公害「PFOA」

満栄工業・元社長の弁90分/「PFOA入り活性炭だとは思わなかった」【岡山・吉備中央編-16】

2024年09月10日21時45分 中川七海

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吉備中央町にある活性炭リサイクル業者・満栄工業は、自社が水道水汚染を引き起こしたことを公表せず、町民への謝罪もしていない。

そこでTansaは、現社長の前田貴広を訪ねたが、対面での取材を拒んだ。前田貴広の弟で取締役を務める前田健吾は、報じる際は社名を伏せるようメールで要求してきた。

社として誰も責任を取らないつもりなのか。満栄工業の別の役員を訪ねることにした。PFOA含有活性炭を財産区に置き始めた当時の社長だ。

「私はぜひお話ししたい」

大正10年(1921年)創業の満栄工業は、同族経営が続いている。(1996年5月以前は省略)

1996年06月〜 社長 前田憲廣

2005年12月〜 社長 前田重信(憲廣の弟)

2010年08月〜 社長 前田憲廣

2010年11月〜 社長 前田重信(憲廣の弟)

2011年08月〜 社長 前田貴広(憲廣の長男)

私は前田重信に着目した。

PFOA含有活性炭の放置で汚染源となった「財産区」の賃貸借契約を町と結んだ2007年当時の社長だ。

さらに前田重信は現在、満栄工業の取締役を務めており、満栄工業の筆頭株主でもある。その他の株を主に前田憲廣、前田貴広、前田健吾たち親子3人が同程度ずつ保有している。

2024年8月8日、私と編集長の渡辺周は、岡山県内にある前田重信の自宅を訪れて帰宅を待った。

午後6時半、仕事を終えた前田重信が車で帰宅した。車から降り、駐車場から自宅に向かって歩き始めたところで、まずは私一人で声をかけた。

「突然すみません。Tansaというメディアの記者の中川と申します。前田重信さんでいらっしゃいますよね」

そう声をかけると、前田重信は「はいそうです。あぁ、Tansaさん、存じ上げております」。

途中で渡辺が加わり名刺を差し出すと、前田重信は「名刺はちょっと、もらうとまずいので。YouTubeでも見ていますし、顔写真も印刷してファイルに綴じていますので」。

PFOA汚染についての話を聞かせてほしい旨を伝えると、前田重信はこう述べた。

「私はぜひお話ししたいんですけど、弁護士たちに止められているんです」

「では、お話しいただける範囲で構いませんので」

そう返すと、前田重信はその場で取材に応じた。

大手企業は「変なものは使っていない」という前提

前田重信は水道水汚染を知ったときのことを、こう述べた。

「まさかうちが原因だとは思わなかったです」

だがその後、行政による調査が満栄工業に及ぶ。県が満栄工業への立ち入り調査を複数回にわたって実施。財産区に置かれた活性炭を分析したところ、高濃度のPFOAが検出された。

調査結果を知ったとき、こう思ったという。

「なんでこんなもの(PFOA)が入っとんのかな、(取引先での)活性炭の使い方が悪いのかなって」

「PFOAというものについて、(取引先から)言われていなかった」

「(取引先は)大手だから、変なものは使っていないという前提がある」

つまり、活性炭にPFOAが含まれていることはそもそも知らなかったし、ましてや大手企業が毒性物質を活性炭に吸着させているとは思ってもいなかった、という言い分だ。

「3社ではなく2社」

だが実際には、大手企業から引き受けた活性炭にはPFOAが多量に含まれていた。県の調査で、国指針9万倍の450万ナノグラム/Lを溶出している。

PFOA含有の事実を満栄工業に知らせなかった取引先とはどこなのか。

町で原因究明を担う住民課長の古好広徳は「満栄工業への調査では、『大手3社』と聞いています」と言っていた。

私が前田重信に「3社とはどこですか」と尋ねると、「3社ではなく2社」と答えた。

では、その2社はどこなのか。

事前の取材では、満栄工業の元従業員の証言をもとに、満栄工業と使用済み活性炭の取引をしていたクラレに質問状を送った。クラレは今回の汚染を引き起こした活性炭が自社のものである可能性は「限りなく低い」と、全否定しなかった。

私はクラレがなぜ全否定しないのかが気になったので、前田重信に対して「2社のうちの1社はクラレですか」と尋ねた。前田重信は否定しなかった。

もう1社について尋ねると、前田重信は「私の口からは言えませんけど、調べたらすぐに分かります」。

続けて、「商工リサーチとか、あとあの・・・」と言ったので、「帝国データバンクですか? 」と返すと、「そう。そこに最大手の取引先として名前が挙がっています」。

「帝国データバンク」と「東京商工リサーチ」とは、信用調査会社のことだ。所属する記者が全国各地の企業を直接訪ねたり独自の調査を実施したりして、経営状況や役員に関する情報などを収集、データベース化している。

帝国データバンクと東京商工リサーチの資料では、満栄工業の最大手の取引先は「大阪ガスケミカル」だ。

前田重信は、この2社を指してこう述べた。

「はっきり言うて、預かっているところから(PFOA含有活性炭が)来てるんじゃないかと思っている」

さらに、こう念を押した。

「活性炭は指紋みたいなものなので、混ぜたとしてもどこの業者から来たものかは分かる。分析すれば、どの工場のどの工程で使っているのかも分かる」

財産区の管理は?

前田重信は、大手企業に責任があると言わんばかりの主張だ。

だが、取引先の大手企業から引き受けた活性炭を満栄工業がきちんと管理していれば、PFOAが漏れ出すことはなかったのではないか。

そもそも、財産区の賃貸借契約を町と結んだ契約者は、前田重信本人だ。管理が杜撰だったのではないか。そう尋ねると、こう否定した。

「自分の時はきちっとしていた。紫外線が当たらないようにシートを被せたり、下に漏れないような対策をしていた。写真も残っている」

そこまで対策するのは、有害物質が入っていることを知っていたからではないのだろうか。

その点を問うと、前田重信は「それは違う」と即答し、こう続けた。

「フレコンバッグには取手の紐がついているが、紫外線に弱い。吊り上げて移動させる時に紐がちぎれて中身が出たら拾えないから」

では、社長を交代した際には、財産区の管理について次の社長に引き継ぎをしたのだろうか。前田重信はこう答えた。

「会社の引き継ぎ自体に問題があって、当時はそれどころじゃなかった」

「大手の名前も出すべき」

駐車場の前で行った取材は、1時間半に及んだ。とっくに日は沈み、互いの顔はよく見えない。腕や足は、何箇所も蚊に刺された。

私は何度も問うた。

「なぜ、満栄工業は汚染原因をつくった企業として、自ら名乗り出ないのですか」

前田重信はこう答えた。

「それはその通り。『うちの責任です、対処します』と言うべき。私が今の社長なら前へ出て、『ご迷惑をおかけして申し訳ありません』と謝罪します」

そして、こうも述べた。

「(取引先の)大手の名前も出すべき」

満栄工業の前田重信元社長への取材=2024年8月8日

=つづく

(敬称略)

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