
歴史上の惨禍を後世から振り返った時、「あそこが踏ん張りどころだった」という分岐点があります。そこを過ぎたら坂道を転がるように、多くの犠牲者を生む社会へと突き進む。そういう分岐点です。
参院選の投票日に向け、参政党が躍進しています。今がその「踏ん張りどころ」。私たちは参政党の台頭を食い止めたいと考えています。
『わが闘争』との共通点
参政党は「日本人ファースト」を掲げています。神谷宗幣代表が編著の『参政党ドリル』(青林堂)には、こんな記述があります。
「祖先から子孫へと受け継がれていく日本人としての血統を大事にするべきである」
血統を重んじる政治家は、過去にもいました。アドルフ・ヒトラーです。ヒトラーはゲルマン民族の血統が守られないことが、諸悪の根源だと考えていました。著書『わが闘争』(平野一郎・将積茂訳、角川文庫)で、次のように述べています。
「わが民族体がつきあたった血の害毒は、われわれの血を分解に導いただけでなく、われわれのそういう精神までも解体に導いたのだ。わが祖国の国境が開放されていることや、ドイツ国の領域に非ゲルマン的異民族が寄居していた(中略)とりわけドイツ国自体の内部に異民族の血が今日まで強く流入してきた」
ヒトラーが『わが闘争』を著したのは、1920年代。それから20年ほどでナチスドイツは、ユダヤ人の虐殺をはじめ、人類史上最悪の惨事をもたらしました。
血統主義と排外主義が結びつけば、深刻な被害を生みます。参政党はその危うさをはらんではいないでしょうか。
参政党の危うさは、過去の犠牲を美化することにもあります。
参政党の選挙特設サイトでは、「日本を守るために力を尽くした英雄」として特攻隊員を挙げています。党としてのメッセージは「これ以上、日本が壊される前に次に戦うのは、私たち一般の国民の番だと参政党は考えます」。
権力者は安全な位置にいながら、命と引き換えにした作戦を未来があるはずの若者に命じる。その時点で特攻隊員は犠牲者です。
神谷氏は、歴史を学んで自分の哲学を持つことの重要性を強調する中で「突き詰めていくと、自分の命よりも魂の方が大事で、それを磨くために命を懸ける人が数多く生まれるわけです」(『国民の眠りを覚ます「参政党」』、青林堂ビジュアル)と語っています。特攻隊員の死も、命より魂を大事にした結果だと考えているのでしょうか。
後世に生きる者は、差別や戦争による犠牲をもう誰にも強いない。そのことでしか過去の犠牲者に報いることはできないと、私たちは考えます。
マグマが噴火すると
参政党が台頭する背景には、政治の機能不全があります。
「黄金の国ジパング」とか「1億総中流」などと呼ばれていた時代は、もう40年も前の話。非正規雇用の人たちが増え、大企業の正社員との格差が開く。親の所得が低く、奨学金で大学に通えば借金として卒業後にのしかかる。育児や介護を支える社会的なインフラは脆弱で、子育ても老後の暮らしも不安ばかり・・・。政治家たちが汚職にまみれ、保身に躍起になっている間に日本社会は音を立てて崩れています。このような状況では、日本社会に怒りのマグマが沸々と溜まるのは当然です。
そこへ参政党が登場する。既存政党を糾弾し、外国人より日本人を優先するべきだと説く。暮らしを支える安全な医と食の充実を訴える。国民が拍手喝采し、マグマが地上に噴き出しても不思議ではありません。一旦マグマが噴き出ると、情報の真偽が重要視されなくなります。世論が暴走します。
ナチスドイツが台頭した背景も、第一次大戦後の経済的な疲弊でした。ヒトラーは独裁者でしたが、彼を押し上げたのは、選挙を通じてナチスを支持した国民自身です。
いくら社会に不満が充満しても、そのエネルギーの持って行き場を誤れば大変なことになります。
ジャーナリズムの実践者として
参政党が台頭する事態に、日本の新聞やテレビは、十分に機能していません。
デマが飛び交った2024年の兵庫県知事選を踏まえ、選挙中に「過度な公平性」に閉じこもることなく、批判するべきは批判すると反省したはずです。日本新聞協会は2025年6月12日に「インターネットと選挙報道をめぐる声明」まで出しました。それでも、参政党の主張や虚偽を真っ向から批判する報道は乏しい状況です。
Tansaは、ジャーナリズムを実践する組織として、参政党の台頭に反対します。基本的人権を中心的な価値に置く民主主義社会は、古今東西の幾多の犠牲を経て築かれたのであって、この社会を守りたいからです。そして同じ社会の一員として、2025年7月20日投票の参院選の有権者に問います。
「あなたは、それでも参政党を選びますか」
2025年7月17日
Tokyo Investigative Newsroom Tansa 一同
それでも参政党を選びますか一覧へ参政党には政党として一線を超えた主張があるのではないか。Tansaは、党の創設メンバーであり代表の神谷宗幣氏の過去19年間にわたる発言を精査。議会質問、書籍やブログ、YouTube番組、メディアによるインタビューなどを総ざらいした。
「参政党・神谷宗幣代表の過去19年間の発言を総ざらい 議会質問、書籍、ブログ、YouTube、雑誌 差別や戦争助長する発言の数々」
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