記録のない国

なぜTansaは、国葬文書「不存在」で国を提訴するのか

2024年09月29日16時10分 渡辺周

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Tansaは2024年9月30日、国葬文書の「不存在」決定取り消しを求めて、国を提訴します。

なぜ、安倍晋三・元首相の国葬実施を国会に諮らず、閣議決定で決めたのか。2022年7月、官邸側と内閣法制局の協議記録を、情報公開法に則りTansaが開示請求したところ、不開示決定が出ました。「記録を取っていない」「すでに捨てた」という理由です。

その後、不服を訴える審査請求もしましたが、2024年6月に出た結果は変わりませんでした。

情報公開法は第一条で、法の目的を次のように定めています。

この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。

国葬の実施に関しては、国民の中で賛否が分かれる中、岸田文雄首相は「内閣法制局としっかり調整した」と説明しました。その重要な協議の記録を取っていないはずも、捨てたはずもありません。「記録がない」ことにして、隠しているのです。

法の第一条で謳う「国民に説明する責務」にも、「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政」にも反しています。

民主主義の基本は、記録を残し、それを基に社会を構成するすべての人が検証できるようにしておくことです。情報公開法の第三条でも、開示請求の権利を持つ人について「何人も請求できる」と定めています。日本国民でなくても、日本の社会を良くしたいと考える全ての人に開かれた制度なのです。年齢も問いません。

私たちは、国葬の是非を問いたいのではありません。民主主義が機能不全に陥らないよう、ここで歯止めをかけたいのです。国葬文書だけではなく、近年、政府による公文書の隠蔽や改ざんが横行しているからです。

19世紀のドイツの詩人で、ジャーナリストでもあったハインリヒ・ハイネはこう警告しました。

「本を焼く者は、やがて人も焼くようになる」

実際、20世紀のナチスは自身に不都合な書物を集めて焼きました。焚書(ふんしょ)です。「ドイツ精神に反する」というのが理由です。ハイネの本も焼きました。

日本の公文書も隠蔽に留まらず、焼かれる日がこのままでは来ます。さらに公文書を焼くだけでは済まない日を迎えるかもしれません。

民主主義を尊重するすべての人に、それぞれの立場を越えて今回の裁判を応援していただけることを切望しています。

2024年9月29日

Tokyo Investigative Newsroom Tansa 一同

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今回の裁判では、公文書の隠蔽が続く国家運営の危機を問い、探査報道シリーズ「記録のない国」を通じて膠着した社会に風穴をあけることを目指します。長期の裁判に必要な経費やメンバーを増やすための人件費などが必要です。どうかご支援のほどよろしくお願いします。

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(イラスト:qnel)

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