保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

「連絡を取ろうとしたら、学校に止められたんです」 海星学園125周年祝賀会で、教師が遺族に明かしたこと(15)

2026年03月12日 17時52分  中川七海

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海星学園の創立125周年記念式典の様子=海星学園のホームページから

2017年11月1日、海星学園は創立125周年記念式典を開いた。

同級生たちからのいじめを苦に、福浦勇斗(はやと)が自ら命を絶ってから約半年。

海星学園は、学内で起きたいじめ自死の対外的な公表を避け続けていた。メディアの取材を拒み、記者会見も開かない。

一方で、式典の後の祝賀会場は長崎でも有数の豪華なホテル。芸能人まで招いて華々しく開催した。勇斗の死をないがしろにする海星学園の無神経さに、遺族は驚いた。

勇斗の母・さおりは、祝賀会場で海星学園の教員から知らされた事実に、さらに驚くことになる。

いじめ自死には一切触れず

2017年11月1日、さおりは長崎市内にあるイベントホールを訪れた。エントランスに入ると、大きな看板の文字が目に入った。

“海星学園創立125周年記念式典”

さおりは、勇斗の月命日に自宅を訪れた海星学園・教頭の武川眞一郎から、招待状を渡されていた。さおりは育成会(海星学園の保護者会)の役員を長年務めていたため、招待したという。

「なぜ、学内のいじめで我が子を亡くした遺族を、祝いの席に呼べるのだろうか」

さおりは学校側の神経を疑った。同時に、直近で起きた生徒のいじめ自死に触れるか確かめたい、とも思った。さおりは参加を決めた。

だが、いじめ自死については一切触れられなかった。理事長や校長をはじめとする学校関係者は、お祝いムード一色だ。

式典の後は、会場を「ホテルニュー長崎」に移して祝賀会が開かれた。

さおりがホテルのエントランスにいると突然、「福浦さん」と声をかけられた。

声の方に振り向くと、勇斗の兄・直斗が海星高校に在学中、親交のあった教員が立っていた。

目に涙が溜まり、周囲を気にしている様子だ。二人で人気の少ない場所に移動した。

すると突然、教員が泣き出した。そして、こう告げた。

「実は勇斗くんが亡くなった後、お母さんに連絡を取ろうとしたら、学校に止められたんです」

「え?」

さおりが驚いていると、教員は一礼しその場を去ってしまった。

詳細を聞けずじまいだったさおりは、その後も教員の言葉を反芻しながら過ごした。

祝賀会は、昼に行われた式典以上に華やかなパーティーだった。全国各地から多くのゲストが挨拶に訪れた。日本私立中学高等学校連合会長や、東京にある海星学園の系列校「暁星学園」の卒業生として、俳優の香川照之もいた。皆、海星学園の理事長・坪光正躬をベタ褒めするばかりで、さおりは違和感を抱いた。

祝賀会でも、生徒のいじめ自死については一切触れられなかった。

祝賀会の様子=海星学園のホームページから

清水校長が挙げた「再発防止策」

翌11月2日、海星学園が慰霊祭を開いた。

直近1年間で亡くなった学校関係者やその親族を弔う、海星学園の定例行事だ。教員や在校生が参加する。

さおりは、夫の大助、息子の直斗とともに出席した。他の遺族とともに、会場の体育館に入場する。

直斗を知る生徒は、弟の勇斗が亡くなったことに驚いている様子だった。

さおりたちは、教員たちの反応に違和感を覚えた。さおりたちの方を向いて会釈する教員がいる一方で、勇斗や直斗を受け持ったり、育成会(保護者会)でさおりと直接親交があったりしたにもかかわらず、目を合わせようともしない教員が何人もいたのだ。

さおりは祝賀会で聞いた、「遺族と連絡を取ろうとしたら、学校に止められた」という言葉を思い出した。

祭壇には、勇斗の遺影が置かれている。亡くなった人たちを司祭が紹介する。勇斗は、何十人といる中で一番に読み上げられた。

「私たちの友人である、高校2年S3組の福浦勇斗くんが4月に亡くなりました。福浦勇斗くんのご冥福を心からお祈り申し上げます。悲しみのうちにあるご遺族の皆様に、神様が慰めと希望を与え、力づけてくださいますようお祈り申し上げます」

慰霊祭は、1時間強で終了した。

さおりたちは、校長の清水政幸のもとへ向かった。事前に面会を申し込んだ際、「会議があるので少ししか時間が取れない」と言われたが、数分でも良いからと時間をもらっていた。

