デジタル性暴力は、どのようにして起きるのか。どうすれば、被害をなくすことができるのか。
まずは実態を知ってもらおうと、Tansaは5月24日、「デジタル性暴力のリアル」と題したイベントを開催した。デジタル性暴力の被害者支援や、政策提言を行うNPO法人ぱっぷすの内田絵梨さん(相談支援主任)が登壇。Tansa記者の辻麻梨子と対談した。
内田さんは、多くの被害者の声を聞いてきた。
性的な画像や動画が拡散され、ある日学校で「お前の画像を見た」と言われる恐怖を抱える子どもたち。結婚や出産といった人生のターニングポイントに、被害の露呈を恐れて前に進めなくなってしまう人たちがいる。
一方、加害者は匿名で、簡単に性的画像を拡散したり売買したりできる。摘発されそうになれば、アカウントを消し証拠を残さない。その結果、加害を繰り返す。
被害によるダメージの大きさと加害の手軽さが、あまりにもアンバランスだ。
今、必要なのは「責任を問う方向を変えること」だと、内田さんは考える。被害者にばかり「気をつけよう」と言うのをやめ、加害者とそれに加担する社会が変わらなければならない。

ロフトプラスワンで開かれたイベント=2026年5月24日、湯川友愛撮影
身近な人が被害画像を見ている恐怖
ぱっぷすには、デジタル性暴力に関する新規相談が月200件超寄せられる。2012年に相談を受けるようになってから、増え続けている。
被害相談に来る人に、内田さんはこう尋ねたことがある。
「ご自身の性的画像を誰が目にすると思いますか?」
被害者は答えた。
「自分とは別の世界に住む、遠くの人が見ていると思う」
この被害者のように、性的画像が拡散し、誰とも知らない人たちが見ていると考える人は多い。
しかし内田さんは、身近な人の間での拡散に悩んでいるという相談を、多く受けてきた。クラスメイト、友達のお父さん、バイト仲間、塾の友達…。被害者の性的画像を見ている人は本人のごく身近にも潜んでおり、それが生活に影響するからだ。
「だから、本人が『被害のことは忘れて生きていこう』と思っても、外に出ると普通の生活が送れなくなってしまうんです」
例えば、学校で突然、出回っている動画の「タイトル」で呼ばれる。SNSにDMで「画像見たよ」と送られてくるという相談も多い。Tansaのインタビューに応じてくれた女性も、元同級生からハッキングの被害にあい、数年後に職場の人から画像の流出を知らされた。
すると、恐怖に駆られる。
「朝起きてスマホを見るのが怖い。通知音が鳴るだけで、体が固まる。学校に行けなくなる。友人と会うことも、家族と話すことすらも、もう前とは同じようにはできなくなってしまう。それが被害にあった人の身に起きることなんです」
デジタル性暴力の被害は、人生の節目でも、足を引っ張る。
学校のクラスメイトや地元の友達の間で性的画像が拡散し、故郷に帰れない人もいる。職場の面接官や、結婚を予定している相手が自分の画像を見ているかもしれない。そうした恐怖から、望んでいた選択を諦めざるを得なくなるのだ。
女性に多い「支配型」の被害
ぱっぷすに寄せられる被害相談の中でも、顕著に増えているのが「セクストーション」。性的画像をもとに、相手を脅す行為だ。
セクストーションには、「金銭型」と「支配型」がある。
金銭型は、「画像を拡散して欲しくなければ、金を払え」と恐喝するもので、被害者は圧倒的に男性だ。犯罪グループによる特殊詐欺の手口でもあり、全世界で被害が拡大している。
海外では、金銭型のセクストーションにあった子どもが、自死に追い込まれる事件も多発している。
一方、女性に多いのが支配型の被害だ。加害者は画像を拡散すると脅し、新たな性的画像を送らせたり、交際や性的関係を強要したりする。
加害者からの、明白な脅しや暴力がある場合もある。しかし暴力的な手段を用いずとも、被害者との関係性を利用し、追い詰める手法が多い。
「共通しているのは、加害者が関係性や不安、孤立を利用するということです」
AV出演の強要被害にあった女性が、プロダクションに仕事のスケジュールを埋められ、周囲との交友関係を絶たれるようなケースもあった。
「そもそも、画像や動画が相手の元に渡ると、断ることも逃げることも難しくなってしまうんです」
学校や家庭で孤立している子どもに甘い言葉をかけて近づき、性的画像を送らせる「グルーミング」の手口も同様だ。
「大人や支援者は、本人がどうして断れない状況に置かれてしまったのか、どうして相談できない状況に追い込まれてしまったのか、誰がその不安や孤立を利用していたのかを考えることが大切です」
赤ちゃんを抱っこしながら、スマホで検索
ネット上に拡散された画像に対する、削除要請の問題点も話題にのぼった。
現状では、被害者が消したい画像を自力で探し、掲載しているプラットフォームに削除するよう要請しなくてはならない。ぱっぷすは、本人に代わって画像を探し、削除要請を行っている。
