
海星学園=長崎市で2025年4月20日、千金良航太郎撮影
2018年11月、第三者委員会は、福浦勇斗の自死の主因が、海星学園内で受けたいじめであることを認めた。
第三者委の調査では、新たな事実も発覚した。からかわれるのを避けるため、勇斗が掃除用具を納める小部屋で食事をしていると、同級生たちは15人ほどで追いかけてきて、扉をこじ開けようとしていた。
報告書の完成前、海星学園側は遺族に対して、こう約束していた。
「第三者委員会がどんな結果を出そうとも、それを尊重して動いていこうと思います」
学校から文科省関連法人に申請する、遺族への災害共済給付金についても同様だ。
「第三者委員会の調査結果が出てから、申請します」
ところが海星学園は、全てを反故にする。
それどころか、遺族に対して「交換条件」を持ちかける。
報告書の内容は「到底納得できない」
第三者委の報告書完成後の2018年12月14日、勇斗の母・さおりと父・大助は海星学園に赴き、理事長の坪光正躬ら学校幹部たちと対面した。
ところが学校側は、いじめ自死が認められ、学校側の非も指摘された報告書に対する所感を全く表明しない。遺族への謝罪も一切なく、「内容を精査します」との見解に留めた。
その後、学校側から遺族への連絡が途絶える。
報告書の完成からすでに1カ月以上が経過している。いつまで「精査」に時間がかかるのかも分からない。
12月31日、遺族は代理人弁護士の橋山吉統を通し、海星学園に文書を送った。
橋山は、福岡に拠点を置く弁護士だ。日本弁護士連合会「子どもの権利委員会」の副委員長(2000年~2005年)、福岡県弁護士会「子どもの権利委員会」の委員長(2005年~2010年)、福岡県弁護士会の副会長(2012年)の経験をもつ。2011年からは、子どものシェルターを運営するNPO法人の理事長にも就いている。虐待から逃れてきたり、公園などで寝泊まりしなければならない状況に陥ったり、そういう子どもたちを守ってきた。
橋山は海星学園に対し、遺族が代理人を立てたことを通知。学校としての報告書への総括や災害共済給付金の申請を要望し、回答を求めた。
ところが、音沙汰のないまま回答期限を過ぎた。
橋山は、海星学園に直接電話をかけた。そこで初めて、学校側も代理人を立てたことを知らされた。
2019年1月25日、海星学園の代理人弁護士・中川元から、橋山のもとに文書が届いた。「回答書」だった。
報告書は、第三者委員会からプライバシー侵害に留意したマスキング処理が何らなされないまま先に福浦氏に交付されるといった手続違背があるだけでなく、具体的事実関係の裏付けを示さないまま中学3年生以来のいじめが福浦勇斗君の自死の主たる要因であると断定する等全体的に説得力を欠く報告となっており、当学園としましては到底納得できるものではありません。
現在、この報告書についての対応策を当学園において検討中であります。(中略)
当学園は、報告書の内容を受け入れることは出来かねます。
災害共済給付金の申請については、次のように記載されている。
いじめ等により生じた強い心理的な負担により自死された場合には給付が行われる建付けになっているところ、「強い心理的な負担」がいじめ等により生じたか否かについては、当学園が設置した第三者委員会の調査結果、すなわち報告書を踏まえるものとされています。
すなわち、当学園が報告書をもとに申請することは、福浦勇斗くんが当学園において受けたいじめにより、自死されたことを認めることに他なりません。(中略)
よって、ご要望の独立行政法人日本スポーツ振興センターへの災害共済給付の申請は致しかねます。
給付金の申請は、学校が行う手続きだ。申請書には、いじめによる自死が起きた旨を書かねばならない。海星学園は、第三者委の報告書完成後に申請すると言っていたが、約束通り申請してしまうと、報告書の内容を認めることになる。そこで、申請をしないと主張し始めたのだ。
文科省が驚いた海星学園の対応
橋山から海星学園の回答を聞いたさおりは、打ちひしがれた。
1月29日、さおりは文科省に問い合わせてみることにした。
担当部署の職員に、事情を伝えた。海星学園が第三者委の報告書を受け入れないこと、災害共済給付金の申請を拒否したこと。
電話口の職員が、驚いた口調で言った。
「学校が第三者委員会の報告書を受け入れないというのは、初めて聞きました」
「災害共済給付金を申請しない件も、県に話してください」
申請期限まで2カ月のタイミングで
「やっぱり、海星学園が間違っているんだ」
子どものいじめ対策を所管する職員でさえ驚くことを、海星学園はやっている。さおりは、自分たち遺族の感覚が間違っていないことを実感した。
文科省の職員は、県と話すようさおりに告げた。だが、県は海星学園と同じ姿勢であることは、これまでの経験が物語っている。
そこでさおりは、給付を行う日本スポーツ振興センターに直接連絡することにした。
文科省との電話の後、長崎県を管轄する福岡のスポーツ振興センターに電話した。
しかし、さおりが期待する答えは返ってこなかった。
「申請は学校がするものなので、センターから学校側に強制はできません。海星学園には、遺族と話すよう再度伝えます」
第三者委の報告書完成前にも、さおりは何度かセンターに問い合わせていた。海星学園が申請手続きを進めないことを相談する度に、センターの職員は海星学園に連絡し、遺族と話すよう促してくれた。しかし海星学園は、センター側の呼びかけを無視。遺族に連絡せず放置してきた。
さおりの焦りは募っていく。
センターへの申請期限は、自死から2年と定められている。2017年4月20日に亡くなってから、すでに1年10カ月が経過していた。
その矢先、ようやく動きがあった。
2月に入り、遺族側弁護士・橋山の電話が鳴った。海星学園の代理人・中川からだった。
「遺族が学校側への損害賠償請求権を放棄するのであれば、学園として、日本スポーツ振興センターへの災害給付金申請を考えます」
(つづく)
*敬称略
保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】一覧へ情報提供のお願い
本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。
そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。
Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。
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