公害「PFOA」

吉備中央町長選スタート/PFOA汚染はどうするの?【岡山・吉備中央編-18】

2024年09月24日21時00分 中川七海

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2024年9月24日、吉備中央町の町長選挙が告示された。水道水の高濃度PFOA汚染の発覚から1年足らず、町トップを務めてきた現職の山本雅則が立候補した。

PFOA汚染問題は未だ解決していない。町長には、町民の健康や財産を預かる町民の代表者として、また、汚染源となった町営地「財産区」の責任者として、問題解決と再発防止を果たす役目がある。

明確な施策を持ち合わせているのか。選挙演説会場へ向かった。

「お褒めの言葉をいただいております」

町長選への立候補者は2人。4期連続で町長を目指す現職の山本雅則と、新人の森安高広だ。

朝9時、町内で山本の出発式が開かれた。応援に駆けつけた町民ら約90人が集った。国会議員や県議、近隣自治体の首長も参加した。

山本は今後の政策や意気込みを挙げる中、「やはり、ここで、どうしても皆様方にはお伝えしなければならないのが、昨年の10月に起きた円城の水問題でございます」と切り出した。

真っ先に述べたのは、自身への評価だ。

「多くの方の協力を得て、(汚染判明から)1カ月という信じ難い短い期間で新たな水源を見出し、水の供給をすることができました」

続けて、山本の耳に届いたという町民の声を紹介した。

「地域の方(から)も、大変そのことは、なかなか早い、よくやったというようなお褒めの言葉をいただいております」

私は、この1カ月が短いとは思えない。町民は1カ月もの間、生活に必要不可欠な飲み水の確保に日々奔走していた。

朝9時〜午後7時までしか町の給水車は配備されず、仕事などでその時間帯に取りに行けない町民が多数いた。町に給水時間の延長を訴えても改善されなかったため、自身でペットボトル水を購入したり、「少しであれば」と汚染を承知で既存の水道水を飲んだりした。そんな期間が1カ月も続いたのだ。

山本は「新たな水源を見出し」とも評した。だが、水利権を取り戻したわけではない。町が水利権をもっていた「河平ダム」が使えなくなったため、農業用水用の「日山ダム」の管理者から水を買って町民に供給しているのだ。いつまでこの体制を続けるつもりなのか。

演説で言葉に詰まった話題は

山本は今後の施策についても述べた。

「これからしっかりと地域の方に寄り添って、健康問題等々をやらなければいけません」

PFOA汚染について話す中で、山本が言葉に詰まった場面がある。

汚染源に関して話し始めたときだ。

「あの原因をつくった・・・」と言いかけたが言葉をのみこみ、表現を変えた。

「この原因・・・究明をしっかりとやるということが大事でございます」

原因究明とは、再発防止のために、なぜ汚染が起きたのかを突き止めるということだ。

そのためには、PFOA含有活性炭の「排出者」の特定が不可欠だ。

PFOAは、国際条約で「廃絶」が定められ、後になって国内法でも製造・輸入が禁止された毒性物質だ。本来であれば、「排出者」が責任をもってPFOA含有活性炭の後始末をしなければならない。にもかかわらず、「排出者」は満栄工業にPFOA含有活性炭を渡した。満栄工業の杜撰な活性炭管理にも問題はあるが、「排出者」が自身で処分していれば、町に持ち込まれることもなかった。

だが汚染発覚から11カ月間、「排出者」は名乗り出ない。町民の健康と財産を預かる町長として、「排出者」を特定し、再発防止策を講じるよう求めないといけない。

ところが山本は、原因究明についてそれ以上触れず、次の話題に話を進めた。

「あえて聞いていない」

山本はこれまでも、「排出者」の特定に積極的ではなかった。

7カ月前の2024年2月21日、私と編集長の渡辺周は山本を役場の町長室で取材した。満栄工業に活性炭を引き渡した「排出者」が誰なのかを尋ねると、山本はこう答えた。

「それはたぶん県等が追及したんじゃないかな」

「町長としては把握されていないのですか」

「わかんない。全く。聞いたことあるけど教えてくれんかったし」

「聞いたことあるっていうのは? 」

「満栄に」

そこで私は、町で原因究明を担う住民課長の古好広徳が「満栄工業への調査では、『大手3社』と聞いています」とTansaの取材に答えたことを教えた。古好は「3社」の具体名も知っている。

