「私たちは知らされていないです」 クラスで生徒がいじめ自死 1年間、加害生徒を知らなかった担任(23)
2026年05月14日 15時15分 中川七海

福浦勇斗さんが亡くなった公園=長崎市で2025年4月20日、千金良航太郎撮影
福浦勇斗が2017年4月に亡くなってから、福浦家には度々、高校生とその親が訪れるようになっていた。中には、面識のなかった親子もいた。
共通していたのは、生徒たちは皆、海星学園でいじめを受けた経験があることだった。勇斗の事案を耳にし、母・さおりに事実を打ち明けたり、対応を相談したりしに来ていたのだ。
同級生から日常的にからかわれていたり、金をせびられていたり。「死にたい」と思っている子もいた。
学校に相談しても、教頭の武川眞一郎に「子どもの性格に問題がある」、「だいたい、高校生の男子が保健室に来て泣くとかありえないし、おかしい」とつき返された保護者もいた。転校を余儀なくされた子までいた。
「このままでは、新たな犠牲者が出てしまう」
焦燥感に駆られ学校を追及していくと、遺族が思わず声を上げて驚く新事実が発覚する。
役に立っていないアンケート
2017年11月、海星学園の「慰霊祭」に出席した際のことだ。慰霊祭は、直近1年間で亡くなった学校関係者やその親族を弔う定例行事だ。教員や在校生が参加する。この年は、勇斗の名前も読み上げられた。
さおりと夫の大助は慰霊祭終了後、校長の清水政幸と対面し、再発防止を訴えた。
「これを機に、先生方の教育・指導と、保護者の方々との連携を密にしていただきたいです。勇斗の死を無駄にすることなく、より良い海星学園をつくっていただければと思っています」
だが、清水は悠長な構えだ。「ちゃんと承知しておりますので」と二人をいなし、こう続けた。
「我々も事あるたびに、私の方から先生方には指導のお話をしていますし。前にも話したように、1学期に1回しかやっていなかった生徒へのアンケートも、今年度から毎月1回するようにしていまして。その統計も毎月出していますけど、これといったものは出てきませんけれども」
「今のところ、(2017年)4月からずっとやっていますけれども、大きな事案と言いますか、我々が『これは』というふうなことを担任から報告を受けておりませんので。それはそれできちんとやりながら、担任、学年主任、生徒指導部長、みんなでちゃんとやっていこうと」
海星学園は、1学期に1回実施していたいじめアンケートを、勇斗の自死を境に月1回に変えた。だがそもそも、高校1年次の勇斗のいじめはアンケートで拾えていなかったし、月1回に変えた後も、福浦家にやってくる子たちのように今まさに苦しんでいる生徒が後を絶たない。
どういう神経で、清水は「大きな事案はない」と言うのか。
在校生のために遺族が懇願
2018年2月20日、福浦家に海星学園の教職員らが月命日のお参りにやって来た。教頭補佐の大森保則、学年主任の木村英夫、担任の岩﨑孝治、副担任の髙比良政則だ。
この時もさおりは、いじめアンケートについて問い質した。勇斗の遺影に手を合わせた4人に、さおりが切り出す。
「一点だけ。私はこれを言わないと絶対に後悔すると思うので、言わせてもらいます」
「海星で月に1回『いじめアンケート』を取られていると伺っていますけど、書けない子もいると思うんですね。以前、清水校長にはお話ししましたが、いじめられて『死にたい』と言っていた子がいて」
「また別の子も、心が不安定になっている子がいるんですね。そのあたりにちゃんと対応してください。私たちは、お子さんが亡くなるとか、『死にたい』とか聞くのはつらいんです」
大助も疑問を抱いていた。
海星学園は、3週間ほど前の2月2日に「いじめ人権講演会」を実施した。外部講師を招いた、生徒向けの講演だ。大助とさおりは、生徒たちの名前を伏せた講演後のアンケートに目を通していた。
「内容を見て、愕然としました。はっきり言って、講師の方に関するアンケートで非常に残念です。生徒さんが(いじめについて)どう思ったのかを教えていただきたいな、と」
「月に1回『いじめアンケート』をとっているというのも、まさかこのような内容だったら全然意味がないな、と思って」
さおりが訴える。
「本人は誰にも言えなくて、家族にも言えなくて。そのあたりに、対応してほしいです。本気で悩んでいるみたいなので、学校として対応していただきたい」
「うちの子は、逃げ道が『亡くなる』しかなかったというのがすごい残念でならないんですよね。後悔してもどうしようもないんですけど。私たちができることというのは、うちの子みたいな子を出さないことを願うしかないので」
「担任の先生から直接話をお願いします」
次にさおりは、担任の岩﨑に質す。
「岩﨑先生にお尋ねしたいんですけど、その後クラスで勇斗のことについて話し合いをされましたか」
