公害「PFOA」

山本町長、町民に知らせず満栄工業に損害賠償請求/なぜこんなに安いのか【岡山・吉備中央編-19】

2024年10月01日21時30分 中川七海

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2024年9月29日、吉備中央町長選挙の投開票が行われた。現職の山本雅則が4174票で当選、対立候補の森安高広は1646票で敗れた。

山本は、汚染の原因となったPFOA入り活性炭の「元の所有者」の特定と責任追及に後ろ向きだ。元の所有者の特定について、選挙中に尋ねると、「それはまだまだ、まだまだ。うちがすることやないから」と煙に巻いた。

その一方で山本は、町民には知らせないまま、満栄工業にだけ損害賠償を請求していた。PFOA入り活性炭の元の所有者の責任を不問にしたまま、活性炭を引き受けた地元企業だけをターゲットにしたのだ。

吉備中央町・賀陽庁舎=2024年5月30日、中川七海撮影

議会に諮らず損害賠償請求

2024年7月13日、読売新聞がある記事を出した。

見出しは、「浄水場から高濃度『PFAS』原因疑いの企業に町が損賠請求…1億円超か」。

町が社名を伏せ、読売新聞もそれに倣って報じているが、「原因疑いの企業」とは「満栄工業」のことだ。

記事では、こう報じていた。

「発生源の可能性が高い使用済み活性炭を水源ダム上流の資材置き場に置いていた地元企業に対して、町が損害賠償を請求していたことが、町への取材で分かった」

「浄水場が使えなくなったことによる給水対応などにかかった経費で、町は請求額は明らかにしていないが、1億円を超すとみられる」

請求日については、「(7月)2日に、代理人を通して地元企業に請求書を送付したという」。

私は不思議に思った。

損害賠償請求となれば、町の予算にもかかわる重要案件だ。地方自治法第96条では、議会での議決が必要な事案が定められている。損害賠償請求もその一つだ。

第13項 法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること。

町民にも情報を開示しなければいけない。7月2日に請求したのであれば、その日に公表し、記者会見を開くのが筋ではないのか。

なぜ町は、水道水汚染という重大事案の情報を伏せるのか。

5カ月前には「十何億」と言ったのに

請求額にもひっかかった。

読売新聞が「町は請求額は明らかにしていないが、1億円を超すとみられる」と書き、記事を後追いしたNHK、山陽新聞、岡山放送(OHK)も、判を押したように「1億円を超えるとみられる」と報じた。

その後の取材で、賠償額は2億6000万円だという情報を私は掴んだ。

だがそれでも少ないのではないか。

汚染を受けて設置した委員会の人件費や調査費、風評被害への補償金などがかかる上、もっとも費用を要するのは、河平ダムを使えなくなったことで生じる損害だ。

町長の山本は、2024年2月21日、Tansaの面会取材でこう述べていた。

「完全に(新たな水源に)切り替えるまでに十何億だと思う」

PFOA汚染発覚後、町は水道水の取水源を河平ダムから日山ダムに切り替えた。だが日山ダムは、農業用水用の小さなダムなので、今後より安定したダムに切り替える必要がある。

河平ダムであれば、毎年約60万円をダムの管理者である県に支払うことで使用できていた。それが今回の汚染によって、新たに十億円規模の予算がかかることになったのだ。

ブラックボックス

満栄工業に賠償請求したことを町民に伏せる。請求金額は議会での審議も経ずに破格の安さにする。そもそも汚染源となったPFOA入り活性炭を放置していた地元企業が、満栄工業であることを未だに公表していない。山本の判断はあまりに不透明であり、不可解だ。

9月5日、町長の山本宛てに改めて質問状を送った。9月10日、町長名で回答が届いた。

――町は、満栄工業に対して損害賠償請求をしているにもかかわらず、満栄工業が汚染を引き起こした原因者であることを公表していません。その理由を教えてください。

いずれは公表する予定ですが、現在はその時期ではないと判断したため公表しておりません。

――河平ダムを使用できなくした損害について、町から満栄工業に賠償請求をしますか。それとも、請求しませんか。理由と共に教えてください。

河平ダムは岡山県の管理ということもあり、今後の協議になると思われます。

――町から満栄工業に対する2億6000万円の損害賠償請求額の算定根拠を、具体的に教えてください。

相手先への一定の配慮が必要だと思っておりますので、現在のところ金額や内容に ついては公開を控えさせていただいています。金額の正誤についても現段階ではお答えできません。

――満栄工業への損害賠償請求額を、町議会を通さずに決定したことは、問題があると認識していますか。それとも、問題はないと認識していますか。理由と共に教えてください。

議会へは請求の意向を伝えるとともに、金額についても示しております。

これらの回答には、やはり疑問がある。最初の3問に対する回答は「先送り」ということだが、いつやるのか明言を避けている。

議会には請求の意向と共に金額を伝えたというが、議会を開き審議したわけではない上、議員全員に伝えていない。読売新聞の報道で損害賠償請求額を知った議員もいる。

汚染への対処をブラックボックスにする山本の狙いは、どこにあるのだろうか。

=つづく

(敬称略)

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