なぜ、町の住民課長が知っていて、町長が把握していないのか。

その点を問うと、山本は「僕は今のとこはあえて聞いていない」「とにかくもっと明確になったら、それは必要になる」。

そそくさと選挙カーの窓を閉め

なぜ、首長として「排出者」の特定を急がないのか。

汚染された町営地「財産区」の復旧や、失った水利権、汚染によって生じた数々の損失を誰に請求するつもりなのか。この問題においては、全ての責任が満栄工業にあるわけではない。満栄工業だけに責任を負わせ、再発防止策を取らないでいると、同じことがまたどこかで起こる。PFOAの製造や使用をしている企業にしてみれば、「排出者」としての責任から逃れられる先例となる。PFOAの処理が杜撰になりかねない。

式終了後、私は山本を直撃した。

山本は支援者への挨拶もそこそこに、選挙カーの助手席に乗り込んだ。1日かけて、町内各所を回る。

助手席の窓が少し開いていたので、私は山本に質問した。

「満栄工業にPFOA入り活性炭を引き渡した企業までちゃんと特定しますか」

山本は窓を開けながら、「それはまだまだ、まだまだ。うちがすることやないから」と答えた。

「いやいや、町長の責任で。財産区のトップでも、町長でもありますよね」

そう返している最中に山本は車の窓を閉めた。だが、後部座席の窓が開いている。

私は「(特定を)されない? 」と再度尋ねた。

山本は「いやいや、これからこれから」。

「『これから』されますか? 」。そう確認したが、山本は無視。車が出発した。

山本雅則町長=2024年9月24日、渡辺周撮影

現職の対立候補は

対立候補の森安高広は、無所属の新人だ。岡山市出身で2020年に吉備中央町に移り住み、普段は音楽事務所を経営している。

「PFOA汚染問題を最優先で取り組みたいから」と立候補を決めたという。

私は森安の演説会場へ向かった。

「PFOA汚染問題を最優先で」と主張する森安に、具体的な施策を尋ねた。

まず挙げたのは、血液検査の実施だ。

「血液検査は町民の皆さんが望まれる事なので、早期の実施をする。今は15歳以下は少し後になっているが、私は最初から皆さんに受けてもらおうと思っている」

「血液検査を実施した後も不安がどうしても残る。行政として、起こったことへの謝罪をして、今後どうやって皆さんの思いに直接寄り添えるのかが必要だと思っている。健康観察や、一つのアイデアとして、罹災証明を出せたらと考えている」

では、原因究明についてはどうか。

「満栄工業にPFOA含有活性炭を渡した『排出者』まで特定する気はありますか」と尋ねると、森安は「もちろんです」と即答。

続けて、再発防止策に言及した。

「それと同時に、起こった根本の原因は活性炭ですが、行政内のミスとして、それを町民に知らせなかったのは大きな罪だと、人災だと思っている。行政システムの見直しが大きい取り組みの一つになると思っている」

PFOA汚染発覚3年前の2020年、河平ダムの水が流れ込む円城浄水場では、町の水質調査で国指針16倍の800ナノグラム/LのPFOAを検出していた。ところが町は「800ナノグラム/L」を「1ナノグラム/L未満」と報告。次年度も1,200ナノグラム/Lの高濃度を記録したが、県に報告せず対策も取らなかった。水道水としての供給を続けた。その翌年、県職員が1,400ナノグラム/Lという高濃度に気付き、今回の事態に至った。

森安は「誰が悪いとかではなく、行政のシステムをチェックして、二度とこういうことが起こらないようにしたい」と話した。

私は念押しで、「排出者」の責任について尋ねた。

「『排出者』を特定したら、再発防止のために、責任を追及しますか」

「もちろん、はい」

=つづく

(敬称略)

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