自民支えた企業の半世紀

「まるでキックバック」の三菱重工と自民/決壊した「平和国家」の堤防【政治と軍需企業-8】

2024年10月27日12時23分 Tansa編集部

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衆院選で最後の訴えをする石破茂・自民党総裁(東京都江東区)=2024年10月26日、渡辺周撮影

日本経済が斜陽の中、なぜ自公政権は防衛費を増やすのか。背景には、政府からの兵器受注で莫大な利益を得る軍需企業と、そこから献金を受ける自民党との蜜月関係があった。冷戦終結後から現代に至るまでの、財界と自民の足取りをたどる。

「防衛大臣、なぜここに三菱重工会長が入っているんですか。どういう役割を期待していますか」

2024年3月の参議院予算委員会。立憲民主党の辻元清美議員が、木原稔・防衛大臣を質した。防衛省は前月に「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」を設けた。座長は経団連名誉会長の榊原定征氏。東レ出身で、安倍晋三政権の時に経団連の会長を務めた人物だ。

有識者会議には三菱重工業の宮永俊一会長が、委員として参加している。三菱重工は多額の兵器生産を受注しており、辻元議員はそのことを問題視した。

「総理、今年度も1兆円ですよ、発注しています。そういう利害関係者を有識者会議、防衛政策の、任命するのは、私、たとえこの方が立派な方であったとしても、それから三菱重工のためにも、変なこと言われないように控えた方がいいと考えますが、いかがですか」

だが答弁に立った岸田文雄首相は言う。

「防衛産業に関わっている方からの意見も聞かせていただくためにメンバーとして入っていただく、全体の構成を考えた場合には不自然ではないと考えます」

辻元議員は、三菱重工から自民党への企業献金に話題を移す。自民党の献金を受け入れる政治資金団体「国民政治協会」への献金額を尋ねた。

岸田首相は2020年から2022年、毎年3300万円の献金を受けていると答えた。この際、岸田首相は「現在公開されている政治資金収支報告書の範囲でお答えする」と3年分しか言わない理由を述べた。法律で報告書の保存期限が3年と定められている。だが、今回Tansaが官報から収集したデータによると、三菱重工の献金額は1990年から2022年までで8億2046万円に上る。

辻元議員が指摘する。

「結局、国の根幹に関わる防衛政策の会議にその政策でもうける利害関係者を入れて多額の発注をし、自民党が政治献金を受け取る、還流している、まるでキックバックじゃないですか。こういうことが駄目だから企業・団体献金禁止をしようと言っているんですよ」

もっと、もっと

経団連の元会長である榊原氏が座長、三菱重工会長の宮永氏が委員に入った有識者会議は、防衛費の増額を検討するよう求めている。防衛費は2023年度から2027年度の5年間で総額43兆円。以前の計画の1.6倍にすることはすでに決まっている。有識者会議の要望は、それよりも更に増やせというものだ。

しかし、下記の表のように軍需企業各社は2022年から2023年にかけて大幅に受注を増やしている。三菱重工は前年比4.6倍の1兆6803億円だ。

軍需企業の増長を許しているのは、自民党だ。献金と要望をセットで受け入れ続けた結果、「平和国家」の堤防は決壊してしまった。2022年12月16日、敵基地攻撃能力の保有などを明記した「安保3文書」を閣議決定し、防衛費を従来の1.6倍に増やすと決めたのはその象徴だ。

今日は衆院選の投票日だ。自民党に国の舵取りをこのまま任せていいのか。

★2021年から2023年における、政府からの防衛関連の受注額上位10社。上段が受注額。下段が国民政治協会(自民党への企業・団体献金を受け入れる政治資金団体)への献金額。献金額はデータが公開されている2022年までを掲載。

親会社名 2021年 2022年 2023年
三菱重工業
4591億円 3652億円 1兆6803億円
3300万円 3300万円
川崎重工業
2071億円 1829億円 3886億円
300万円 300万円
日本電気(NEC)
900億円 944億円 2954億円
1500万円 1800万円
三菱電機 966億円 752億円 2685億円
2000万円 2000万円
富士通 757億円 652億円 2096億円
1500万円 1800万円
東芝 664億円 363億円 1283億円
0円 0円
IHI 575億円 291億円 1257億円
1000万円 1000万円
日立製作所
342億円 218億円 793億円
4350万円 3850万円
日本製鋼所
138億円 254億円 570億円
0円 0円
SUBARU
417億円 0円 466億円
1700万円 1700万円

注記
・受注額は防衛省・防衛装備庁の資料等から集計
・子会社の受注額及び献金額は現時点での親会社に統合して集計
・当時の社名は現在の社名に表記を統一

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