公害「PFOA」

【音声記録入手】ダイキン工業、株主総会で「フッ素事業を伸ばしていきたい」/PFOA汚染への補償ないまま井上会長に43億円/井上氏「本当に幸せな会社」

2024年06月27日19時39分 中川七海

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2024年6月27日、ダイキン工業が株主総会を開いた。Tansaは、その音声データを入手した。 

大阪府摂津市にある淀川製作所周辺のPFOA汚染について、複数の株主から質問が出た。

十河政則社長も担当役員の平賀義之氏も、汚染対策や経営上のリスクについて、きちんと説明しなかった。一方で、半導体や自動車などの製造でPFASの需要があると説明し、今後もフッ素事業に力を入れていくことを表明した。

左から、ダイキン工業の十河政則社長、井上礼之元会長、常務執行役員の平賀義之

効果不明の「汚染対策」

この日の第121期定時株主総会は、大阪市にあるホテル阪急インターナショナルの「紫苑の間」で開かれた。 

進行を務めたのは、十河政則社長だ。社からの議案を株主に諮るにあたり、経営状況等を説明。質疑応答時には、株主からPFAS汚染に関する質問が複数挙がった。

Tansaでは2021年11月から、ダイキンによるPFOA汚染を報じている。株主総会の音声を都度入手してきたが、PFOA汚染に関する質問は今回が初めてだった。

ある株主が尋ねた。

「淀川製作所のPFASが今、各メディアで取り上げられている。我々株主に安心を与えていただけるような施策、対応策をご教示いただけるとありがたいです」

回答に立ったのは、常務執行役員(化学事業、化学環境・安全担当)の平賀義之氏だ。Tansaでも以前、対面取材をしている人物だ。

「ご質問いただきありがとうございます。私は化学を担当しております、平賀でございます。淀川製作所周りのPFASの課題につきましては、2009年より、浄化する排水処理設備を新設し、現在も高度化し、地下水の揚水と浄化を行い、汲み上げ量の増加を図っております」

確かに淀川製作所では、敷地の地下に溜まった高濃度PFOA水を汲み上げて処理し、下水として流している。

だがダイキンは、下水排出時のPFOA濃度を公開していない。周辺住民や大阪府が開示を求めても拒否し、今に至っている。どれほどの効果があるかはわからないのだ。それどころか、2020年の環境省の調査では、淀川製作所すぐそばで採水された地下水が全国一のPFOA濃度を記録している。

平賀氏が続ける。

「さらにですね、専門家等の意見も参考にしながら、遮水壁を設けてその浄化を進めております」 

淀川製作所は、敷地の地下にある高濃度PFOA水が敷地外に移動しないよう、遮水壁の設置を取り決めた。だが、現時点で設置できているのは一部のみ。ダイキンは、2000年代からPFOAの危険性を把握していたにもかかわらず、未だ遮水壁を完成させられないでいる。

そもそも、ダイキンは自社の敷地内を浄化しているだけで、敷地外での汚染は知らんぷりだ。住民から補償や浄化を求められても応じていない。

住民の高濃度PFOA曝露には触れず

平賀氏は回答の途中から、論点をずらした。

「一方ですね、PFASは1万種類ほどあるフッ素化学製品の総称となっております。その中で、体内蓄積性があるものは約3種類と、その類似化合物ということでありまして、他のものは不活性であるとされております」

平賀氏が述べた「3種類」とは、日本で製造が禁止されているPFOA、PFOS、PFHxSのことだ。この3種類以外なら問題ないと言いたいのだろうか。だが、淀川製作所周辺で起きている汚染の原因物質は、PFOAである。

さらに平賀氏は言った。

「半導体、自動車、情報通信、メディカルにおきまして、幅広い先端分野におきまして、フッ素化学品の高い性能がお客様のニーズに最も適しております。他の材料に置き換えることが難しいのも多いです。そういうことから我々は責任ある製造者として製品のライフサイクルを考え、環境影響を最小限に抑えて、これからもフッ素事業を伸ばしていきたいと思っております」 

