日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。
なぜ自公政権は、防衛費を激増させるのか。
2023年度から2027年度の5年間で総額43兆円。以前の計画の1.6倍にもっていく。
岸田文雄・前首相のもとで、2022年に閣議決定した。閣議決定とは、内閣の大臣たちだけで決めることだ。国会での審議は必要ない。
中国や北朝鮮が、日本を攻撃した時に備える。あるいは攻撃してこないための抑止力を持つ。そのために防衛費を増やすというのが、自公政権の理屈だ。
だが本当にそのための増額だろうか。
「憲政の父」と言われる政治家、尾崎行雄は1937年の議会で、軍事費の増加を批判した。
「仕方がないで済ませれば今後益々軍事費が増え、国民は生活に不安を感じるようになる」
「軍備の拡大競争になった時、相手国と同等以上の軍事力を持つことができるのか。国防は相手があることなので、こちらが軍備を拡充しても相手がそれを上回れば国防は危うくなる」
尾崎の言葉は今に当てはまる。
すでに生活不安を抱えている人が多い中、防衛費が増大すれば、暮らしを支える予算を圧迫しないのか。増税はどの程度なのか。不安は募る。
日本経済が斜陽の中、中国と軍備の拡大競争をして勝てる見込みもない。
ではなぜ、戦前と同じ失敗を繰り返す危険をおかしてまで、防衛費を増やすのか。
Tansaは、自民党と軍需企業との蜜月に着目した。
三菱重工、前年比4.6倍の1兆6800億円受注
1989年12月、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領と、米国のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が地中海のマルタ島で会談し、冷戦終結を宣言した。日本が新たな国際秩序の中で歩み始めた1990年から、最新のデータが揃う2023年までを対象に、以下の3点を調べた。記事最下部に表を掲載した。
①防衛省側から軍需企業に対する戦闘機や艦船、燃料など装備品の発注額(各年トップ20社分)
②軍需企業トップ20社から、自民党の献金窓口である国民政治協会への献金額(公開されている2022年分まで)
③日本経団連など軍需企業側の政策要望、政治への関与
各年のトップ20社の受注額は、33年間の合計で36兆4182億円だった。
一方で献金の総額は120億円。自民党への献金額に比べて、桁違いの金額を受注する構図だ。
2023年は、三菱重工業が1兆6803億円受注した。前年比4.6倍だ。IHIや日本電気(NEC)、日立製作所、富士通も前年比で3〜4倍の金額を受注している。自公政権が2022年12月、防衛3文書を閣議決定し、防衛費を2027年までに1.6倍に増やすと決めたことが受注を増やした。
石破首相、「利益を受ける会社からいただく」
どんどん増える防衛費をどうやって賄うのか。石破茂首相は今年9月の総裁選の最中、NHKの番組で防衛増税について次のように述べた。
「防衛費の増額によって利益を受ける会社からいただくことを真剣に考えたい」
衆議院選挙の公示日である10月15日にもNHKの番組に出演し、「負担能力のある方々や法人に負担していただくことは当然考えなければならない」と言った。
だが、軍需企業側が負担に応じるだろうか。
軍需企業側は日本経団連とともに、「そこまで利益を優先するか? 」と驚くような政策要望を長年にわたってしてきた。自分たちの利益を削ぐことに対して、そう簡単に同意するとは思えない。
次回からは、その時々の軍需企業側の要望を、受注額・自民党への献金額と合わせて報じていく。
【政治と軍需企業】の記事を読む
(2)三菱重工業会長から防衛庁長官へのお願い/冷戦終結後も「発注減らさないで」
(3)「武器輸出、アメリカは別だ」 態度豹変させた経団連/禁止原則「骨抜き」の始まり
(5)「宇宙の利用は平和目的限定」の国会決議/ビジネスには「邪魔だ」
(6)安倍政権で加速した「軍産複合体」への道/「武器輸出3原則」は廃止
(8)「まるでキックバック」の三菱重工と自民/決壊した「平和国家」の堤防
親会社名 | 受注額(1990-2023) | 献金額(1990-2022) |
---|---|---|
三菱重工業 | 11兆6182億4300万円 | 8億2046万円 |
川崎重工業 | 5兆1785億9800万円 | 1億4953万円 |
三菱電機 | 3兆8060億4000万円 | 7億7865万円 |
日本電気 | 2兆7995億3700万円 | 6億4930万円 |
IHI | 1兆9310億8700万円 | 3億6989万円 |
東芝 | 1兆5698億9700万円 | 8億1182万2000円 |
富士通 | 1兆3698億2200万円 | 5億8340万円 |
小松製作所 | 1兆199億4000万円 | 2億1260万円 |
日立製作所 | 7450億1100万円 | 11億5379万円 |
SUBARU | 6375億7200万円 | 5億7263万円 |
ジャパン マリンユナイテッド | 5808億2600万円 | 870万円 |
日本製鋼所 | 5476億3500万円 | 1629万円 |
ダイキン工業 | 5005億7800万円 | 1億4220万円 |
伊藤忠商事 | 4771億9600万円 | 8億1197万5000円 |
沖電気工業 | 4492億5200万円 | 8350万円 |
ENEOSホールディングス | 3850億5700万円 | 3億59万200円 |
コスモエネルギーホールディングス | 2999億200万円 | 2552万4600円 |
JECC | 2879億3300万円 | 0円 |
中川物産 | 2650億1600万円 | 0円 |
三井E&S | 2610億6600万円 | 8247万円 |
日産自動車 | 2488億5700万円 | 9億8423万円 |
日立造船 | 2015億4700万円 | 8966万円 |
新明和工業 | 1721億2900万円 | 1380万円 |
出光興産 | 1482億2000万円 | 7711万7400円 |
三菱商事 | 1305億8800万円 | 8億3792万円 |
スカパーJSATホールディングス | 1221億円 | 0円 |
住友商事 | 1076億2300万円 | 7億8619万円 |
ジーエス・ユアサ コーポレーション | 1072億円 | 2085万円 |
ANAホールディングス | 928億円 | 1億5800万円 |
いすゞ自動車 | 923億8500万円 | 5億6978万円 |
住友重機械工業 | 824億5200万円 | 9395万円 |
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 | 754億円 | 0円 |
GEアビエーション・ディストリビューション・ジャパン | 569億円 | 0円 |
兼松 | 565億円 | 7073万円 |
日清紡ホールディングス | 353億円 | 2178万円 |
山田洋行 | 319億100万円 | 0円 |
日油 | 300億4000万円 | 486万円 |
高速マリン・トランスポート | 250億円 | 0円 |
フジクラ | 249億円 | 1331万円 |
エム・シー・シー | 228億3400万円 | 0円 |
カメイ | 184億5600万円 | 199万5000円 |
エアバス・ヘリコプタージャパン | 175億円 | 0円 |
島津製作所 | 147億800万円 | 6093万円 |
阪和興業 | 111億円 | 568万円 |
JFEホールディングス | 110億8800万円 | 7億3014万円 |
クラレ | 100億円 | 129万4800円 |
大倉商事 | 90億円 | 610万円 |
※防衛省や防衛装備庁の資料等から集計
(10月26日訂正)
集計の際、三菱電機の2023年分の受注額の入力漏れがありました。33年間での合計受注額は3兆5375億4000万円から3兆8060億4000万円となりました。サムネイル画像と本文の表を訂正しました。
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