記録のない国

官邸文書入手!「国葬は内閣法制局も了解」 法制局文書「意見なし」と矛盾

2025年03月11日17時21分 渡辺周

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国葬文書隠蔽裁判は、3月12日に東京地裁で第2回口頭弁論が開かれる

なぜ岸田文雄政権は、安倍晋三元首相の国葬を、国会も通さず閣議決定だけで実施したのか。国は、根拠となる文書を「作成していない」「廃棄した」との理由で開示しない姿勢を、裁判でも貫いている。

しかしTansaは、国の主張を崩す官邸の文書を入手した。

タイトルは「安倍元総理大臣の葬儀の形式について」。そこには、「法の番人」と呼ばれる内閣法制局が国葬実施の是非について記した文書とは矛盾する記載があった。

岸田首相と内閣法制局、どちらが嘘をついたか

おさらいをする。

岸田首相が、国葬を閣議決定で行うと表明したのは2022年7月14日。記者会見で次のように述べた。

「これにつきましては、内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております」

7月12日、13日、14日の3日間、内閣法制局と官邸側は協議を重ねていた。協議の結果を受けて、岸田首相が表明したのだ。

Tansaはこの3日間の記録を、まず内閣法制局に開示請求した。

開示されたのは、「応接録」という文書1枚。そこには、内閣法制局の乗越徹哉参事官らが、官邸側の内閣官房内閣総務官室、内閣府大臣官房総務課の担当者から相談を受けたことが記されていた。

どんな話し合いが行われたのかは書かれていないし、内閣官房と内閣府の担当者名の記載もない。ただ、国葬を閣議決定で実施することへの内閣法制局の態度が、以下の一言で記されていた。

「意見なし」

しかし、岸田首相は「内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断」と述べている。「意見なし」というのは、反対もしなければ了承もしないということだ。岸田首相と内閣法制局、どちらが嘘をついているのかという疑問が残った。

嘘をついたのは内閣法制局

岸田首相が言うように、本当にしっかり内閣法制局と調整したのか。そのことは、3日間の協議内容について、内閣官房と内閣府が記録した文書を見れば分かる。しかし、内閣官房と内閣府は「記録を取っていないか、取っていても捨てたから文書はない」と言う理由で、Tansaに文書を開示しなかった。

そこでTansaは考えた。

内閣官房と内閣府の担当者は、それぞれの上司や部内に内閣法制局との協議結果を報告したはずだ。その報告文書を開示請求してみようーー。

すると、開示されたのが「安倍元総理大臣の葬儀の形式について」という文書だ。内閣官房と内閣府の連名で、日付は2022年7月14日。内閣法制局との協議が終わった日であり、岸田首相が閣議決定を根拠に国葬を実施すると記者会見で表明した日だ。

パッと目に飛び込んできたのは、「国葬儀を政府が決定すること」という項目の次の文言だ。

「内閣法制局も了解」

内閣法制局の文書では「意見なし」と書いていたが、「了解」ということは法制局も国葬実施について了承したということだ。その意味では、「内閣法制局ともしっかり調整をした」と説明した岸田首相の方が、本当のことを言っていたということになる。

3日間も協議が続いた理由

ではなぜ内閣法制局は了承したのか。文書は3つの理由を挙げている。

①国の儀式を内閣が行うのは、行政権に含まれる

②国葬は国の儀式であり、内閣府設置法では内閣府の仕事に国の儀式が含まれている

③戦前の国葬令のように、国民一般に喪に服することを強制するようなことがない場合、法的根拠を与えるための立法行為は必要ない。だから閣議決定で国葬を実施することは可能

法的観点について内閣法制局は了解した。その上で、内閣官房と内閣府は安倍元首相の国葬を実施する以下4つの理由を挙げて、「国が執行者となり、全額国費で行われる国葬儀(=吉田元総理の例)の形式で実施することが適当であると考えられる」と記している。

①憲政史上最長となる8年8カ月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって、厳しい内外情勢に直面する我が国のために、内閣総理大臣の重責を担ったこと

②東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績を様々な分野で残され、国際社会における評価も高いこと

③こうした評価もあり、外国首脳を含む国際社会から極めて多くの弔意が寄せられていること

④民主主義の根幹たる選挙が行われている中、突然の蛮行により逝去されたものであり、国民の間に哀悼・追悼の意が広がっていること

内閣法制局の法解釈と、内閣官房・内閣府の安倍氏への評価は多岐にわたり、ツッコミどころが満載だ。かなり無理がある。

だからこそ、3者による協議はすぐに終わらず3日間も続いたのだ。誰がどのような発言をしたのか、詳細な議事録があるはずだ。

内閣官房と内閣府は、議事録を「取っていない」か、「捨てた」と主張している。「政策の意思決定に影響を与えるようなものではない、軽微なものだ」という理由だ。

だが、新たに入手した文書によって、多くの重要事項が話し合われたことが判明した。3日間の協議が、決して「軽微なもの」ではなかったことを示している。

署名と取材費支援のお願い

Tansaは今回の裁判を通じ、情報公開法の機能不全を問います。同時に、市民に知らせないままになんでも決めてしまう政治に怒りを表明するため、オンライン署名サイトchange.orgにてキャンペーンを実施しています。

これまでに2万筆以上の署名が集まりました。

署名は石破茂首相、岩尾信行内閣法制局長官、村上誠一郎総務大臣に提出する予定です。市民の声を届けるため、ぜひ署名にご協力ください

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