公害「PFOA」

ダイキンが大阪府の報道発表案を作成/PFOA汚染で府の指導方針まで記述

2024年12月19日18時00分 中川七海

FacebookTwitterEmailHatenaLine

ダイキン工業・大阪府・摂津市の「第10回神崎川水域PFOA対策連絡会議」での配布資料。「(案)大阪府HP公表見直し案」には「ダイキン工業作成」の記載。

大阪府の報道発表の文案を、ダイキン工業が作成していたことが判明した。府への情報公開請求でTansaが入手した文書の中に、「ダイキン工業作成」と明記された文案があった。

この報道発表は、2012年に府がリリースした。大阪府摂津市のダイキン淀川製作所が引き起こすPFOA汚染に関するものだ。同社の取り組みだけではなく、府の指導方針を示している。

府は淀川製作所を「汚染の主たる原因」と断定している。本来なら厳正な調査を行い、ダイキンを監督する府としての方針を独立して示す必要がある。ダイキンが府の報道発表の文案を作成していた事実は、公害原因企業と行政の癒着の構図を象徴するものだ。

両者の癒着を示す事例は、これ以外にも様々にある。

汚染発覚から20年。だが現在も、汚染の拡散防止や除去などの対策は遅々として進まない。

ダイキンの文案を反映

報道発表の文案は、2012年9月12日の第10回3者会議で配布された資料の中にあった。Tansaが大阪府への情報公開請求で入手した。

3者会議とは、府、摂津市、ダイキンによる「神崎川水域PFOA対策連絡会議」のことだ。2004年に淀川製作所周辺で世界最高濃度のPFOA汚染が発覚したことを機に、2009年10月に発足した。現在も継続中で、これまでに27回開催している。

第10回会議では、ダイキンが2つの文案を提示した。

一つは「(案)ダイキンHP見直し案」だ。自社のホームページに掲載する汚染防止対策について、文面を見直すと伝えた。

もう一つが、大阪府が報道発表する際の文案だった。報道各社に提供するとともに、府のホームページにもアップするための文案だ。

(案)大阪府HP公表見直し案

 

ダイキン工業株式会社淀川製作所は、これまで処理後の排水の分析頻度を上げ、処理装置の維持管理を強化するとともに、平成23年度におけるPFOAの取扱量を平成12年度と比べ99%以上削減しています。さらに、平成24年末までにはPFOAの使用を全廃するとしております。

(今後、排水中のPFOA濃度の監視は同社に委ねますが、府は、引き続き同社の取組状況を把握するとともに、必要に応じて指導を行ないます。)

このダイキン案はダイキンの取り組み状況だけではなく、府の指導方針にまで踏み込んでいる。府はこの案を採用したのだろうか。私は、この日の会議を受けて府がリリースした報道発表資料を確認した。

ほぼダイキンの文案通りだった(太字がダイキン作成文案と同じ文言)。

ダイキン工業株式会社淀川製作所は、これまで処理後の排水の分析頻度を上げ、処理装置の維持管理を強化するとともに、平成22年度におけるPFOAの取扱量を平成12年度と比べ95%以上削減しています。さらに、平成24年末までにはPFOAの使用を全廃するとしており、それまでの間、排水中のPFOA濃度の監視を継続するとしています。府は、引き続き同製作所取組状況を把握するとともに、必要に応じて指導を行います。

大阪府・ダイキン 1回目回答「事実はない」

行政が、指導対象の当事者を報道発表の作成過程に関わらせる。その当事者が作成した文面を、ほぼそのまま公表するーー。前代未聞だ。

私は、大阪府とダイキンに質問状を送った。PFOA汚染に関する府の報道発表の文面をダイキンが作成することが適切か否かを問う内容だ。

府は事業所指導課の職員で、現在の3者会議に参加する窪田剛氏が回答してきた。府の広報に責任がある広報広聴課が回答するよう再三にわたって求めたが、事業所指導課に質問状を回された。