「他の人の写真がたくさん投稿されているのを見て、自分もどこかで拡散されているんじゃないかと不安になる。すると、『もっと探さなきゃ』と思って、やめられなくなっちゃうんです。 片手で自分の赤ちゃんを抱っこして、赤ちゃんが寝てる間にも検索を続けることが日課になっていた方もいました」
私がこれまでに取材をした被害者の中には、6年近く画像や動画を探し続けている人もいる。「いつになったらこの悪夢が終わるのか」と、私につぶやいた。
別の女性も、不安に駆られ、仕事中にもスマホが手放せなくなった。「検索魔」になっていたという。
さらに問題なのは、被害を申告する際、「これは自分の被害画像である」と証明することが被害者自身に求められていることだ。
削除要請では、プラットフォームに身分証を提出しなければならない。
ぱっぷすが対応したケースでは、未成年の盗撮被害の相談で警察に同行した際、警察官が本人に告げた。
「この時にあなたが18歳未満だったということを、証明してもらえますか? 」
盗撮などで、画像内に写る情報はわずかだ。被害者は当時の服装を購入した年などを説明させられたが、結局事件として扱ってもらえなかった。

ぱっぷすの内田絵梨さん=2026年5月24日湯川友愛撮影
「誰にも相談できないと思うから、加害者は脅す」
デジタル性暴力の被害者は、多くの負担を強いられる。対照的なのが、加害者だ。
被害画像の拡散は、匿名で登録したウェブサイトやSNSで、いとも簡単に行われる。アカウントの作成に、身分証を求められることもない。何個でも作って、いつでも消せる。
Tansaが取材してきたアプリ「アルバムコレクション」のように、被害画像の取引で年間数億円の利益をあげていたような会社ですら、運営者の責任が問われることはなかった。
行政の対応も、被害者に追い打ちをかける。
総務省は、ウェブサイトで公開している「インターネットトラブル事例集2026年版」で、セクストーションの事例を取り上げ、次のように注意喚起する。
話が盛り上がる相手は嬉しい存在ですが、わざと共通の話題で近づいてきた悪い人だったら、やりとりした内容が脅しのネタに。こんな被害を防ぐために、できることは?
A 裸などの画像は送らない
一度、ネット上に流出してしまった画像は、取り返しがつきません。
B 情報の組み合わせに注意
ネットでの会話を元に本名や学校名が知られてしまうこともあるので要注意です。
C 深みにはまってしまう前に
自分の情報を送るときはよく注意し、困ったときは身近な大人や専門の相談窓口の利用もご検討ください。
相手の行為が犯罪であることや、被害にあった際の対応が書かれていない。政府広報などでも、被害者に注意を促す内容がほとんどだ。
これでは、被害にあった人は、注意された行為をしてしまった自分を責め、相談することをためらうかもしれない。「心配をかけたくない」と、家族にすら話せない人も多いのだ。
内田さんも、こうした発信に危機感を抱く。加害者に付け入る隙を与えるからだ。
「加害者が子どもを脅すのは、その子が誰にも相談できないと思っているからなんです。 誰にも相談できないだろうと思って、強い言葉を使ってきたり、いろんな脅しをしてくるんですよね」
加害者が笑っていられる理由
デジタル性暴力の被害をなくすために必要なのは、被害者に注意することではなく、加害者の逃げ得を許さないことだ。
性的画像を撮影したり、拡散したりしている加害者、被害画像を金儲けの道具に使うプラットフォームを厳しく取り締まらなければならない。
内田さんが例に出したのが、現在法務省で見直しが議論されている売春防止法だ。現在の売春防止法には、性を買う側への罰則がない。
ぱっぷすでは、繁華街で10代や20代の女性たちに声をかける、アウトリーチ活動も実施している。中には貧困や虐待などの困難を抱え、性を売りながら路上を居場所にしている人たちがいる。
繁華街では象徴的な光景がある。警察が街に入ってくると、女性たちは摘発を恐れて逃げる。その姿を、買う側の男性たちが笑いながらスマホで撮影するのだ。
被害者が逃げ、加害者は笑っていられるのは、デジタル性暴力も同じだ。
内田さんは言う。
「責任の矢印を被害者じゃなく、利益を得る人たちに向け直したい。そうでなければ、同じような被害が繰り返されると思います」
デジタルと性暴力 悪夢を終わらせる一覧へ5月24日開催のイベントの配信をご覧になれます。
《配信チケット》
通常¥1,000 / Tansa応援¥1,500
配信チケットはキャスマーケットにて発売中
※アーカイブは6/7 23:59まで購入可(購入後2週間視聴可能)
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