記録のない国

「知る権利を市民が取り戻す契機に」/「国葬文書隠蔽裁判」の原告代表・Tansa編集長の意見書全文を公開

2026年05月11日 13時03分  Tansa編集部

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Tansaの渡辺周編集長(左)と、喜田村洋一弁護団長=東京都港区で2024年9月30日、千金良航太郎撮影

Tansaが国を提訴して1年半余り。「国葬文書隠蔽裁判」の原告代表、Tansa編集長の渡辺周が2026年4月24日、東京地裁に意見書を提出しました。全文を公開します。

Tansaの活動にとっての情報公開制度の重要性

Tansaは2017年に創刊した非営利独立の探査報道メディアです。探査報道とは英語の「Investigative Report」にあたり、日本では「調査報道」と訳されていますが、Tansaではあえて「探査報道」という言葉を使っています。単なる「Research」ではなく、もっと深い取材を表す「Investigation」に沿うためです。

私たちは、民主主義社会に資するための権力監視を活動理念としています。具体的には、「権力による犠牲者が置かれている状況を変える、または犠牲者を出さないためにはどうしたらいいか」という視点で、政府や企業、犯罪集団・組織が隠蔽する事実を明るみに出し、社会に共有してきました。Tansaの報道は国会質疑で取り上げられることが幾度もありました。ジャーナリズム関連の賞は創刊以来16回受賞しています。国際的な評価も得ており、2025年には『ニューヨークタイムズ』でTansaの活動が特集されました。

Tansaの活動にとって、情報公開制度は必要不可欠です。Tansaは行政機関の記者クラブに所属しておらず、クラブ加盟社のように、行政の諸活動に関して資料提供やレクを受ける便宜は得られないからです。まずは情報開示請求により、法的に開示が義務付けられている行政文書を得て、その文書を精査する。その上で対人取材やオープンデータの分析を重ねていきます。

記者クラブでは行政側に都合の悪い情報は提供されていない傾向があり、情報開示請求で得た文書の内容自体がニュースとなることも往々にしてあります。その意味でも、Tansaにとって情報公開制度は必須です。

本件開示請求の対象文書を特定した経緯

Tansaが本件の取材を始めたきっかけは、2022年7月22日の閣議で安倍晋三元首相の国葬実施が決まり、大きな違和感を覚えたことでした。安倍元首相の国葬実施に関しては、安倍元首相の功績への評価、統一教会との関係、開催費が国費で賄われること、憲法14条の法の下の平等などを巡り、世論の賛否は分かれていました。国葬を実施するには、少なくとも国権の最高機関である国会の承認を得ることが必要です。安倍元首相が同年7月8日に殺害されてからわずか2週間で閣議により国葬実施を決めることは、民主主義国家としてのプロセスを踏んでいないと判断しました。

閣議決定のプロセスを精査する中で着目したのが、岸田文雄首相による2022年7月14日の記者会見でした。岸田首相は国葬実施を閣議決定で決めることについて以下のように述べました。

「内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております」

国葬を閣議決定により実施できる根拠を、「法の番人」とも呼ばれる内閣法制局と「しっかり調整した」ことに、首相が求めているわけですから、これは極めて重要な発言です。実際、岸田首相は国会での答弁でも、この発言を繰り返しています。

岸田首相の発言の裏付けを取るため、Tansaは2022年7月26日、内閣法制局長官に対して2種類の文書を開示請求しました。

1、安倍晋三・元首相の国葬について、内閣法制局内で協議した文書一切

2、安倍晋三・元首相の国葬について、内閣法制局外とやりとりした文書一切

開示されたのは「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」というタイトルの1枚の「応接録」です。

応接録には以下の情報が記載されていました。

相談者 内閣官房内閣総務官室、内閣府大臣官房総務課

 

担当者 乗越参事官、森下参事官補

 

相談年月日 令和4年7月12日~14日

 

相談・応接要旨 「標記の件に関し、別添の資料の内容について照会があったところ、意見がない旨回答した」

 

備考 近藤長官、岩尾次長及び木村第一部長に相談済み

岸田首相は「内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断」と説明しました。応接録でも相談期間は7月12日から14日と3日間にわたっています。ところが、「しっかり調整をした」具体的な内容がありません。私は9月6日に内閣法制局第一部に電話し、以下のように伝えました。

「7月12日から14日にかけての協議内容を記録した文書があるはずだ。こちらが求めたのは、国葬についてやりとりした『文書一切』だ。これは情報公開法に基づく請求であり、内閣法制局は法律に沿った対応をする必要がある。なぜ応接録1枚しか出てこないのか、首相側と協議した乗越参事官に会って説明を受けたい」

