保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

「いじめている人、いじめられている人、それを見ている人へ」 海星学園が公表を拒んだ、第三者委から生徒へのメッセージ(27)

2026年06月01日 18時44分  中川七海

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第三者委員会の報告書に記載された、海星学園の生徒へのメッセージ

第三者委員会の報告書は、委員5人から海星学園の生徒へ宛てたメッセージで締めくくられていた。

タイトルは、「第三者委員会から生徒の皆さんへのメッセージ 〜いじめを許さない学園となるために〜」。

亡くなった福浦君は、次の春に仲間と一緒にこの海星を巣立つ喜びを知ることができません。

 

また、亡くなった福浦君には、今も、そしてこれからもずっと彼のいない寂しさを抱えていかなければならない兄弟や家族がいるのです。

 

「一人の人間の命は地球よりも重い」という言葉を心にとめて、生きていってください。

このメッセージを知った海星学園の保護者は、「自分の子どもに読ませたい」と願った。だが海星学園は、このメッセージを生徒に伝えることを拒む。

5人の委員からの言葉

第三者委が海星学園の生徒たちへ宛てたメッセージは、A4用紙3枚分。加えて、学校外のいじめ相談窓口の連絡先をまとめたリストが付けられていた。

メッセージには「必ず生徒全員に伝えたい」、「いじめる側・いじめられる側・見ている側にかかわらず届けたい」という委員たちの思いが表れている。

章立てはこうだ。

1. いじめについて

2. いじめている人へ

3. 周りで見ている人へ

4. いじめられていると感じている人へ

5. 学園の皆さんへ

メッセージの結びには、中西祥之(委員長、弁護士)、鮎川愛(弁護士)、市原正博(校長経験者)、土居隆子(臨床心理士)、吉武久美子(臨床心理士、大学教授)の全5人の委員たちの渾身の言葉が綴られていた。

さいごに、平成29年4月まで高校2年S3組にいた16名の仲間が、今は15名になり、高校3年生は、本来391名であったはずなのに390名になりました。1人亡くなったのです。亡くなった福浦君は、次の春に仲間と一緒にこの海星を巣立つ喜びを知ることができません。また、亡くなった福浦君には、今も、そしてこれからもずっと彼のいない寂しさを抱えていかなければならない兄弟や家族がいるのです。

 

「一人の人間の命は地球よりも重い」という言葉を心にとめて、生きていってください。そして、天国にいる福浦君のことをしのび、皆さんと同じこの海星で共に同じ時をすごした福浦君のことをどうか忘れないでください。

 

生徒の皆さんは、一人の命がどれだけの人とつながっているか、一人ひとりの命がどれだけ大切かを心にとめ、お互いへの思いやりを持った人として、これからの未来を精一杯生きていただきたいと切に希望して、第三者委員会からのお願いとします。

 

平成30年11月     .

第三者委員会委員一同

第三者委員会から生徒の皆さんへのメッセージ 全文はこちら

卒業まで1カ月を切っても

福浦勇斗はやとの母・さおりも父・大助も、第三者委のメッセージに胸を打たれた。そして、希望を感じた。

「このメッセージが、海星学園のいじめの再発防止の第一歩になるはずだ」

海星学園は勇斗の自死後、加害生徒の指導を一切行なっていない。それどころか、担任や学年主任ですら、加害生徒が誰なのかを把握していなかった。遺族がいくら是正を求めても、改善されることはなかった。

せめて、第三者委のメッセージを生徒たちに届け、同じことを繰り返さないよう心に誓ってほしい。

ところが、海星学園はメッセージの公表に乗り出さない。報告書完成から3カ月が経っても動きはなく、勇斗の同級生たちの卒業まで1カ月を切った。

2019年2月12日、遺族は弁護士を通して学校側にメッセージの配布・公表を要望。

さらに14日には、遺族から学校に対して嘆願書を提出した。

説明しない学校に保護者が署名提出

9日後の2月23日、海星学園が保護者説明会を開催する。

この会は、保護者たちの求めで実施された。2018年11月に報告書が完成した翌月、海星学園は勇斗と同じ、中学からの内部進学生の保護者を対象とした説明会を開いた。しかし、報告書の内容を開示することはなかった。これでは、調査によって何が判明し、学校として今後どう対応するのかが分からない。

