人質司法 なぜ労組は狙われたのか

関西生コン事件で無罪判決! /懲役10年求刑された関生支部委員長に/京都地裁「関生支部は産別労組」、恐喝とは「到底評価できない」

2025年02月26日20時00分 渡辺周、中川七海

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関生支部の組合員たちは結束し弾圧を乗り越えてきた=2025年2月8日、沖縄県でのシンポジウム会期中に(中川七海撮影)

警察と検察が作り上げた事件に対し、裁判所が待ったをかけた。

2025年2月26日、生コン産業の労働組合「関生(かんなま)支部」の湯川裕司・委員長と武建一・前委員長への判決公判が京都地裁で開かれた。

恐喝や強要未遂などの罪で、懲役10年を検察に求刑されていた2人に対し、京都地裁は無罪判決を出した。

検察のストーリーは、「生コン会社の経営者で作る『京都生コンクリート協同組合』(京都協組)に対して、ストライキにより畏怖させ、解決金を脅しとるスキームを関生支部が持っていた」というもの。これに対し、川上宏裁判長は真逆の判断をした。

「畏怖に乗じて現金を脅し取ったなどとは到底評価できない」

判決を支えるのは、被害届を出した京都協組は関生支部と良好な関係にあったという事実と、ストライキは憲法28条で保障された労組活動であるという大前提だった。

これで関生支部への一連の弾圧における無罪判決は、7件延べ19人に上る。

「おっしゃーー! 」

午前10時3分、川上宏裁判長、檀上信介裁判官、中谷洸裁判官が入廷し、一礼の後に開廷した。

法廷の左右の壁面に設置されたモニターには、事件名と、「判決」の文字が大きく映し出される。

湯川氏と武氏に判決前の主張を確認し終えた10時8分、川上裁判長が持参したペットボトルの水を口に含み、告げた。

「両被告人はいずれも無罪」

モニターには「無罪」の字が表示された。

満員の傍聴席からは、拍手が湧き起こる。

「おっしゃーー! 」「当然や! 」

川上裁判長は「静かにしてください」となだめ、判決文の読み上げに移った。

ストライキは当然

川上裁判長はまず、関生支部について「産業別・職業別労働組合である」と定義した。

この裁判では、関生支部への一連の事件で唯一、労働法学者が証言している。元立命館総長・学長で、立命館大学名誉教授の吉田美喜夫氏だ。吉田氏は、産業別労組の役割と重要性をすでに説いている。所属企業を越えて連帯し、経営側にストライキなどの実力行使をすることによって、労働者の要求を実現させるのは当然だという内容だ。

そのことは、懲役10年という重い刑が求刑された最大の原因、通称「ベストライナー事件」への判断に影響した。

ベストライナー事件は、2014年8月に起きた。ベストライナーというミキサー車を手配する会社が解散する際、従業員の退職金や正社員化の約束を果たさなかった賠償金として、京都協組が関生支部に1億5000万円の「解決金」を支払った。

これが恐喝だと主張する検察に対し、川上裁判長はストライキの正当性について述べた。

「京都協組側が協定内容を履行しなかったことに応じてされたもの」

「そもそも、ストライキをはじめとする争議行為は、その性質上、労働組合が使用者に一定の圧力をかけ、その主張を貫徹することを目的とする行為であって、業務の正常な運営を阻害することはもともと当然に予定されている」

さらに川上裁判長は、ストライキは京都協組が約束を守らなかったから実施されたのであり、「自然なこと」と述べた。ストライキの際も言い争いすらなく、畏怖などさせていないと判断した。1億5000万円という金額も、過去の労働争議に比べて高くはないと評価した。

京都協組は被害者どころか関生支部と協力関係

もう一つの恐喝事件、「近畿生コン事件」では京都協組の理事だった久貝博司氏が、関生支部の被害者どころか協力者であったことが、無罪の根拠となった。

近畿生コン事件は2016年11月に起きた。京都協組加盟の近畿生コンが突然、破産申し立てをしたのを受け、6000万円の解決金を京都協組が関生支部に支払った。破産手続き中の従業員の給料や、近畿生コンの工場が京都協組に加盟していない業者に渡らないよう関生支部が占拠したことへの対価だ。占拠が必要だったのは、京都協組に未加盟の業者が操業すると、生コンの安売り合戦が始まりかねないからだ。京都協組と、労働者の賃金水準を維持したい関生支部双方の利益にかなう。占拠自体、未払いの賃金や退職金を確保するために労組がとる手法だ。

この事件も検察は、関生支部が京都協組を畏怖させたと主張していた。

しかし、川上裁判長は両者が協力関係にあったと指摘した。

「京都協組の理事らにおいては、関生支部によるプラント占拠を京都協組の利益や目的に沿うものと受け止めていた」

検察の拠り所は、京都協組の役員を務め、関生支部との窓口だった久貝氏が「被害者」であることだった。それを裁判所がひっくり返して、久貝氏は関生支部と良好な関係にあったことを認めたのだ。

久貝氏が警察と検察に威迫され、被害者の立場に転じたことは、「【作られた京都事件 -前編】犯罪者に仕立て上げられるか、嘘の供述をするか/関生支部を告訴した経営者の無念」で報じた通りだ。

「労組活動に一層の確信」

湯川氏は、法廷に入ってきた時の川上裁判長の柔らかい表情を見て無罪を予感した。和歌山での事件について、大阪高裁で無罪判決が出た時も、裁判長の表情が柔らかかったからだ。あの時、和田真裁判長は労働組合の権利を保障した憲法28条を根拠に無罪判決を出した。

無罪判決後、湯川氏は支援者の前で「素直に嬉しい」と語り、今後も闘い続ける覚悟を示した。

「ここからがスタート。関生支部に対する反社会的勢力というレッテルを払拭し、産別労組の運動を根付かせていく」

関生支部の組合員たちも、それぞれに喜びを語った。

書記長の細野直也氏。

「検察が自分で作ったストーリーで起訴してきたのに対して、事実はそうではなかったということを、裁判所が認定してくれました」

「そもそもストライキには、交渉のために経営側に圧力をかけることが含まれていると、裁判所が認めてくれたんですよね。自分たちの活動が正しいということに、より一層の確信が持てました」

組合員の小見薫氏は、自身も逮捕・起訴されたことがある。社員の待遇改善を経営側と交渉する中で、給料などが記された資料6枚を印刷して持ち帰ったことが「窃盗」の罪に問われた。

小見氏は「無罪判決を聞いて、嬉しいよりも先に、ほっとしました」と述べ、こう続けた。

「検察はもっともらしい主張をしてきましたが、裁判官は『しかしそれは』と全てをひっくり返していった。裁判官は、きちんと事実関係や証拠を見てくれたと感じました」

「今日の判決で、労働運動は正しいということが証明されました。これまでの弾圧では、自分も含め有罪になってしまった組合員がいるけれど、今後はそういうことがなくなると信じています」

副委員長を務める松村憲一氏は、今回の弾圧のターゲットにされた。強要未遂や威力業務妨害の容疑で2回逮捕・起訴されたが、2件とも無罪が確定している。

「労組活動なので無罪は当然とは言え、今日の判決には素直に喜びました。自分が無罪になった時よりも嬉しかったです」

「向こう(警察・検察)の狙いは、組織の委員長ですから。身柄を取ることで組織に痛手を与えられますし。でも、検察の主張を全否定するような判決だったのでよかったです。流れが変わってきていることを実感しました」

 

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