強く要望したのには、理由があった。

「このままでは、勇斗のような犠牲者が出てしまう」と強く実感するようになっていたからだ。

海星学園は自校で起きたいじめ自死の公表を最小限に抑え、教員間での情報共有も疎か。再発防止策の中身も不透明だった。最近では、「第三者委員会の調査結果が出てから動く」という方針になっていた。第三者委の調査は、数カ月から1年以上かかる場合があり、その間に生徒も入れ替わる。さおりたちには、「時が経つのを待っている」としか思えなかった。

大助が清水に挨拶し、慰霊祭への感謝を伝えた上で、今一度思いを伝えた。

「前々から申し上げているとおり、一過性のものではなく、これを機に先生方の教育・指導と、保護者の方々との連携を密にしていただきたいです。勇斗の死を無駄にすることなく、より良い海星学園をつくっていただければと思っています」

清水は「ちゃんと承知しておりますので」と答え、こう続けた。

「我々も事あるたびに、私の方から先生方には指導のお話をしていますし。前にも話したように、1学期に1回しかやっていなかった生徒へのアンケートも、今年度から毎月1回するようにしていまして。その統計も毎月出していますけど、これといったものは出てきませんけれども」

「これを続けていって、再びこういうことが起きないように、教職員にもちゃんと周知徹底させて、授業に当たっていただきたいと思いますので。勇斗くんの死を無駄にすることがないよう取り組みたいと思います」

さおりが尋ねる。

「1カ月に1回アンケートをされていると言いましたけれども、その中で『いじめられていません』とか『何もないです』という回答があったら、それで済むのですか。うちの子も、『担任の先生に迷惑がかかるから、大丈夫ですと答えたことがあった』と遺書に残しています。アンケートをしても、生徒が家族や先生に心配をかけてはいけないと思って、『何もありません』というふうな回答をされた場合、1枚のアンケートで、『何もない』と学校が判断して終わってしまうんですか」

勇斗が亡くなって以降、さおりは海星学園でいじめに遭っていた生徒の保護者から連絡を受けるようになっていた。学校が対処できず不登校になったり、転校したりした生徒の保護者だ。

清水が答える。

「我々としては、アンケートを教室の中で書かせるんじゃなくて、各自持って帰らせて、時間をかけて、というのを今年度から始めました。中身を見て気にかかる子がいた場合は、まず担任から学年主任と生徒指導部長に連絡をする。そして面談とかをしていって啓発する形をとっています」

「今のところ、4月からずっとやっていますけれども、大きな事案と言いますか、我々が『これは』というふうなことを担任から報告を受けておりませんので。それはそれできちんとやりながら、担任、学年主任、生徒指導部長、みんなでちゃんとやっていこうと」

勇斗は4月の時点でいじめられていた。つまり、清水が挙げる仕組みでは拾いきれていなかったのだ。

アップされない記事

約3週間後の11月20日、校長の清水、学年主任の木村英夫、担任の岩﨑孝治、副担任の髙比良政則が福浦家にやってきた。月命日のお参りだ。

大助が慰霊祭の感謝を改めて伝えた上で、こう述べた。

「非常にありがたかった反面ですね、息子がお世話になった先生でも、こちらに見向きもしない先生もいましたから、残念な気持ちがしたのは正直な話です」

さおりは、祝賀会での教員の言葉を思い出し、こう尋ねた。

「(勇斗と直斗の)2人を教えていただいた先生も、目を合わせることもなく、残念ではありましたね。個人の人間性の問題なのか、それとも学校側が『遺族に関わるな』というふうにおっしゃっているのか、どうなのかなと思ったりしたんですよね」

清水は「いやいや、それは」と否定した。

大助は、気になっていたことを切り出した。

「今回、慰霊祭がホームページに出ていないじゃないですか。なぜですか?」

海星学園では毎年、慰霊祭の報告をホームページに掲載している。式典の内容や献花の様子を何ページにもわたって特集し、大々的に公表していた。だが、大助たちがいくらチェックしても、今年の慰霊祭の記事はアップされていなかった。

一方で、創立125周年記念式典と祝賀会に関するページはすでに公開されていた。

大助は「言い方は悪いですが、(勇斗の件は)隠したいのかなというふうに思ったんですよ」と正直に伝えた。

「そういうわけではございません」と清水は否定した。

だが、慰霊祭の記事がアップされることはその後もなかった。

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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