そこで数名の保護者たちは、報告書の内容が分かる説明会の開催を求め、署名活動を立ち上げた。「学校が説明しないならば、遺族に説明してもらう場をつくる」という内容も含めた。遺族側も了承した。

保護者の声を受け、海星学園は説明会の開催を受け入れた。

しかし遺族は参加できず、遺族側弁護士・橋山吉統のみが参加を許された。

さらに、制約もあった。

橋山は見学のみで、質問を含む発言をしないことが条件だった。

参加者には、報告書のコピーが配布された。しかし、書き込みや持ち帰りは許されない。1部ずつ通し番号が振られ、回収漏れ対策もなされていた。

進行は、校長の武川眞一郎が務めた。挨拶に続き、第三者委の報告書の概要を伝えるという。

説明に立ったのは、海星学園の代理人弁護士・中川元だ。調査の方法や内容、いじめの有無とその内容、学校への指摘や提言等をかいつまみ、15分ほどで説明した。

再び、武川がマイクを握る。

「只今、弁護士の方から概略をご説明いただいたと思いますけれども、私の方からは学校側の見解をお話ししたいと思います」

真っ先に挙げたのは、勇斗の遺書だ。いじめに苦しむ勇斗の心情が綴られたノートで、加害生徒の名前などが記されていた。武川は言う。

「全面的に、ノートの内容を前提にされている。 採用する場合には、その理由を示してほしかったというのが私の申し入れですね」

その後も、ページ数と記載内容を示しながら、報告書の内容に苦言を呈す。

勇斗は、お腹の音が鳴るのをからかわれ、掃除用具置き場の小部屋で間食をとるようになっていた。そんな勇斗を、同級生らが10人以上で追いかけ、小部屋の扉をこじ開けようとした。複数の生徒が目撃していたことが、第三者委の調査で判明した。このいじめについて、武川は言う。

「小部屋の扉を無理やり開けようとした行為について、これはノートに記載されたものではありません。生徒へのアンケート、あるいはヒアリングから出てきたものと思われます。誰が話をしたかは明らかにされていません。証言が多数ということで、いじめと認定されています」

勇斗の遺書に記載がなかった上、証言した生徒が誰か分からないので、信憑性に欠けるという口ぶりだった。

武川の指摘は続いた。そして、こう述べた。

「学園は第三者委員会に異議を申し上げました」

報告書を受け入れないこと、いじめ自死を報告して申請する災害共済給付を行わないことを告げた。

遺族の代理人弁護士・橋山には受け入れ難い内容だ。しかし、発言を許されていない。武川の主張を遺族側も認めていると誤解してしまった保護者もいた。

「このメッセージを子どもに読ませたい」

質疑応答時、会場から質問の手が挙がる。

「(学校側は)いろいろ納得されてないところがあるみたいですが、卒業までに1週間ちょっとしかない中で、このメッセージは配られない予定なんですか」

武川は「えっとですね、そのことについては・・・」と言い、要領を得ない回答をする。論点をすり替え、マスキングが必要などと主張した。だが少なくとも、第三者委員5人から生徒へのメッセージにマスキングは必要ない。

別の保護者が手を挙げる。

「私たち保護者の気持ちとして、これを全部拝見させていただいて、自分の子どもが少なくとも無関係ではなかったという自覚はしました。これを子どもには読ませたいと思います。それは皆様、多からずあると思うんですよ。少なくとも一緒に過ごした子どもたちに知らせることはできないんでしょうか、教育としても。今読んだのを、私たちが帰って伝えろってことは難しいと思います。ちゃんと専門の方が作ってくださったこのメッセージを、私は子どもに読ませたいです」

だが、武川は承諾しない。

同じ保護者が「マスキングだとかおっしゃっていますけど・・・」と食い下がったが、武川が言葉を被せて遮った。

「全校生徒への配布というのは難しい」

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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