これに対して、私の電話に対応した職員からの返事は以下でした。

「乗越参事官に確認したところ、保有している行政文書はあれだけとのことです」

備考には「近藤長官、岩尾次長及び木村第一部長に相談済み」とも記されています。長官をはじめ内閣法制局の幹部たちへの報告書もあるはずです。私は再度、乗越参事官に確認するよう職員に求めました。

翌9月7日に職員が私に電話をかけてきて述べました。

「乗越参事官に確認した結果、結論は変わらないとのことでした」

私は「メモも記録も取っていないのか。あなたたちは記憶で仕事をしているのか」と聞きましたが、職員は「行政文書はありません」と繰り返すだけでした。

内閣法制局の開示結果が極めて不十分であったため、Tansaは内閣官房と内閣府に開示請求することにしました。内閣法制局が開示した応接録によると、2022年7月12日〜14日にかけて、内閣官房内閣総務官室と内閣府大臣官房総務課の担当者が相談に行っていたからです。これが本件開示請求の対象文書を特定した経緯です。

文書不開示による損害

Tansaの活動理念は、民主主義社会に資する権力監視を行うことです。本来であれば、Tansaは開示請求で得た行政文書をもとに、安倍元首相の国葬が閣議決定する過程で何が協議されたのかを広く報道し、国民・市民の公論の材料を提供するべきところでした。国民・市民にすれば、国葬に賛成するにしろ、反対するにしろ判断材料が必要です。しかし本件文書の不開示により、その理念を実践することが妨げられました。

本件文書の不開示は、Tansaの実務も妨げています。情報公開法に基づいて当然開示するべき文書を国が隠蔽することで、私たちは行政不服審査請求を申し立て、さらに本件裁判を起こさざるを得ませんでした。Tansaは専従が6人の小さな組織で、多岐にわたる取材・編集、運営業務を抱えています。本件裁判に至る労力はTansaにとっては大きな負担であり、この労力がなければ実現した報道がいくつかありました。

本件文書の不開示による最も深刻な損害は、記録の保存と共有という民主主義の基盤を破壊していることにあると考えます。近年の行政文書に対する政府の悪弊と相まって、その深刻度は増しています。

象徴的な事例として、学校法人森友学園への国有地売却をめぐり、国と森友学園とのやりとりを記録した「応接録」の隠蔽を挙げます。

財務省は、2018年6月4日付の文書改竄に関する調査報告書の中で、情報公開請求により、森友学園案件に関する一連の応接録の開示を求められたケースについて、その都度、『文書不存在』を理由に不開示決定を行ってきたと述べています。このような不開示決定は何回行われたのか。2021年3月2日の衆議院予算委員会で立憲民主党の川内博史議員が質問したところ、麻生太郎財務大臣は次のように答弁しました。

「森友学園に関する応接録についての情報開示請求に対しましては、平成29年の3月から平成30年の5月までに文書不存在として不開示等の決定をさせていただいたのは、財務省本省で9件、近畿財務局で37件と承知をしております」

行政文書の隠蔽事例は枚挙にいとまがありませんが、もう一例挙げます。

Tansaは2020年4月14日付で、「今井尚也首相補佐官が2020年3月1日〜同年3月31日までに業務で使用した全てのメール」を内閣官房に開示請求したことがありますが、「本件対象文書について、保有していないため不開示」という決定でした。今井氏は業務でメールを使用していないということになります。

ところが、今井氏は週刊文春の2026年4月16日号で、仕事でメールを使っていると証言しました。

文春の記事は、今井氏が月刊誌の『選択』の報道内容を否定したという内容です。『選択』は「ホルムズ海峡へ自衛隊を派遣するつもりでいた高市氏に、今井氏が『国難だ』、『あんた、何考えているんだ』と首相執務室に乗り込んで恫喝するような剣幕で言った」と報道していました。今井氏は次のように述べています。

「はっきり言いますけれども、高市総理に色々アドバイスを求められた時は、資料も添付してメールでやり取りしています。部屋に行くことはないんです」

公的な情報の隠蔽は、権力の監視を不能にし、その暴走を招きます。権力が暴走すれば多大な犠牲者が出ます。日本は1930年代から1945年にかけて、政府や軍部、メディアが国民に日本の国力や戦況を十分に知らせないまま、国内外に数百万人の犠牲者を出して敗戦しました。その痛恨事があったからこそ、国民の知る権利を保障した憲法の下で、日本は民主主義国家として再出発したはずです。

本件裁判が、国葬が閣議決定で実施された過程を明らかにするだけではなく、知る権利を国民・市民が取り戻し、民主主義国家としての基盤を固める契機になることを願っています。

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