公害「PFOA」

なぜ名乗り出ないのか/PFOA含有活性炭を町内企業に渡した大企業はどこ?【岡山・吉備中央編-13】

2024年08月20日20時00分 中川七海

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なぜ、PFOA工場のない岡山県吉備中央町で、高濃度PFOA汚染が起きたのか。

汚染源は、PFOA含有活性炭だった。町内の企業が、町外の企業から引き受け、水源の近くに放置していた。

元の持ち主である「町外の企業」とは、一体どこなのか。

町民の高濃度PFOA曝露が判明し、2歳児も含まれている。ダムは使用できなくなった。それでもなお、名乗り出ていない。

河平ダム=2024年2月7日、中川七海撮影

屋外に15年間放置

汚染源について、おさらいする。

汚染原因を特定するため、県は町内各所で水質調査を実施した。PFOA入りの水道水を供給していた円城浄水場の取水源である河平ダムから、1,100ナノグラム/LのPFOAを検出する。

次に、河平ダムに流れ込む川の水質を上流へ進みながら調査した。上流ほど濃度が高く、最高で6万2,000ナノグラム/Lだった。

その地点の近くにある町有地「財産区」には、大量の「黒い袋」が放置されていた。中には活性炭が詰められており、破けた袋から出てきた活性炭が辺り一面に散らばっていた。

活性炭はしばしば、水中のPFOA除去に使用される。県は活性炭をランダムに30箇所で採取し、濃度を計測したところ、最大で450万ナノグラム/Lを検出。国が定める目標値50ナノグラム/Lの9万倍に当たる高濃度だった。

活性炭を放置していたのは、財産区を借りていた「満栄工業株式会社」。大正時代から100年以上続く吉備中央町の企業だ。

満栄工業は、化学物質を含んだ活性炭を引き取って除去し、再び化学物質を吸着できる状態にした活性炭を業者に引き渡す事業をしている。

だが財産区にあったのは、PFOA除去されていない活性炭だった。町と満栄工業が土地の賃貸借契約を結んだのは、2007年9月1日。翌2008年頃から活性炭を置き始めたので、15年間にわたって活性炭を放置していたことになる。

活性炭は、約1トンの容量があるプラスチック素材の「フレコンバッグ」に詰められていた。野晒しの土地に数百と積まれたフレコンバッグは、雨風を受けて劣化。県が調査に入ったときには、活性炭が地面に散らばっており、撤去時には新しいフレコンバッグに入れ直してから運び出さねばならない状況だった。

PFOAが土壌と川を伝い、取水源である河平ダムに流れ込んだのだ。

参考:位置関係の概略図

ダムが使用不能に

被害の規模は計り知れない。

河平ダムの水が供給されていた「円城地区」の町民は1,000人を超える。校区内にある円城小学校では、この水で毎日の給食が作られていた。先行して血液検査を受けた町民27人全員の高濃度曝露も判明。中には2歳児も含まれている。今後の町民対象の検査によって、新たな被害が判明する可能性もある。

それだけではない。生活インフラである河平ダムが使えなくなったのだ。河平ダムを源水としていた円城浄水場では、水源を切り替えるための大規模な工事が実施された。

賠償金額が莫大になることは、町長の山本雅則も認めている。2024年2月21日の取材で、私はこう尋ねた。 

「河平ダムが使えなくなった以上、町は今後も水を買わなければならない。発生する損失額は見積もっているのですか」

山本は「完全に(新たな水源に)切り替えるまでに十何億だと思う」と答え、こう続けた。 

「ペットボトルをお配りしたとか、職員がこういう仕事をしたとか、純粋なPFOA問題で損害を受けた。もうそりゃ数億はあるでしょうね。だから、そういう面については補償というか、原因がきっちり究明できて、たとえば満栄さんということになれば、(賠償して)いただきたいですよね、当然」

だが、今回の水道水汚染の全ての責任が満栄工業にあるのだろうか。

町は、2020年にはPFOAの異常値を検出していたにもかかわらず、水道水の飲用中止を町民に呼びかけたのは2023年10月だった。

そもそも、満栄工業にPFOAを含んだ活性炭を渡した企業は、PFOAの危険性について伝えたのだろうか。今回の汚染に関し、経緯を説明する必要があるのではないか。

しかし今のところ、当該企業は名乗り出ていない。町、県、満栄工業のいずれもその企業の名前を明かさない。

PFOA「製造」企業ではなく、「使用」企業

2024年2月5日、町住民課長の古好広徳を取材した。住民課は、PFOA汚染問題に対処する課の一つで、汚染の原因究明を担っている。

私は満栄工業に活性炭を引き渡した企業がどこかを尋ねた。古好はこう答えた。

「満栄工業への調査では、『大手3社』と聞いています」

だが、具体的な企業名は教えてくれない。

私が「それはPFOA製造企業ですか? そうだとしたら、ダイキン、三井ケマーズ、AGCになりますけど」と返すと、古好は否定した。

「今、名前が挙がった3社ではありません」

国内には、PFOAを製造していた大企業が3つある。ダイキン、三井ケマーズ、AGC(元・旭硝子)だ。その3社でないということは、「大手3社」はPFOAを「製造」していた企業ではなく、PFOAを「使用」していた企業ということになる。フッ素加工のフライパンを作ったり、半導体の製造工程で使用したり。そのような工場が国内には無数にある。

次に私は、満栄工業の元従業員を取材した。財産区を使用していた時期に満栄工業の吉備中央本社で働いており、取引先を知る人物だ。

「岡山や大阪などの関西圏から、使用済みの活性炭を引き受けていましたよ。大手の取引先だと、その一つが、クラレさん」

クラレは、岡山県発祥の化学メーカーだ。1926年、岡山県倉敷市で化学繊維レーヨンの製造を手がける「倉敷絹織株式会社」として創業。戦時中は、軍需企業として合板や木製飛行機の生産も担った。

1950年、国産の合成繊維の工業化に国内で初めて成功。社名の変更を重ね、1970年に「クラレ」に。現在は、樹脂や化学品、繊維や水の処理システムなどを製造・販売している。

本社は東京に置いているが、倉敷市に研究拠点を構え、岡山市内には国内最大の製造工場を有する。事業の一つに、活性炭の取り扱いもある。

クラレ「関与の可能性はほぼない」

私はクラレの代表取締役社長の川原仁に質問状を送った。回答は、IR・広報部から返ってきた。

まず、吉備中央町での水道水の高濃度 PFOA 汚染を把握しているのかを尋ねた。回答は次のとおり。

2023年10月17日の吉備中央町による「円城浄水場有機化合物検出について」の報道発表以降、岡山県による水質汚染原因調査が実施されたことにより、満栄工業の保管する使用済み活性炭との関連が取りざたされ、本件の把握に至りました。

 汚染を引き起こしたのが満栄工業であることを把握していたのかについては、こうだ。

上記の通り、報道により把握に至りました。

クラレは満栄工業に対して使用済み活性炭を渡していた。しかし今回の汚染について公表や謝罪を行っていない。その理由は何なのか。

当社の関与の可能性はほぼないと判断しております。

なぜクラレは、「関与の可能性はほぼない」という回答に留め、「関与の可能性はない」と断定できないのか。次回、報じる。

=つづく

(敬称略)

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