そのような事実はありませんのでご連絡いたします。

ダイキンは、広報の徳地晃宏氏から回答があった。

当該プレスリリースについて、弊社が文面を作成した事実はございません。

両者とも事実自体を否定してきた。

だが、手元には「ダイキン工業作成」と明記している報道発表案の文面がある。しかも府自身が、情報公開請求に対して開示した文書だ。動かぬ証拠である。

私はスキャンした証拠文書をメールに添付した上で、再度両者に質問を送った。

大阪府2回目回答「ダイキンから提案は受けた」と認める

大阪府は前回同様、事業所指導課の窪田氏から回答が届いた。

貴社が主張するような事実はありません。

 

一般的に、報道発表に限らず、府が作成する資料に個人や企業に関する事項を記載する場合、事実誤認がないように当該個人又は企業にその記載内容の事実関係について確認することは通常よく行われることです。

 

したがって、府の報道発表資料にダイキン工業の取組状況を記載するにあたり、その内容についてダイキン工業に事前に確認することは何の問題もないと考えています。

 

また、2012年9月の神崎川水域PFOA対策連絡会議における「ダイキン工業作成資料」は、ダイキン工業の取組状況やダイキン工業自身のHPの掲載内容を踏まえ、2012年度報道発表資料の記載案としてダイキン工業から提案を受けたものです。

 

府は、ダイキン工業の取組みや公表の内容を考慮しつつ、ダイキン工業作成資料をそのまま採用することはなく、府の責任の下で2012年の報道発表資料を作成しています。これは、2011年度と2012年度の報道発表資料を比較すればお分かりいただけます。

 

以上のとおり、府の報道発表資料をダイキン工業に作成させていたという事実は存在しません。

相変わらず、「貴社が主張するような事実はありません」と事実を否定している。理由としては「事実関係について確認することは通常よく行われる」ことなどを挙げているが、こちらは文案が「ダイキン工業作成」であることを問うている。関係のない論点だ。

だが1回目の回答と大きく違う点がある。

それは府が「2012年度報道発表資料の記載案としてダイキン工業から提案を受けた」と認めていることだ。1回目の回答は「そのような事実はありませんのでご連絡いたします」の1文だけだった。証拠を示されて、回答を後退させたのだろう。

ダイキン2回目回答、大阪府と食い違い

ダイキンの2回目の回答は以下の通りだ。

当該プレスリリースについて、弊社が文面を作成した事実はございません。

 

弊社は、大阪府からの要請により、弊社のPFOA対策の内容を大阪府に説明しております。

 

しかしながら、当該説明が大阪府内部でどのように取り扱われたかについて、弊社は関知しておりません。

このダイキンの回答は、大阪府の2回目の回答と大きく食い違っている。府はダイキンから「2012年度報道発表資料の記載案としてダイキン工業から提案を受けた」と認めているからだ。

しかもメールで送った2回目の質問には、「ダイキン工業作成」と記された文案を添付している。そこには、ダイキンのPFOA対策にとどまらず、府の指導方針についての記述まで含まれている。

私はダイキンに、以下のようにメールを送った。

「当該プレスリリースについて、弊社が文面を作成した事実はございません」とのご回答ですが、前回のメール添付にある通り、プレスリリースの文面を示した文書に「ダイキン工業作成」と記載されています。この文書は、当方が情報開示請求によって大阪府から入手した公文書です。  

また、大阪府も貴社の提案であることを認めています。  

事実と反する主張を、貴社がされていると当方は受け止めます。広報対応の改善を求めます。

ダイキン3回目回答、Tansaの編集内容に注文

広報の徳地氏から、3回目となる返信が届いた。

お示しいただいた資料に「ダイキン工業作成」と記載されていることから、「大阪府のリリースをダイキンが作成している」と解釈されているものと、拝察いたします。

 

弊社は、大阪府からの要請により、弊社のPFOA対策の内容を大阪府に説明しております。もっとも、弊社が説明した内容を最終的に大阪府がプレスリリースに反映するかどうか、また、どのように反映するかについては、大阪府にて判断されたものと理解しており、これらを含め、当該説明内容が大阪府内部でどのように取り扱われたかについて、弊社は関知しておりません。

 

以上の回答全文をもって、お示しいただいた資料に係る貴社の質問に対する弊社の回答といたします。弊社の回答を記事において紹介される際には、一部のみを切り取ることや独自の解釈による修正を加えることなく、回答全文を掲載いただきますようお願いいたします。

