デジタルと性暴力 悪夢を終わらせる

「加害者は普通の人生送るのに…」 ハッキングで下着の購入履歴まで拡散 被害を語る理由は「今止めないと」

2026年05月22日 18時05分  辻麻梨子

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デジタル性暴力に関する調査は非常に少なく、実態がわかっていない。

被害を申告するのは、当事者にとって大きな負担を伴うからだ。

ほとんどの場合、画像が今も拡散し続けている。加害者から報復される恐れもある。被害をきっかけにPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、それまで通りの生活を送れなくなっている人もいる。

だが加害者の手口や、被害にあった人がどのようなことで困っているのかを、明らかにすることは重要だ。実態がわからなければ、必要な制度や支援を整えることができない。

Tansaは2025年9月、デジタル性暴力被害の調査を始めた。「本人が望んでいないのに、下着や裸の画像・動画を撮影されたり使われたりした経験」を、広く対象としている。

これまでに約20件の回答があった。決して多くはないが、それぞれが特徴的な被害を経験している。

初回はホノカさん(仮名・30歳)。Googleのアカウントをハッキングされ、画像や検索履歴、下着の購入履歴までもがSNSで拡散された。

加害者は「まさかこの人が」と思う元同級生だった。画像を拡散するのと同時に、ホノカさんには何食わぬ顔で誕生日を祝うメッセージを送ってきていた。

ホノカさんは被害について、政党や新聞社に対しても、メールを送ったことがある。デジタル性暴力が起きる社会構造について説明し、被害救済を訴えた。

しかし、どこからも返事はなかった。

ホノカさんは数カ月前、女児を出産した。デジタル性暴力のない未来を築かなければならないという思いが、より一層大きくなった。

Tansaのインタビューに応じることを決意した。

被害の経験を語る決意をしたホノカさん=友永翔大撮影

Googleアカウントに不正アクセス

それは突然のことだった。4年ほど前、ホノカのインスタグラムに匿名の相手からメッセージが届いた。

「ホノカさんですよね」

「Twitterで画像晒されてますよ」

初めは無視していたが、相手はTwitter(現在のX)のスクリーンショットも送ってきた。見てみると、ホノカが過去に撮影した水着姿の写真や友人と写った写真が投稿されていた。名前と出身高校も書かれている。

血の気が引いた。

投稿されていたのは画像だけではない。

Google検索の履歴、通販で下着を買ったという情報や、読んでいる電子書籍の内容までもが、何者かのTwitterアカウントによって晒されていた。

稚拙な技術のフェイク画像も見つかった。ホノカの顔写真と、別人の裸が組み合わされていた。

個人情報が出回った原因は、Googleアカウントへの不正アクセスだった。確認したところ、見知らぬスマホによるログイン履歴が残されていた。

Googleのアカウントには、他のウェブサイトのログイン情報も保存されていた。加害者はそこから、あらゆる情報にアクセスしていたのだ。

ホノカの画像と個人情報は、複数のTwitterアカウントが投稿していた。アカウントのアイコンを、ホノカの顔写真に設定する者もいた。

投稿した人物は、ホノカの画像に「自慰行為に使う」という意味のハッシュタグを付けた。投稿にコメントをしてくる人には「自分はこんな情報も持っている」と自慢げに返信し、やりとりを楽しんでいた。

さらに、一方的にハッキングして個人情報をばらまいておきながら、平然と書き込んだ。

「ホノカは承認欲求が強いから、画像晒されて嬉しいよね」

被害に気がついた翌日、ホノカは仕事を休んで警察に行った。

「誕生日おめでとう」のメッセージの裏で

相談を受けた警察は、不正アクセス罪で捜査に着手した。

ただ、リベンジポルノ防止法は適用されないということだった。性的な嫌がらせも受けたが、画像に露骨な下着や性器が写っていないためだ。

捜査は素早く進展し、1カ月後には通信相手を識別する「IPアドレス」が判明した。

逮捕されたのは、学生時代の同級生の男Aだった。

背筋が凍りついた。

Aはホノカの画像を晒して、拡散しているのと同じ期間に、SNS上でホノカの投稿に反応したり、「誕生日おめでとう」とメッセージを送ったりしてきていたからだ。

Aとは、交際したことはおろか、特別仲がよかったわけでもない。Aの弁護士によれば、知人女性など複数の相手にハッキングを試みていた。たまたまホノカのアカウントにアクセスでき、情報を得たという。

Aは様々な被害者の画像をTwitterに投稿する中で、ホノカの画像を投稿するとユーザーからの反応、つまりインプレッションが増えることに気がついた。まるで自分が注目され、力を得たような気持ちになり、集中的にホノカの画像の投稿を繰り返したという。

Aは女を装ったインスタグラムのアカウントを作成し、ホノカを脅迫していたことも判明した。

「インスタのフォロワーを全て記録している」

「自慰行為をしている動画を送らないと、自分が持っている動画を知り合いにばらまく」

刑事裁判での手続きは進んでいたものの、最終的に示談を選んだ。初犯であることや罪状を踏まえると、軽い処罰で済んでしまうと考えたからだ。早く終わりにしたかった、ということもある。

