自民支えた企業の半世紀

きっかけは財界提唱「雇用柔軟型」【非正規4割時代-1】

2024年09月27日15時36分 Tansa編集部

FacebookTwitterEmailHatenaLine

30年前の1994年、日本の非正規雇用の割合は20.3%だった。それが2023年には37.1%に。非正規雇用で働く人は不安定な上に賃金が低迷し、将来への不安が募るばかりだ。

政権を長らく運営してきた自民党が、企業献金を受けて、人件費を減らしたい財界の要望に応えてきた。

非正規雇用増加のきっかけとなったのは、日本経営者団体連盟(2002年、経団連に統合)のレポートだ。

タイトルは「新時代の日本的経営―挑戦すべき方向とその具体策」。1995年に提唱した。

【1995年の国民政治協会(自民党への献金受け皿)への支払額トップ50社】

企業名献金額
トヨタ自動車4540万円
東海銀行4291万円
三和銀行4291万円
住友銀行4291万円
あさひ銀行4291万円
さくら銀行4291万円
第一勧業銀行4291万円
東京銀行4291万円
日本興業銀行4291万円
日本長期信用銀行4291万円
富士銀行4291万円
三菱銀行4291万円
日本債券信用銀行4284万円
北海道拓殖銀行4248万円
日本電気4000万円
日本生命保険3410万円
新日本製鐵3000万円
東芝2622万円
日立製作所2622万円
サントリー2503万6000円
日産自動車2500万円
富士通2500万円
第一生命保険2430万円
松下電器産業2382万円
熊谷組2242万円
三菱自動車工業2225万円
住友生命保険2170万円
東京海上火災保険2160万円
本田技研工業2100万円
ソニー2000万円
住友信託銀行1968万円
三井信託銀行1968万円
三菱信託銀行1968万円
安田信託銀行1968万円
三菱重工業1908万円
ホーヤ1850万円
いすゞ自動車1795万円
大和銀行1783万円
東洋信託銀行1739万4000円
スズキ1708万円
大林組1657万8000円
清水建設1657万8000円
大成建設1657万8000円
佐藤工業1645万円
三菱電機1610万円
竹中工務店1607万8000円
安田火災海上保険1560万円
フジタ1557万8000円
三貴1500万円
明治生命保険1460万円

注:各社の支払額には、グループ企業や子会社の献金額は含みません

1995年、財界はバブル経済崩壊後の経済不振と円高に苦しんでいた。円は1ドル70円台に突入した。

「新時代の日本的経営」では、「雇用ポートフォリオ」の導入を提唱した。人件費が増えて経営上のリスクが高まるのを避けるため、「長期蓄積能力活用型」、「高度専門能力活用型」、「雇用柔軟型」の3グループに分けた。

このうち、「雇用柔軟グループ」が、契約と派遣の非正規雇用だ。レポートの作成にあたった成瀬健生氏が(当時の日経連常務理事)2010年、『新時代の「日本的経営」オーラルヒストリー』(慶應義塾大学出版会)で振り返っている。

「何とかしてコストを下げないと、本当に日本経済が潰れるかもしれないという危機意識がありまして」

「正規社員で雇っておいて年功賃金でないというのは難しいので、できるだけ『雇用柔軟型』を活用しようという気持ちはあったと思うんです。それに企業が飛びついたということでしょうかね」

だが、その後の展開は予想していなかった。

「われわれの目算ですと、季節労働者と主婦と学生、その他退職したあとの労働者などを含めて、だいたい2割はそんなにきっちり働かなくていいよという人たちがいるなという感じだったんです」

「非正規雇用が全体の2割だったらば、その人たちはもし不況になって首を切られても帰るところがあるんですよ。今のように35%になると、帰るところがない人が15%になっちゃうでしょ。これはやっぱり、予想外だったですね。残念ですけど、われわれの見通しの甘さ」

自民党は当時、何をしていたのか。

1993年に初めて下野したが、翌年には社会党、新党さきがけとの連立で政権に復帰。「新時代の日本的経営」が出た1995年は、労働者派遣事業の対象業務を見直すことが閣議決定された。

1996年には、労働者派遣法が改定され、対象業務が16から26に増えた。

東京都千代田区永田町の自民党本部=渡辺周撮影

自民支えた企業の半世紀一覧へ