死亡見舞金を頑なに申請しない海星学園 遺族「私たちや亡くなった子どもって、ちっぽけな存在なんだな」(24)
2026年05月21日 17時00分 中川七海

海星学園=長崎市で2024年11月10日、中川七海撮影
福浦さおりは、思い知る。
「私たち遺族や亡くなった子どもって、学校や行政にとっては、ちっぽけな存在なんだな」
息子・勇斗が自ら命を絶って以降、少なくとも月1回は、遺族は海星学園と顔を突き合わせていた。いじめの調査状況や再発防止策を尋ねたり、きちんと勇斗の事案に向き合ってくれるよう要望したりしてきた。
だが、2018年4月の一周忌を境に、海星学園は遺族を「無視」するようになる。
勇斗をいじめた生徒が誰かを担任に知らせるよう求めても、文部科学省の関連法人による死亡見舞金を申請するよう依頼しても、聞く耳を持たなくなった。
武川教頭が校長に昇進
2018年4月18日、勇斗の一周忌のお参りに、海星学園の教職員らが遺族宅を訪れた。
この春に教頭から校長に昇進したばかりの武川眞一郎を含む、5人だ。
5人のうち、武川(当時の教頭)と大森保則(当時の教頭補佐)しか勇斗をいじめた生徒が誰なのかを把握していない。1カ月前に遺族と5人が面談して判明した。担任も、副担任も、学年主任も、加害生徒を知らずに1年間過ごしてきたのだ。
担任が加害生徒を把握しないで、どうやって今後いじめを防ぐ体制をとれるのか。自宅にやって来た面々に、さおりが改めて問う。
「なぜ、担任や学年主任に、加害生徒の名前を知らせないのですか」
大森は確かな理由を述べず、こう言った。
「改めて、名前は知らせません」
では、クラスメイトをいじめて死に追いやった加害生徒に、どう反省を促すのか。
さおりの問いに、校長に就任したばかりの武川が答える。
「自分たちは、一般的な指導しかできません。講演会などを通して、心に訴えかけるしかありません」
最後に武川はこう言い残した。
「今後の窓口は、私ではなく大森になりますので」
文科省関連法人からの指示を2度も無視
遺族の悩みの種は、加害生徒への指導だけではない。
勇斗の自死から1年が経過してもなお、海星学園は日本スポーツ振興センターへの災害共済給付の申請を行っていなかった。
日本スポーツ振興センターは、文科省が管轄する独立行政法人だ。スポーツの振興や児童・生徒の健康増進を図る組織だが、他にも重要な役割がある。学校や幼稚園で起きた事故や自死に対する、医療費や見舞金の支給だ。保護者と学校側の掛金をもとにして、災害共済給付制度を運用している。
いじめによる自死が起きた旨を書いた申請書を、学校設置者がセンターに提出する。学校設置者とは、私立であれば学校法人、公立であれば行政だ。勇斗の自死に伴う死亡見舞金の申請は、海星学園が行うことになる。
災害共済給付制度は、遺族が死亡見舞金を受け取るかどうか以上に、学校や行政がいじめ自死を認めるか否かの、子どもの尊厳に関わる非常に重要な制度だ。
さおりと夫の大助はこれまで、海星学園に何度も申請を訴えてきた。
しかし海星学園は、理由をつけて申請を先延ばしにする。
「時効(自死から2年の申請期限)まで、まだ時間がある」
「第三者委員会の結果が出たら申請する」
5月24日、さおりは長崎県を管轄する福岡のスポーツ振興センターに電話で相談した。
海星学園とのこれまでのやりとりを伝えると、センターの職員は早速、海星学園に電話で確認をとってくれた。
その日のうちに、センターの職員から折り返しの連絡があった。
「武川校長と話しました。学校から直接、勇斗さんのお父様の携帯に電話するとのことです」
ところが、大助の携帯にも、自宅にも、一向に海星学園からの連絡がない。「1週間は待とう」と耐えたが、音沙汰なかった。
5月30日、さおりは再びセンターに電話した。
前回とは異なる職員だったが、海星学園から連絡がない旨を伝えると、またすぐに職員から海星学園に問い合わせしてくれた。職員がさおりに報告する。
「学校に電話し、ご遺族に対して学校から説明をするよう伝えました」
ところが、その後も海星学園から遺族への連絡は一切なかった。
海星学園が相手だと分かると・・・
一周忌を機に、教職員らによる月命日のお参りもなくなった。自宅へのお参りは、遺族が学校側に状況を尋ねたり、要望を伝えたりする機会だった。
時はどんどん進み、8月。学校は夏季休暇に入り、連絡を取るのも難しい。
遺族の焦りは募った。
「勇斗へのいじめや、自死した事実が無かったことにされるのではないか」
さおりと大助は、弁護士に頼ることを決める。
8月以降、長崎県内の無料法律相談窓口への電話相談を重ねた。
勇斗の自死以降の海星学園の対応や、スポーツ振興センターへの申請について伝えると、「それはおかしい、ぜひ請け負いたい」という返事をもらえた。
ところが、相手が海星学園だと分かると、断られる。
「海星ですか・・・、申し訳ありませんが・・・」
さおりは悟った。
「私たち遺族や、亡くなった子どもって、学校や行政にとっては、ちっぽけな存在なんだな」
海星学園の法令違反が見逃されたり、学校を指導・監督する立場にある長崎県が海星と歩調を合わせたり、弁護士が海星学園を相手に闘えなかったり。いかに自分たちが小さく、杜撰に扱われる存在なのかを思い知った。
「長崎県内の弁護士ではダメだ」
さおりは、福岡県の相談窓口を探した。長崎から距離はあるが、九州各地の事案を取り扱う事務所もある。
福岡市内にある法律事務所の弁護士に尋ねられた。
「長期になる可能性もありますし、勝てるかは分かりません。それでも良いですか」
さおりは即答した。
「構いません」
ようやく、弁護士が決まった。
その矢先、第三者委員会の調査結果が出る。
(つづく)
*敬称略
保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】一覧へ情報提供のお願い
本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。
そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。
Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。
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