保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

「いじめが自死の主因であることは間違いない」 第三者委員会が認定、長崎・海星学園は拒否 (25)

2026年05月25日 16時26分  中川七海

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第三者委員会が作成した、福浦勇斗さんの自死に関する報告書より(画像の一部を加工しています)

福浦勇斗はやとの自死から1年7カ月。2018年11月19日に第三者委員会の調査報告書が完成した。

第三者委員会は弁護士や校長経験者、臨床心理士ら5人が委員を務めた。報告書はA4用紙64ページ。勇斗の母・さおりと父・大助が知らない事実も記されていた。

からかわれるのを避けるため、勇斗が掃除用具を納める小部屋で食事をしていると、同級生たちは15人ほどで追いかけてきて、扉をこじ開けようとしていた。

第三者委の報告書では、勇斗の自死について、こう結論づけられていた。

「中学3年時から高校進学後にかけて行われたいじめが、福浦君の自死の主たる要因であることは間違いない」

弁護士、校長経験者、臨床心理士らが調査

いじめ自死という「重大事態」が発生した場合、学校は速やかに調査委員会を立ち上げ、事実関係を明らかにせねばならない。法律で定められた義務だ。

ところが海星学園は、調査に乗り出さず、制度の存在すら遺族に知らせなかった。遺族が自ら制度を調べ、学校の対応を指摘。学校に要請に出向き、調査委員会の設置を求める要望書の提出を重ね、自死から3カ月後の2017年7月24日にようやく設置された。

第三者委の調査結果を、さおりと大助は待ち望んでいた。

委員は全5人。中西祥之(委員長、弁護士)、鮎川愛(弁護士)、市原正博(校長経験者)、土居隆子(臨床心理士)、吉武久美子(臨床心理士、大学教授)だ。

5人は、勇斗の遺書や学校側が提出した資料の精査、生徒や教職員らへのアンケート、3日間の生徒ヒアリング、7日間の教職員ヒアリング、4回の遺族面談をもとに調査を進めた。さらに36回の会議を重ね、1年4カ月をかけて報告書をまとめた。

2018年11月23日、さおりと大助は、委員長の中西の弁護士事務所を訪れ、委員5人と対面した。

中西が切り出す。

「本来なら、(遺族と学校に)同時に説明したかったのですが、今日は学校側の都合がつかないということで、ご遺族に先に報告書をお渡しします」

続けて、結論から述べた。

「私たち第三者委員会は、勇斗くんの自殺の主たる要因を、いじめと認定します」

掃除用具部屋に逃げ込んだ勇斗、追いかけた15人

手渡された報告書を、この場で全ては読みきれない。さおりと大助は、詳細は持ち帰って確認することにした。

報告書では、勇斗の遺書や生徒たちの証言で出てきた「いじめ」の一つ一つについて、事実認定と評価が行われている。

遺書では、中学3年時にいじめが始まったことが示唆されていた。お腹の音をからかわれ、いじめの標的となり、精神的に追い詰められていった様子が読み取れた。

調査で挙がった生徒たちの証言は、遺書の内容と整合していた。

複数の生徒が、「一部の生徒が福浦君に対して用事がないにも関わらず福浦君の名前を呼び、これに反応する福浦君の様子を見て楽しんでいた」、「福浦君が他の生徒から何らかのからかいやちょっかいを出されていたのを見た」旨述べており、また、「福浦君はいじられやすい」、「3学期になってから福浦君をからかう生徒が増えた」、「一部の生徒が必要以上に福浦君に絡んでいた」、「福浦君は無理して笑っている感じだった」などと述べる生徒もいた。

さらに、遺族が把握していなかったいじめ行為も判明した。

勇斗は、お腹の音が鳴っていじられるのを恐れ、毎日おにぎりやカロリーメイトを持参し、教室から離れた小部屋で間食をとるようになっていた。掃除用具を納めている部屋だ。

福浦君が間食等するために小部屋にいた際、その扉を無理やり開けようとされた行為については、福浦君の遺書やノートには記載が存在しない。

 

しかし、生徒ヒアリングの結果、複数の生徒が、小部屋に行く福浦君の後をつけて見に行った旨証言している。また、その人数については、複数の生徒が、「10人~15人くらいで」、「15人くらいで」と証言しており、少なくとも10人以上で福浦君の後をつけて見に行ったと考えられる。

 

また、この際、「扉を開けようとしたら開かなかった。」、「3人くらいが扉を無理やり押し開けようとしていた。」と複数の生徒が証言しており、少なくとも複数の生徒が福浦君のいる小部屋の扉を無理やり開けようとしていたことが認定できる。

他にも、クラスメイトからお腹にタブレットを向けられたこと、勇斗が教室の黒板に「気づけ」と書いたこと、小部屋で「机の音なのに」などの暗号を残していたことなど、一つ一つの行為への検証結果が記されていた。

いじめ行為として認定されたものもあれば、そうとは言い切れないと判断されたものもある。だが、そういった日常と勇斗の心理状態を照らした分析も施され、勇斗の苦痛を汲み取っていた。

「いじめと自死との因果関係」についての全文は次のとおりだ。

これまで記載したとおり、福浦君は、中学3年生の時から高校進学後にかけて、お腹の音に結びつけたからかいや「のどならし」といういじめを受けていた。また、中学3年生の時は日常的にいじられており、小部屋の扉を無理やり開けようとされるといういじめも受けていた。