クラスでの話し合いの必要性は、この1年を通して遺族が訴えてきた。岩﨑が答える。
「クラスでの話し合いはしていないです。講演会などを通して・・・」
さおりが説く。
「もうすぐ高校2年が終わりますよね。このまま何も話をせずに担任の先生として終わらせるつもりなんですかね。私はやっぱり、担任の先生の口から皆に話をしてもらいたいと思うんですよね」
「先生もお子さんがいらっしゃるから分かると思いますけど、もし自分のお子さんが、うちの子と同じようにいじめられて亡くなって、担任の先生が最後まで何も言わずに学年を終えたら、どう思われますか」
岩﨑が言い返す。
「何もないまま終わろうとは思っていません」
だが信用できない。さおりが念を押す。
「(勇斗が在籍していた)S3クラスの子が全て悪いわけではないのは分かっています。でも実際、遺書に(加害生徒として)名前が挙がっていた子がいましたし、言い方は悪いですが主犯格というか、主流になっていじめていた子がS3にいるのは事実ですよね」
「その子一人を責めるわけではないんです。ただやっぱり、先生の口から直接、勇斗みたいな子を出さないためにも、お願いします」
教頭補佐「同じようなことが起きれば指導するはず」
1カ月後の3月20日、海星学園で終業式が行われた。
この日は、勇斗の月命日でもある。終業式後、福浦家に教職員らがお参りにやって来た。先月と同じ顔ぶれだ。
さおりが岩﨑に尋ねる。
「クラスで話し合いをしていただきたいとお伝えしていましたが、今日は3学期最後ということで。いかがかなと思って」
岩﨑は「はい、全体に話はしました」と答えた。
さおりは安堵した。そして、気になっていた点を問うた。
「遺書に名前が挙がっていた(加害)生徒は、どういう生活をしているのか。また同じことを繰り返していないか、すごく気になるんですね。覚えていらっしゃいますか、誰の名前が出ていたか」
しかし、岩﨑を含め4人の教職員らは反応しない。
そこでさおりが、「覚えていますか」と再度尋ねる。
口を開いたのは、学年主任の木村だ。
「あのー、我々はえっと・・・実は・・・あの・・・そこまでは・・・」
さおり「知らないんですか?」
木村「我々の段階では・・・」
さおり「え!? じゃあ、どなたが知っているんですか?」
木村「上の方が・・・」
さおり「校長先生や教頭先生ってことですか? (教頭補佐の)大森先生はご存知ですよね?」
大森「もちろんです」
さおり「え、じゃあ、岩﨑先生もご存知ないのですか」
岩﨑「はい、知らされていないです」
さおり「えっ!? 本当に? 嘘・・・」
思わず、さおりは大きな声を上げた。今この場で、加害生徒の名前を知るのは、教頭補佐の大森だけだという。担任も副担任も学年主任も、勇斗をいじめていた生徒が誰かを把握していないとは、さおりも大助も思ってもみなかった。
さおりは混乱しながら問うた。
「そしたらその子たちが・・・。知らされていないということは、その子が同じことを繰り返すかもしれないから注意して見ておこう、というのは無いということですか?」
その生徒のことは、さおりも知っている。勇斗の前にも、他の生徒をいじめていたのだ。
加害生徒の名前を知らない学年主任の木村が答える。
「全般的に、学年会等で連絡は密にしておりますし、いろんな状況の中で引き継ぎはしますので。とにかく、目を凝らすつもりではあるんですけど、より強度に全体に目を配りながら、というところで指導はしていきます」
木村の説明は矛盾している。
教師間の連絡や引き継ぎを密にしていると言いながら、そもそも担任や学年主任が、いじめを行なった生徒が誰かを把握できていない。何に目を配るというのか。クラスでの話し合いも、どのような観点で行なったのか。勇斗をいじめた件についても、未だ加害生徒に指導すらしていないことと合点がいった。
さおりが言う。
「自分は何も悪くないと思って、また同じことを繰り返すことはないんですかね?」
大森が答える。
「その点は、また同じようなことが起こった場合には、担任として必ず指導が起こるはずですから」
同じことが起きる前提の答えに、さおりも大助も愕然とした。さおりが尋ねる。
「どうして、知らされてないんですかね?」
大森が言う。
「そこはちょっと、私にも分かりません」
(つづく)
*敬称略
保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】一覧へ情報提供のお願い
本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。
そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。
Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。
メルマガ登録