に見つかった。

違法画像増加 「新田がマレーシアで引き継ぎ」

高浜も、写真カプセルで違法行為が起きていたことを認めた。

「公序良俗に反するユーザーも増えてきて、新田の方も対応したのですが、あまりにもその対応ができなくなった」

だが結局は、写真カプセルという名前やサイトのデザインを変えて、アプリの運営を続けることになった。その継続を申し出たのが、新田だという。

「新田の方はそれをマレーシアに持って行って、人件費の安いところでユーザーを改善しようと試みた」

私が過去のデータを調べた限り、写真カプセルは2015年ごろに終了している。その後同じ年に動画コンテナ、2017年にアルバムコレクションが作られた。

動画コンテナでもアルバムコレクションでも、女性や子どもをターゲットにした性的画像の拡散被害が起きた。

渡辺は尋ねた。

「高浜さんは写真カプセルを最初に運営していた。警察も動く事件があれば、普通はいったん運営をストップするじゃないですか。しかし実際には、それがずっと続いてしまったわけです。なぜ断ち切れなかったのか」

高浜は同じ答えを繰り返した。

「それはまあ新田ですね」

「そこは新田マターです」

逆恨みを恐れ

新田は運営者として、実際にアプリで取引される被害画像を目にしていたはずだ。高浜は写真カプセルの事業を始めた会社の社長として、どのような報告を受けていたのか。()内はTansaが補足。

「(違法画像の削除などに新田は)専念していましたから、できるだけやっていました」

「基本的には警察対応も疎かにしたことはないですし、第三者がこうだ(問題だ)といえば、そうですし、不正なアカウントが分かれば、自分で消していました」

だが改善されることはなかった。2014年の運営当初から2024年1月にサービスを終了するまで、一連のアプリは犯罪の温床となり続けた。

被害者である女性や子どもたちは、彼らの携わったツールを通じて、ネット上で「商品」にされた。本シリーズ初回で報じた私の友人も同様に被害を受けた。

数年前に拡散された画像であっても、日々の生活を今もおびやかしている。セクストーション被害に遭った男性もいる。画像の削除を条件に脅迫され、金銭を支払わされた。

削除すればいいという問題ではない。削除件数も被害の多さに比べればごく一部だろう。

ところが高浜は自身の不安を口にした。

「辻さんがやられていることは、すごく責任感があっていいことだと思うんですよ」

「ただ当時、写真カプセルで逮捕者も一応出ているので、私たちは住所が出ていると逆恨みをしてくる人間もいないってことはないので」

高浜と新田は写真カプセルなどの運営を通じ、加害者の情報を警察に提供してきた。そのため、逮捕された人物から逆恨みに遭うかもしれないと恐れているという。

だがアプリを利用して逮捕された人は少ない。画像を拡散され、金儲けの道具にされた被害者の数は甚大だ。しかも、何の落ち度もない。高浜と新田に恨みを持っている人は、被害者の方が圧倒的に多いはずだと私は思った。

性的画像は「収益の当てにしてない」?

被害者の画像の取引によって、運営側に入った収益はどうしたのか。これも新田は知っているが、自分はよく分からないという前提で答えた。

「多分新田は、私もですけど、新田の性質からしても犯罪に加担しているということは多分なくて、犯罪とわかったものは多分返金はしていると。当然、していると思います。返金か何か…」

渡辺が、返金しているんですか?と念を押した。

高浜は答えた。

「している、と思います。要は、それ(性的画像)は収益の当てにはしてないです」

本当に返金をしていたのだろうか。だとしたら、ビジネスとして成り立たなかったはずだ。写真カプセル、動画コンテナ、アルバムコレクションで取引されていたのは、私が調べた限り、ほとんどが性的画像だったからだ。

反論文書は連名なのに

私は話題を、アルバムコレクションの譲渡に移した。代理人弁護士を通して、高浜と新田の連名でTansaに送ってきた文書では、アルバムコレクションはハワイのイクリプス社に譲渡したと書かれていた。譲渡の経緯について、高浜は何かしら知っているはずだ。

しかし高浜は答えた。

「それは正直わからない」

「新田も知っていれば、知っていると言うと思うんです」

これはおかしい。たとえ新田がイクリプス社への譲渡を担ったとしても、連名で「アルバムコレクションに事業を譲渡した」と文書を出す限り、高浜も経緯をきちんと確認するのではないか。

「新田は正義感が強いほう」

シンガポールで高浜に直接取材ができたものの、話を聞いても納得できないことばかりだ。肝心な部分では「それは新田しかわからない」「新田に聞いてください」と繰り返す。

他方で、新田のことを庇う場面もあった。

「新田も僕からすればですよ、昔からの付き合いなんで、そういった不正がちょっとできないタイプなんですね。どっちかというと正義感が強いほうですから」

「新田がどういう男かよくわかっているので、言い切れるんです」

私たちは、新田に取材に応じるよう高浜から伝えてほしいと依頼した。これまでの取材では新田の連絡先が掴めず、直接やり取りができなかったからだ。

高浜は新田に連絡すると約束し、その場を後にした。

3日後、私の元に新田からメールが届いた。

=つづく

敬称略

シリーズ「誰が私を拡散したのか」の取材費をサポートいただけませんか。巨大プラットフォームも加担して違法な性的画像や児童の性的虐待の動画などが売買・拡散され、多くの被害者を生み出しています。私たちは2022年から、被害を止めるための報道を続けています。海外出張などを含む徹底的な取材には、資金が必要です。こちらから、ご支援をお願いいたします。

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