公害「PFOA」

活性炭リサイクルを使った「ごまかし」/PFOA廃絶には「1100℃以上の高温処理」が必須なのに【岡山・吉備中央編-23】

2024年10月29日23時13分 中川七海

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満栄工業の外壁には「〜水と空気と子どものために〜 活性炭を通じて未来の環境を守ります」=2024624日、中川七海撮影

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自然豊かな高原都市・岡山県吉備中央町。PFOA工場のないこの町で、全国一の水道水PFOA汚染が起きてから1年が過ぎた。

汚染原因は、PFOA含有活性炭だ。

町外の企業がPFOAを吸着した活性炭を、町内の企業「満栄工業」に引き渡した。満栄工業は、その活性炭を資材置き場に放置。時の経過とともに活性炭からPFOAが漏れ出し、取水源のダムに流れ込んだ。ダムのPFOA濃度は国指針の28倍の値から、この1年で32倍に達した。この水は、今も下流に流れている。

町民は何も知らないまま、PFOAに汚染された水道水を飲まされていた。汚染発覚後、不安を感じた住民の中には、自ら検査機関を探し血液検査を受けた人たちがいた。27人全員から、高濃度のPFOAが検出された。2歳児も含まれる。

吉備中央町でのPFOA公害は、日本のどこで起きてもおかしくない。本来、環境中から廃絶すべきPFOAの後始末に、企業も行政も責任を持たないからだ。どの企業のPFOA含有活性炭が、吉備中央町に持ち込まれたのか。そのことすら、未だに分からない。

なぜ、廃絶すべきPFOAを含んだ活性炭が処分されず、企業間で取引されているのか。そこには、活性炭リサイクルを活用した「ごまかし」があった。

環境省のガイドラインでは

PFOAに関して、押さえておくべき重要な点がある。

それは、2019年に国際条約で廃絶が定められたということだ。発がん性など人体への悪影響がある上、残留性が高いことが理由だ。これを受け、日本でも2021年に経産省が製造・輸入を法律で禁じた。

ただ経産省は、PFOAの「後始末」については関与しない。環境省が担当した。

環境省が実施したのは、全国の河川や地下水の汚染実態調査だ。PFOAは残留性が高い。たとえ製造をやめても、処分されない限り存在し続ける。調査の結果、すでに工場などから排出されたPFOAが全国各地で検出された。

2022年には、環境省はPFOA含有物を処理するためのガイドラインを公表した。

ガイドラインでは、PFOAを1,100℃以上の高温で処理することを示した。PFOAは、数ある化学物質の中でも分解されにくい。家庭ごみなど一般廃棄物用の焼却炉(800℃〜1,000℃)では無くならない。「燃やす」というより「溶かす」状態にして初めて、環境中から無くなるのだ。

1100℃以上の炉は全国に数箇所

活性炭は、水に含まれる化学物質を吸着させるために利用される。PFOAもその一つだ。PFOA取扱工場や浄水場などで用いられている。

本来ならば環境省のガイドラインが定めているように、PFOAを吸着させた活性炭は1,100℃以上で燃やして処分しなければならない。

だが、使用済み活性炭がガイドライン通りに処分されるケースは稀だ。なぜか。

理由は、1,100℃以上で高温処理できる施設が国内で限られている上、費用が高くつくことにある。

800℃〜1,000℃の一般廃棄物用の焼却炉は全国に1000箇所以上ある。一方、1,100℃以上の炉は全国に数箇所しかない。超高温のため、一般廃棄物用とは施設の構造から異なる。稼働するためのコストも一般廃棄物用より高額だ。

「処分」ではなく「移動」させているだけ

そうはいっても、PFOAを吸着させた活性炭を持つ業者が、自身で保管し続けることはできない。

そこでよく使われる方法が、活性炭リサイクルだ。

リサイクルするのだから、「廃棄物」ではなく、「資材」となる。だから廃棄処分についての環境省のガイドラインは関係ないという理屈だ。

だが問題は、リサイクルのプロセスを経ても、環境中のPFOAは減らないということだ。

どういうことか。

PFOA含有活性炭をリサイクルするのに用いられているのは、「賦活(ふかつ)処理」という方法だ。熱や薬品による処理を施し、吸着した物質を取り除くことで、再び化学物質を吸着できる状態に戻せる。

しかし、 PFOAは1,100℃以上で燃やさないと無くならない。賦活処理は、活性炭からPFOAを取り除いているだけであって、PFOAは環境中に再び出回る。

いわば、PFOAを処分せず、移動させているだけなのだ。

高温処理していれば・・・

吉備中央町の汚染は、満栄工業が賦活処理すらしないまま、PFOA含有活性炭を放置。その間にPFOAが活性炭から漏れ出し、水源に混入したケースだ。

だが満栄工業だけに責任があるわけではない。

もし満栄工業にPFOA含有活性炭を渡した企業が、リサイクルを依頼せずに1,100℃以上で廃棄処分していたとしたらどうだろう。今回の汚染は起きなかったはずだ。

満栄工業と使用済み活性炭の取引をしていた企業としては、大手活性炭メーカーの「クラレ」や「大阪ガスケミカル」が判明している。

両社ともに、汚染を引き起こした活性炭を自社が渡した可能性は低いという見解を示している。Tansaの取材に答えた。

しかし、汚染を引き起こした可能性が少しでも残るならば、徹底的に調査するべきだ。

神戸や京都でも

PFOA含有物の後始末に本腰で取り組まないと、廃絶どころか、場所を変えて汚染源が広がってしまう。

実際、吉備中央町以外でも汚染が起きている。神戸市西区や京都府綾部市では、PFOA含有廃棄物の不適正な処理による汚染が判明した。

Tansaでは、「終わらないPFOA汚染」を終わらせるため、引き続き取材を重ねる。「岡山・吉備中央編」は、今後は随時続報する。

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