トヨタ自動車会長の奥田碩氏は2006年、経団連会長としての最終年を迎え、自身の実績に自信満々だった。
2003年の就任以来、経団連の政党評価で自民党に高得点をつけて会員企業に献金を促した。トヨタ自身、率先して自民党に献金。6440万円でトップだった2004年には、法改定で製造業への派遣労働を解禁させることに成功した。
2006年の経団連・経営労働者政策委員会のレポート「経営者よ 正しく 強かれ」では、自画自賛するようにつづった。
「バブル経済とその崩壊によるダメージはきわめて大きく、その後の低迷は長きにわたらざるをえなかったが、日本経済が今日の回復をみることができたのは、政府による構造改革への取り組みもさることながら、なによりわれわれ民間企業の努力によるところが大きいと自負する」
ではどれくらい努力したのか。経営者と従業員が「歯を食いしばった」のだと言う。
「『失われた10年』といわれた苦難の時期に、きびしいスリム化や事業再編に迫られながら、歯を食いしばって将来に向けた研究開発や人材育成への投資を続けてきた経営者、そして従業員の懸命のがんばりが、日本経済をよみがえらせたといっても過言ではあるまい」
「トヨタのお膝元なら・・・」
ところが2008年から09年にかけて、状況が一変する。リーマンショックによる経済危機が訪れたのだ。企業は派遣労働者を雇い止めにする「派遣切り」で乗り切ろうとし、職を失った人たちがまちにあふれた。派遣労働者と請負労働者の失業者は40万人という試算を、派遣会社などでつくる業界団体は出した。
当時、派遣切りに遭った人たちを名古屋市内で取材した。ある中年男性は、同じ境遇の友人ができて、共にネットカフェやサウナを転々としながら職を探していた。公園での炊き出しを利用していたのだが、ふとその友人とはぐれてしまった時があった。「どこに行ったんだろう」と言って不安な表情をしていた。
名古屋にはあの時、職を失った人が全国から流れ着いた。「なぜ名古屋なんですか」と尋ねたことがある。返ってきた答えはこうだ。
「トヨタのお膝元なら何か仕事があるかと思って」
【2008年の国民政治協会(自民党への献金受け皿)への支払額トップ50社】
企業名 | 献金額 |
---|---|
トヨタ自動車 | 6440万円 |
キヤノン | 5000万円 |
三菱重工業 | 4000万円 |
東芝 | 3850万円 |
日立製作所 | 3850万円 |
パナソニック | 3850万円 |
住友化学 | 3600万円 |
住友商事 | 3300万円 |
三井物産 | 3300万円 |
三菱商事 | 3300万円 |
本田技研工業 | 3100万円 |
新日本製鐵 | 3000万円 |
JFEスチール | 3000万円 |
日本郵船 | 3000万円 |
野村ホールディングス | 2800万円 |
武田薬品工業 | 2637万円 |
三菱電機 | 2520万円 |
ソニー | 2500万円 |
大和証券グループ本社 | 2500万円 |
伊藤忠商事 | 2500万円 |
日産自動車 | 2400万円 |
マツダ | 2200万円 |
丸紅 | 2000万円 |
ダイハツ工業 | 1910万円 |
清水建設 | 1880万円 |
鹿島建設 | 1826万円 |
旭化成 | 1800万円 |
日本電気 | 1800万円 |
富士通 | 1800万円 |
大成建設 | 1796万円 |
東京海上日動火災保険 | 1764万円 |
日野自動車 | 1760万円 |
いすゞ自動車 | 1720万円 |
日本生命保険 | 1696万円 |
スズキ | 1660万円 |
IHI | 1600万円 |
昭和電工 | 1600万円 |
富士重工業 | 1580万円 |
大林組 | 1575万円 |
竹中工務店 | 1575万円 |
三井不動産 | 1500万円 |
東レ | 1500万円 |
味の素 | 1500万円 |
住友金属工業 | 1500万円 |
神戸製鋼所 | 1500万円 |
トーエネック | 1400万円 |
関電工 | 1380万円 |
凸版印刷 | 1340万円 |
王子製紙 | 1300万円 |
きんでん | 1300万円 |
注:各社の支払額には、グループ企業や子会社の献金額は含みません
東京都千代田区大手町の経団連会館=渡辺周撮影
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