デジタルと性暴力 悪夢を終わらせる

新シリーズ「デジタルと性暴力」を始めます 被害の悪夢を終わらせるため、みなさんの協力が必要です

2026年05月15日 11時45分  辻麻梨子

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イラスト: qnel

2022年11月、私はシリーズ「誰が私を拡散したのか」を始めました。

しかし、デジタルツールを使った性暴力の被害は減るどころか増え続け、深刻さを増しています。

性的な画像や動画の拡散は、相手の尊厳を破壊する攻撃として使われます。子どもや女性を性的な「消費物」として蔑むことが、横行しています。被害にあった側には、それを回復する手段がほとんどありません。

ここに金儲けへの執着と、AIを始めとするデジタル技術の進歩が組み合わさり、異次元の被害拡大への道を踏み出しています。

何年もの間、画像の拡散に苦しむ当事者が私にこう言いました。

「この悪夢からいつ解放されるんでしょうか」

デジタル性暴力を根絶することはできないのでしょうか。

私はそうは思いません。

新たな視点と決意で取材を重ね、シリーズ「デジタルと性暴力 悪夢を終わらせる」を始めます。

金目当てで性暴力を取引

デジタル性暴力の取材を始めたきっかけは、友人が被害にあったことでした。

調べてみると、スマホのアプリを使い、数十万規模のユーザーが性的な画像や動画を拡散していることが分かりました。同意なく画像を撮影されたり、拡散されたりした被害者は膨大です。幼い子どもまでが、売買の対象とされていました。

被害が拡大する背景には、こうした画像が「ビジネス」として金儲けの手段になっていることがあります。

取材対象としたのは、画像と金のやり取りができるアプリ「アルバムコレクション」と「動画シェア」です。運営者は巨額の利益を得ていました。収益の一部は、アプリをストアで提供しているGoogleとAppleにも流れていました。

報道の結果、アプリ「アルバムコレクション」は終了し、運営会社は閉鎖。「動画シェア」はGoogleとAppleのストアから削除されました。

ところが、加害者たちに変化はありません。すぐに他のプラットフォームに移り、加害行為を繰り返しています。

新たな手口も登場しています。

例えば、裸の画像を担保に、金を貸すと持ちかける「裸ローン」が頻発しています。違法な個人融資ですが、加害者は相手の裸と身分証という弱みを握り、被害者を脅迫したり恐喝したりしています。

デジタル性暴力を広げる社会の構造が変わらなければ、被害は止まらないと実感しました。

インターネットは「制御できない」のか

デジタル性暴力の被害者には、味方であるはずの相手からも、こんな言葉が浴びせられることがあります。

「インターネットに拡散した動画は永遠に消せない」

「画像を送ったり、撮らせたりしたあなたが悪い」

インターネットは制御できないから、被害者が気をつけるべきだという主張です。本当にそうでしょうか。

この疑問と、被害者に責任を押し付けることへの怒りが、新シリーズの構想を生むきっかけになりました。

インターネットもAIも、人が作り出したものです。そうであれば、人の手で被害をなくすことができます。

2026年の初め、巨大プラットフォーム「X」のAIであるGrokが、実在する人物の画像に対して服を脱がせるといった加工をするディープフェイクに加担し、大きな問題になりました。

Twitterは、これまでもデジタル性暴力の拡散の温床でした。2022年に起業家のイーロン・マスク氏が買収し、Xになってからも、被害はなくなっていません。

しかしディープフェイクに対しては、各国の政府がXに対する捜査やGrokの禁止に素早く着手しました。

その結果マスク氏は、実在する人物の脱衣をできないよう、Grokの仕組みを変えることになりました。

米国は2025年、「Take It Down法」を制定。デジタル性暴力の被害者が要請すれば、48時間以内に画像を削除することをオンラインプラットフォームに義務付ける法律です。英国でも、同様の法案を首相が提案しています。

デジタル性暴力に甘すぎる日本

一方、日本ではデジタル性暴力を防ぐための努力が、圧倒的に足りていません。

Xでは、ユーザーたちが被害者の画像を面白がってやりとりしています。

Grokによるディープフェイクの被害は、日本でも起きました。政府は、Xに改善の要請をしています。

しかし要請程度では、効果がないのは明らかです。要請に応じる相手ではないからこそ、各国は巨額の罰金を課したり警察が捜査するなど、対応を強化してきました。

日本政府はプラットフォーム企業へのヒアリングさえ、非公開を約束して行っています。情報公開請求で入手した議事録は、黒塗りでした。

デジタル性暴力への甘すぎる対応は、行政から警察、企業や学校といったあらゆる組織に広がっています。

AI時代の分水嶺

デジタル性暴力の被害者も加害者も、身近にいます。

学校では、いじめにデジタル性暴力という手段が加わるようになりました。画像は友人間で瞬く間に拡散します。教員は対処法を知りません。あろうことか、被害者に責任を押し付け、転校を強いたケースもありました。

デジタル性暴力の本質は「搾取」です。人の安全や尊厳、社会に対する信頼、あらゆるものを奪っていきます。被害にあった人は、苦しみ続けます。

一方、デジタル性暴力に加担する者たちの多くは罪に問われることもなく、安全圏に居続けられるのが現状です。

今、私たちは分水嶺に立っています。

AIの普及や技術の進歩が、デジタル性暴力のさらなる拡大を招いているからです。一刻も早く食い止めなければ、もはや人間の力では、取り返しがつかなくなります。

デジタル性暴力は、世界中で同時に起きている問題です。韓国やオーストラリア、米国など被害対策が進む国では、人々が子どもや女性たちを守ろうと闘ってきました。

日本でもデジタル性暴力をなくそうと取り組む人たちがおり、被害者が少しずつ声を上げ始めています。

新たなシリーズは、被害をなくしたいと思う方々が集うプラットフォームにしたいと考えています。探査報道を発信すると同時に、デジタル性暴力に関する社会の動き、問題に取り組む方々のインタビュー、国外の状況など、幅広い情報を取り上げます。

Tansaの報道を拠点に、情報を広めたり、ともに考えたり、対策を求める声を上げていただきたいです。

デジタル性暴力をなくせるかどうかは、私たちの行動にかかっています。

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