ダイキンの希望通り、回答の全文を掲載した。だが、報道発表の文面を作成して大阪府に提案したかどうかについては答えていない。

支離滅裂な回答ではあるが、Tansaの記事編集に対して、一部のみを切り取ったり独自の解釈を加えたりしないよう注文をつけてくることは興味深い。ダイキン自身、苦しい弁明をしていることは分かっていて、自社の体面を守るため必死なのではないだろうか。

世界の動向を行政に「口止め」するダイキン

問題が深刻なのは、大阪府とダイキンの癒着が、2012年の報道発表に留まらないことだ。

例えば、2009年10月23日に実施された第1回3者会議でのこと。今から15年も前、すでにダイキンはPFOA規制について世界の動向を把握していた。ダイキンの担当者は、府と摂津市の担当者に「口止め」を要請する。

「現段階では連絡会内での情報としてとどめておいていただきたいが、米国EPAでは2015年にPFOAを禁止物質とする動きがあるとのこと。」

米国EPA(環境保護庁)は、PFOAを所管する省庁だ。2000年にPFOAの危険性をアナウンスし、それを受けPFOA製造で世界トップを走っていた3M社が市場からの撤退を発表した。3Mは、ダイキンのかつてのPFOA取引相手だ。

さらにこの日の会議でダイキンは、大阪府が実施する水質調査の結果公表に関して、こう要望した。

「公表前に連絡会を開いて、意見調整をする機会を与えていただきたい。」

ダイキン、汚染を把握しながら市民には「問題なし」

2011年6月13日の第8回会議では、地下水汚染が議題に上がった。

淀川製作所の地下には、高濃度のPFOAを含んだ水が溜まっている。ダイキンは地下水を汲み揚げ、浄化処理して濃度を下げた水を下水放流している。大阪府が「地下水の処理は今後も継続するのか?」と尋ねた。

ダイキンは「処理する限りは河川水への排出は続くことになるが」と述べ、こう続けた。

「地下水は敷地外とつながっていること、高濃度であることから、地下水汚染の拡散防止・除去を行う必要があると考えている。」

つまりダイキンは、高濃度のPFOA汚染水が、地下を通じて工場敷地外へと広がる危険性について、はっきりと認識しているのだ。実際、環境省の全国一斉調査によって、淀川製作所のある摂津市や、隣接する大阪市東淀川区の地下水から、全国一の高濃度PFOAが検出された。

ところがダイキンは、工場敷地外の地下水汚染について長らく認めてこなかった。Tansaの追及に対して、2022年にようやく「汚染源の可能性の一つ」とだけ認めた。

ダイキンによるPFOA汚染が広く報じられ始めた頃は、市民からの問い合わせが同社にあっても、地下水汚染の深刻さを伝えていなかった。2019年12月25日の第18回会議では、ダイキンが次のように報告している。

「(大阪市)東淀川区のお寺の近くの方から、畑に地下水をまいているが問題ないかとの問い合わせが1件あった。問題なしと回答した。」

住民の願い

大阪府が住民ではなく、ダイキンの方を向いている構図は今も続いている。

2024年6月、被害住民や医師らからなる「大阪PFAS汚染と健康を考える会」が、大阪府知事に対して要望書を提出した。企業を指導する立場にある行政機関として、府からダイキンに対応を迫るよう求めた。

ところが府は、要望書そのものをダイキンと共有していた。情報公開請求により、2024年9月3日の第27回会議で配布していたことが分かった。

会事務局長の長瀬文雄氏に確かめると、無断共有だった。長瀬氏も、自身で行った府への情報公開請求でこの事実を知った。

2024年11月28日、長瀬氏ら会のメンバーと府事業所指導課が面談した。事業所指導課は、3者会議で要望書を見せて、ダイキンに「お願い」したと伝えた。

住民たちは、すでにダイキンに対しても汚染への対応を求める要望書を提出している。

それとは別に府にも要望書を提出するのは、府からダイキンに「お願い」をしてほしいからではない。

府として、公害原因企業を指導監督してほしいのだ。

Tansaは、PFOA汚染の被害を食い止めるため、汚染原因企業と行政を徹底追及します。探査報道には資金が必要です。本シリーズへのご支援をお願いいたします。寄付はこちらから。

公害「PFOA」一覧へ