保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

「第三者委員会がどんな結果を出そうとも尊重する」 海星学園・武川教頭が、遺族と長崎県・学事振興課長の前で約束(22)

2026年05月07日 14時07分  中川七海

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勇斗さんの母・さおりさんの三者面談の書き起こし

学校、県、遺族による三者面談は、2時間を超えた。

福浦勇斗はやとの父・大助、母・さおり、海星学園の高校教頭・武川眞一郎、中学教頭・川島一麿、長崎県学事振興課の課長・松尾信哉、参事・松尾修の6人が向かい合う。

勇斗が同級生たちからのいじめに耐えかね、自ら命を絶ってから9カ月。海星学園とやりとりを重ねても、埒が明かない。

自死から約1カ月後の時点で、武川は「いじめが主因であったと思う」と遺族には認めている。しかし公にはしたがらず、自死ではなく「突然死」として公表する提案まで持ちかけてきた。遺族が要望し、ようやく県を交えての三者面談が実現した。

話すべきことは山ほどある。勇斗の父・大助と母・さおりは思いの丈をぶつけた。

追い込まれた海星学園は、県の担当者の前で、遺族に重大な約束をする。

武川教頭「話をすると、僕も涙が出そう」

二人の望みは、我が子と同じような犠牲者を二度と出さないことだ。

しかし海星学園は、教職員や保護者に積極的に働きかけるどころか、いじめ自死の公表さえ渋った。

2時間を超えた三者面談の中で、大助は海星学園の保護者会「育成会」の総会と、育成会役員と教職員との懇親会のことを持ち出す。

総会は2017年5月20日、勇斗の自死から丸1カ月の日に開かれた。保護者の代表らが集まる貴重な場にもかかわらず、勇斗の話は俎上に載らなかった。

懇親会は、そこから1カ月半後の7月8日に開かれた。年に一度の定例行事で、酒を酌み交わす「飲み会」だ。例年通りに実施された。勇斗の話題に触れられるどころか、追悼も無かった。

大助が尋ねる。

「5月20日の育成会総会で、勇斗の事案に触れなかった理由は何ですか」

武川が答える。

「5月20日(の時点で)は、まだある面、担任も事案が大きすぎだったというのもあると思うんですよね。話をすると、僕も涙が出そうな感じです。時期がまだ1カ月ですから」

「担任は、本当に見ていて、しょげているような感じでした。毎日出てくるのも足を踏み出して前へ行く状態で学校に来てたと思う。それが悪いと言われるんであれば、申し訳ないとしか言いようがない、私としては」

9カ月経っても、クラスで話し合わない「理由」

武川は、自死から1カ月後は担任のショックが大きかったと言う。

だが、本当だろうか。

自死から2週間足らずの5月2日、大助とさおりは海星学園を訪れた。勇斗が亡くなってから初めて、海星学園で教職員らと対面する機会だ。

事前に約束した時間通りに到着すると、武川が出迎えたものの、担任の岩﨑孝治がいなかった。大助が尋ねると、武川は言った。

「今呼びに行っています。バスケ部の顧問で、明日の朝も早いんですよ」

大助、さおり、武川の3人で会議室に入り、先に会話を始めていると、扉が開いた。

岩﨑は、半袖のシャツに短パン姿で現れた。部活動を抜けて、急いでやって来たようだ。

大助もさおりも驚いた。自分のクラスの生徒が自死し、その遺族と初めて対面する場に遅刻した上、部活のままの服装だ。

武川から見た岩﨑と、遺族の目に映った岩﨑の印象には隔たりがある。ただ、岩﨑の当時の心境までは、大助たちには分からない。

しかし、自死から9カ月が経過した現在も、全校保護者会もクラスでの話し合いも実施していないのだ。武川の主張は説明になっていない。

大助が言う。

「担任がショックなのは当然だと思うけれど、私たちが言いたいのは保護者会とかクラス会で取り上げ、事案に向き合ってほしいということ。いじめ自死には触れてはいけない、みたいな感じですよね」

さおりも訴える。

「育成会会長は、5月20日の総会の時点で、勇斗が亡くなったことをご存知でしたよね。別の日には、懇親会もされていますよね。飲み会はしっかりするのに、どうしてうちの子が亡くなったという事実を、育成会として向き合ってくださらないのか、そのあたりが納得できないです」

「せっかく皆が集まるんですから、言うべきです。私も中1から高1まで役員をしていたので、総会の状況はわかります。その場でちゃんと説明してもらいたかったし、クラスにおいても担任がショックで話ができないのであれば、教頭先生や主任に入ってもらって話をすることは可能だと思います。私たちは、担任一人に話をさせてくれとは言っていないです。学校が担任をサポートしながら説明できると思います」

遺族の要望に明言

大助はこの際だからと、海星学園のこれまでの姿勢にも苦言を呈した。

「黙祷していただいたり、『理事長や宗教部長が毎日祈っています』と言われたり。月命日に毎月来てくださるのもありがたいとは思っています。でも、追悼を目的としているわけではないので、この場で再認識していただきたい」

「学校が再発防止のためにどう取り組んで、どう変わっていくかという部分だから、それは誤解してほしくない」

その上で、頑なに全校生徒の保護者向け説明会や、勇斗がいたクラス内での話し合いを行わない点について、大助が尋ねる。

「保護者会やクラスでの話し合い、生徒指導部長の講話なり、そういうのを校長先生が『第三者委員会の結果をもって』とよくおっしゃるけれど、それはどういう意味なのですか。結果が出ないとできない、というのは」

武川が応じる。

「(生徒向けの)いじめの講話とかはやっているし、やろうとしているし。校長が言ったのは、第三者委員会の結果が出ないと全体(保護者)会というか、そういうのはできないんじゃないかな、と思います」

さおりは即座に「何かあればすぐに、『第三者委員会にお任せしていますから』とおっしゃいますけど」と言い、こう指摘した。

「全校保護者会で、いじめのない学校にするためにどうするのか、そういったことは第三者委員会と関係ないですものね。だから私たちと校長が言っていることはズレているのかな、と思うんですよね」

さらにさおりは、勇斗の遺書に名前の挙がっていた加害生徒たちへの指導もいまだに実施していないことを踏まえ、こう述べた。

「文科省のガイドラインの中に、『加害生徒への指導を行う場合は、その保護者に協力を依頼しながらやること』、『いじめを行った生徒に対する懲戒を検討すること』とあります。調査をしたら分かることだと思うけれど、やはり勇斗に対して謝罪の気持ちは持ってほしい」

「そしてこれから先、自分たちがこういうことをしてはならないと。いじめている子が周囲にいた場合は逆に注意したりとか、そういう風に育ってほしいと思う」

さおりは、第三者委員会の結果が出るまで動かないという海星学園に対し、そうであればとこう伝えた。

「第三者委員会の結果が出たら、このガイドラインに沿って、きちんと学校で対応していただく。それを希望します」

さおりの言葉に、武川がはっきりと答える。

「第三者委員会の結果が出た後は、全部そういうことでやっていこうと思います。第三者委員会がどんな結果を出そうとも、それを尊重して動いていこうと思います」

ところがその後、海星学園は武川の言葉を翻す行動に出る。

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

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