3月12日、Tansaが国を提訴した「国葬文書隠蔽裁判」で、第2回口頭弁論が開かれた。
なぜ安倍晋三元首相の国葬を、国会を通さず閣議決定により実施したのか。当時の岸田文雄政権にお墨付きを与えたのは、「法の番人」と呼ばれる内閣法制局だ。2022年7月12日、13日、14日の3日間、内閣官房と内閣府が法制局に赴いて協議をした結果だ。
この3者協議に関して記録した文書を、国は「不存在」と主張している。「作成していない」か、「捨てた」という理由だ。協議に参加した担当者名と役職すら明らかにしない。
だが、文書がないという国の主張には重大な綻びがあった。私たちはそこを突くとともに、当然存在するはずの7種の文書の存在を明らかにするよう求めた。
篠田賢治裁判長は、内閣官房と内閣府が内閣法制局の反応を気にしたはずだと指摘。それを踏まえて、どのような文書があるのかについて、次回の期日までに回答するよう宿題を出した。
内閣官房と内閣府で異なる文書不存在の理由
国側の文書不存在理由は杜撰(ずさん)だ。内閣官房と内閣府で、3日間の協議を記録した文書が存在しないという理由が違うのだ。Tansaが情報公開請求した際の不開示決定で示された。
内閣官房→「作成又は取得しておらず、若しくは廃棄しており、保有していないため」
内閣府→「作成、取得しておらず、保有していないため」
内閣官房が「廃棄」も理由に含めているのに対して、内閣府はそれがない。同じ協議に参加しているにもかかわらず、記録文書に対する取り扱いが異なるのは矛盾している。
いつ廃棄したのかも不明だ。私たちは裁判で、「廃棄したなら、それは何年何月何日に廃棄したのか」を示すよう求めた。
不存在理由を厳密に示すことは、情報公開法を運用する上で国側が決めていることでもある。2005年4月28日、総務省行政管理局長は「行政機関の保有する情報の公開に関する法律及び独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律の趣旨の徹底等について」という通知を出している。
「請求対象文書をそもそも作成・取得していない、作成したが保存期間が経過したので廃棄したなど、対象文書が存在していないことの要因についても付記することを徹底すること」
アリバイ的な文書探索
そもそも、不存在だと言う前にしっかり文書を探索したのか。
行政文書を開示請求する際、請求者の要望に沿う文書を探すのは行政側の仕事だ。請求者には、具体的にどのような文書があるのか分からない。請求を受けた省庁の担当部署は、部署内でヒアリングをするなどして文書を探す。情報公開法第二条の2では、行政文書について以下のように定義しており、その対象範囲が広いからだ。メールも含まれる。
「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」
ところがTansaが請求した国葬文書を、内閣官房も内閣府もまともに探していない。こう釈明している。
「行政文書ファイルが保存されている執務室内、書庫、パソコン上の共有フォルダ等の探索を実施したが、本件文書の存在は確認できなかった」
そこで私たちは国に対して3点を質問した。
①文書探索をした担当者の氏名と役職
②内閣法制局との協議に参加した担当者にヒアリングをしたのか否か。ヒアリングをしていた場合、対象者は誰か
③協議の参加者や関係者が職務上保有しているパソコンや携帯端末を探索したのか否か
首相が方針を表明するような事項では
結局、本当は文書が存在しているのにもかかわらず、アリバイ的に探索して「なかった」と言っているに過ぎない。
首相が記者会見や国会で表明するような重要事項の場合、協議結果についてどのような記録が残っているのか。Tansaは省庁の関係者に取材した。
その取材結果に基づき、裁判では国に以下の7種の文書が存在するか否かを明らかにするよう求めた。
①内閣法制局に提出した内閣官房ないし内閣府のポジションペーパー(立場上の見解)
②内閣法制局からの質問や意見、内閣法制局が結論を出す時期の見通し等を記載した内閣官房ないし内閣府内で報告した文書またはメール
③内閣法制局から出された質問や課題に答えるために作成又は取得し、内閣法制局に交付ないし提示した文書またはメール
④上記③のような文書の準備のために内閣官房及び内閣府の内部、内閣官房と内閣府との間でやりとりしたメール
⑤内閣府間でやりとりしたメール
⑥内閣総理大臣秘書官(その他内閣総理大臣に取り次ぐ者)に内閣法制局が打ち合わせの状況や内容について報告した文書ないしメール
⑦内閣総理大臣秘書官(その他内閣総理大臣に取り次ぐ者)から受領した文書ないしメール
これらの文書について、国側は今後、回答していくことになる。
裁判長から国への宿題
興味深かったのは、篠田裁判長の反応だ。
篠田裁判長は「従前は省庁側が内閣法制局に説明したら、法制局の参事官から質問がある。省庁の担当者は宿題として持ち帰るから、メモをする」と指摘した。
その上で今回の件について、「イメージがわかないところがある。法制局の参事官や部長、長官の反応を気にすることもあると思うので、そこを踏まえた釈明をしてほしい」と述べ、国側に次回の期日までの宿題を与えた。
次回は6月12日、東京地裁大法廷の103号で
初回の口頭弁論と同様、この日も傍聴席は満杯となり、せっかく足を運んだのに傍聴できない人がいた。篠田裁判長は大法廷を確保できないかをその場で確認し、次回期日は大法廷を使用できる日時に定めた。
第3回口頭弁論は6月12日(木)午後2時、東京地裁103号法廷で開かれる。
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