 

しかし、福浦君が自死した直前に自死と直結するいじめの存在は見つからなかったこと、福浦君の遺書には「死因いじめなどでは決してない。ただ、自己嫌悪、自暴自棄」などと記載されていることからすると、福浦君がいじめだけを要因として自死に至ったと断定することまではできないと考える。

 

ただ、中学3年時から高校進学後にかけて行われたいじめが、福浦君の自死の主たる要因であることは間違いない。

 

また、このころに行われたいじめによって、福浦君は、友人たちにいじられることを恐れて心理的に孤独となり、お腹の音や喉の音等に対して過敏な心理状態になっていたのであり、このこともまた福浦君の自死の要因であると考える。

 

さらに、福浦君は、高校進学後、教師からの理不尽な指導が大きなストレスとなるとともに、学習に対する悩みや焦りも抱えていたのであり、福浦君の遺書に「成績不振」という記載や教科ごとに教師の指導などについて記載されていることからすると、これらの点も福浦君の自死の要因であると思われる。

 

以上のことから、福浦君の自死の要因を1つに特定することは困難であるが、本委員会としては、少なくとも、前述した中学3年時以来のいじめを主たる要因としつつ、これに起因した心理的な孤独・音に対する過敏な心理状態、教師からの理不尽な指導、学習に対する悩みや焦りなどが相互に作用し合って自死に繋がっていったものと考える。

坪光理事長、謝罪も報告書の所感もなし

約3週間後の12月14日、さおりと大助は海星学園を訪れた。

案内された理事長室で、5人の教職員と対面する。理事長の坪光正躬、校長の武川眞一郎、副校長の川島一麿、高校教頭の大森保則、事務長の頭島昭弘だ。

挨拶を交わすと、理事長の坪光が口を開く。

「先日、第三者委員会からの調査報告書をいただきました。約1年半に及ぶ歳月を経て、第三者委員会が報告書を作成されたわけではございますが、私どもも今後さらに、報告書を受けて慎重に、また予断を許すことなく、県や顧問弁護士等のご指導を得て、検証を加え、そして学校として適切に真摯な対応をしていきたいと考えております」

坪光の説明は曖昧だった。学園の理事長として、報告書の内容についての所感を述べることもなく、遺族への謝罪も一切なかった。

大助は、今後の学校の対応を問うた。答えたのは、校長の武川だ。

「(報告書の)内容が多岐にわたっていて。精査していきます。関係者と話し合いながら」

さおりが尋ねる。

「『いじめと自死との因果関係』というところで、自死の主要因はいじめであると断定されていますよね。主要因がいじめであるというのは、学校としては認めてくださるんですか」

武川が答える。

「そういうことに関しては、今から。具体的なことは検証せざるを得ないですから」

話が違う。

2018年1月、遺族、学校、県による3者面談が実施された。県からは、私立高校を管轄する学事振興課の課長まで参加している。その場で武川は、「第三者委員会がどんな結果を出そうとも、それを尊重して動いていこうと思います」と約束していた。

さおりが食い下がる。

「しかし、第三者委員会はいじめが要因というふうに断定されていますよね。それを覆す必要はないですよね。第三者委員会がここまで調査しているんですから」

武川は、苦し紛れにこう返答した。

「私たちは、それを読み込む作業は必要だと思っている」

さおりが呆れながら言う。

「(報告書完成から)2週間ぐらい時間があって、そこで読み込まれていると思いましたけど」

大助も反論したが、武川は「読み込む時間が必要」の一点張りだった。

報告書を先に読んだ遺族を追及

大助もさおりも、「またか」と感じた。

不都合なことが起きると、時間稼ぎをして対応を引き延ばす海星学園の行為を、これまで何度も経験してきた。

このままでは、この報告書すら無かったことにされてしまう。

さおりは訴える。

「(報告書を)公にしてほしいと思います。ここの学校で、いじめが原因で亡くなりました。うちの子は。そして、いじめだけじゃなくて、教員の理不尽な指導によって、という部分も入ってますよね」

報告書には、学校側の問題点への指摘や提言が記載されている。勇斗の精神的苦痛は、同級生たちからのいじめだけでなく、教員たちからの理不尽な指導・態度も含まれていた。

すると副校長の川島が口を開く。

「(報告書を)事前に見られたんですか」

さおり「はい、見ました」

川島「どなたから?」

さおり「第三者委員会からです」

川島「いつ?」

大助「11月23日」

遺族が説明を受けていたことを知った途端、海星学園側の面々が遺族を責め始めた。学校側よりも先に目を通していることを、口々に「問題だ」と言う。

だが遺族は、第三者委の委員全員から呼ばれて説明を受けただけだ。遺族側から、先に見せるよう要望したわけではない。海星学園が遺族を責めるのは筋違いも甚だしいし、先に見たから何だと言うのか。

大助がそう主張すると、ようやく坪光は引き下がった。

面会は30分ほどで終わった。

だがこの面会後、海星学園からの連絡が途絶える。

1カ月後の2019年1月、海星学園から1通の通知が届く。

「当学園は、報告書の内容を受け入れることはできかねます」

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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