これだけの汚染を引き起こしていながら、「環境影響を最小限に抑えて、これからもフッ素事業を伸ばしていきたい」と表明したのだ。

そもそも、環境影響にしか言及しないことがおかしい。製作所の周辺住民の血液からは、高濃度のPFOAが検出されている。PFOAは、発がん性や妊娠高血圧症など、命に関わる健康影響がある物質だ。毎年のように、さまざまな疾病との因果関係が世界中から報告され、各国で規制が進んでいる。

もはやPFOA汚染は、環境問題ではなく人権問題だ。

平賀氏の説明後、十河社長が「私の方からも少し補足させていただきます」と発言した。汚染対策に対して、「了承」を求めた。

「確かに地域住民の方々、淀川周辺の方々がご心配されることは真摯に受け止めております。関係団体、大阪府知事と協議しながら、万全の対策をとってまいりたいと思っておりますので、ご了承いただけますようよろしくお願い申し上げます」

「安全なPFAS」?

PFASに関する質問は、他の株主からも挙がった。

「先ほどのご説明に、1万種ある中で3種が人体に蓄積すると。代替が非常に難しい中で、この3種は未だに使われているのですか」

平賀氏が回答した。

「私の先ほどの説明が誤解を招いたのかもしれませんが、3種類に関しては、すでに我々も競合他社も使ってはおりません。そういったことで、ご安心いただければと思います」

だがこの3種はすでに法律で禁止されている。使えないのは当たり前だ。安心もできない。蓄積性・残留性が高く、過去の製造でも、今なお淀川製作所周辺の大阪府摂津市や大阪市東淀川区で広範な汚染が起きている。

平賀氏は続ける。

「今後、代替物質に関しては、例えば半導体製造装置の中においては、過酷な状況で使われる部分もございまして。そこには3種類以外のPFAS、安全なPFASと言ったらよろしいでしょうか。そういったものがすでに今も使われている」

平賀氏が言う「過酷な状況」とは何のことか意味不明だが、この回答に対して別の株主が手を挙げた。

「先ほどの話なのですけれども、『安全なPFAS』っていうのは一体どういったことなのか、気にかかりました」

だが平賀氏の回答は、株主が尋ねた「『安全なPFAS』とは何か」への回答になっていなかった。

「PFASはですね、先ほども申しましたけれども、1万種類を超える多様な有機フッ素化合物の総称となっております。それぞれのPFASについて、個々の性質があったり異なる物性があったりするわけですけれども、現在、体内蓄積性が認められているのが、先ほどから申し上げているPFOA、PFOS、PFHxSと、それの類似化合物となっております。他の物質に関しましては、体内蓄積性とは現在認められておりません。また、フッ素ポリマー、フッ素ゴムに関しましては、OECDという分類においても、低懸念物質というふうにされておりまして、安全な物質というふうに考えております。以上、ご説明申し上げました。ありがとうございました」

平賀氏が言い終えると、十河社長は間髪入れずに言った。

「それではですね、議案の採決に移りたいと存じます」

井上会長の初任地は淀川製作所

この日の株主総会では、会長を退任する井上礼之氏への43億円の「特別功績金の贈呈」も議案に盛り込まれた。

30年にわたってダイキンのトップを務めた井上氏だが、入社後の初任地は淀川製作所だった。PFOAの製造・使用時期には副所長を務めている。

PFOAの危険性が世界で明らかになった後も、井上氏はPFOA製造を含むフッ素事業のアクセルを踏み続けた。雑誌のインタビューでは、「フッ素化学事業においては、世界でナンバーワンもしくはナンバーツーにならないと負け組に入ってしまう」と語っていたほどだ。

しかし、井上氏への43億円贈呈について、株主たちは拍手で承認の意を示し、可決された。

会の最後に、井上氏が登壇した。

約4分間の挨拶の中で株主や社員、顧客に感謝を示し、こう述べた。

「本年創業100周年という大きな節目を、過去最高業績で迎えることができた、本当に幸せな会社だと思っております」

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