「罪を問えばよかった」と、今なら思う。

引越しを勧めた警察

自分の個人情報や画像が拡散されていることを知ってから、ホノカは「検索魔」になった。仕事中でもスマホを手放せず、隙を見て何時間もTwitterを検索した。

たくさんの被害画像を見る中で、友人の画像が晒されているのを見つけたこともあった。迷った末に本人に伝えたことを、ずっと後悔している。

被害を知ることが、地獄の始まりだからだ。

被害画像を探している時、ストレスで顔や首に蕁麻疹がでた。常に胃が痛み、仕事を抜け出して、薬を買いに走ったこともあった。スマホのカメラが、こちらを監視しているように思えて、怖くてたまらなかった時期もある。

生活を変えることも強いられた。

加害者が閲覧していた情報の中には、ホノカの住所が含まれていた。警察からも引越しを勧められ、契約期間を残して別の物件に引越すことになった。

不自然なタイミングでの引越しだったが、両親には被害にあったことを伝えることができなかった。仲が良いからこそ、悲しませたくなかった。

娘が生まれた今、声を上げる

加害者との示談も終わり、次第に被害の記憶が薄れていくようになった。

ところが3カ月前、知人から「画像が拡散されている」と連絡があった。4年前にばらまかれた画像だった。

今回は画像を拡散したアカウントが、すぐに消えてしまった。誰が投稿したのか、自分の画像はどこまで広がったのかを知る手立てはない。警察にも相談したが、できることはないと言われた。

被害に遭って、自分は個人情報を晒される恐怖を植え付けられた。

でも加害者は違う。

「相手が『普通の人間』として生きてるのって、ちょっと信じられないというか、許せない」

共通の知人のSNSへの投稿で、偶然加害者を目にしてしまうことがある。

「ああ、向こうの人生何も変わってないんだなって思う。 自分だけが恐怖を植え付けられて、向こうの人生なんか、何一つ傷がついてないような気がして」

自分の被害を公にするのは、初めてだ。声を上げることで、また画像を探されたり、嫌がらせを受けたりする不安もあった。

しかし、自分の被害画像を探しながら、他のたくさんの被害者の存在を知った。

数カ月前、女の子を出産した。

「AIの技術も進んでいるし、今止めないともっとひどいことになる」

そう思って、カメラの前に立った。

ホノカさん=友永翔大撮影

【取材者後記】日本社会の現在地/辻麻梨子

これまで、被害当事者や家族、十数人を取材してきた。その中で、動画によるインタビューを受けてくださったのは、日本ではホノカさんが初めてだ。

多くの被害者や当事者にとって、カメラのレンズは恐怖の記憶と直結する。被害当時の様子がフラッシュバックする人もいる。

だが、ホノカさんは発信することを選んだ。同じような被害をなくしたい一心だ。取材中も「若い世代が被害をきっかけに、オンライン上で自分を表現できなくなるのは辛い」と口にした。

ホノカさんは、自身の画像や個人情報が性的搾取に使われた。ところが、加害行為を処罰するのに最適な法律がない。

関連の行為を処罰する「リベンジポルノ防止法」や「性的姿態等撮影罪」は、性交または性器などが露出した画像の撮影や拡散が対象だ。警察には、ホノカさんの被害は含まれないと言われ、加害者の元同級生は不正アクセス罪での捜査となった。罪状が軽くなることが見込まれることなどから示談にしたものの、ホノカさんは悔しい。

ホノカさんだけではなく、SNS上では女性を集団で嘲笑する行為が横行している。女性の顔写真に精液をかけた画像を投稿したり、自慰行為に使う「ペット」という意味で「おなぺ」「顔抜き」などというハッシュタグを付けたりしている。

これらは、個人情報のばらまきやプライバシーの侵害という枠を超えた性暴力だ。加害がエスカレートし、盗撮やストーカー行為などにつながる可能性もある。

刑事罰としての取り締まりが必要だが、日本では法律すら整備されていない。同意のない性交や盗撮が刑法における罪となったのですら、わずか3年前の2023年だ。

司法が停滞しているのは、社会の認識があまりに甘いからだ。深刻な被害に遭っている人たちが多くいる事実を、社会で共有できていない。

さらに言えば、社会の冷淡な態度が、被害を公にすることを阻んでいる。

ホノカさんが被害を訴えるメールを送っても、政党や新聞社は取り合わなかった。性被害を公にした当事者は、凄まじい誹謗中傷に晒されている。声を上げることを恐れて当然だと思う。

これが日本社会の現在地だ。

Tansaではデジタル性暴力に関する、被害の実態を調査しています。デジタル性暴力の被害を経験した方と、子どもや友人などの身近な人が被害にあった方が対象です。調査には、以下のフォームからお答えください。被害に関する項目は、全て任意での回答が可能です。質問フォームはこちら

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