内部告発者 ヤクルトが潰した社員

「内部通報する暇があるなら、仕事をしなさい」 台湾ヤクルトでゴキブリ混入、工場長が業務中に飲酒 告発した社員を潰した日本ヤクルト本社(1)

2026年06月22日 16時59分  渡辺周

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創業90年あまり、世界40の国と地域で愛飲されるヤクルト。

そのブランドと信頼を守りたい一心で、台湾ヤクルトに出向していた社員が2024年3月、日本の東京本社に内部通報した。

工場ではゴキブリが大量発生し、2007年から赴任していた元工場長は職務中に飲酒、パワハラやセクハラが横行していた。

ところが早々に、自分が通報者であることが台湾ヤクルト側に漏れた。東京本社から調査にやってきた幹部は「内部通報のホットラインに連絡をしている暇があったら、仕事をしなさい」。台湾ヤクルトは、通報したその社員に根も葉もないパワハラ疑惑をかけて、聴取を受けろと通知してきた。

通報した社員は追い込まれていく。うつ病を発症し、日本に帰国。休職を経て、ヤクルトを去った。

企業は社会に必要とされてこそ、存続できる。企業内部で不正が行われていた場合、正義感を持ってそれを告発する従業員は法が守る。決してその企業の「裏切り者」などではない――。そういう趣旨で、公益通報者保護法は2006年4月に施行された。

だが施行から20年経った今も、公益通報者保護法に「面従腹背」の企業は多い。私が取材してきた内部告発者たちも、裏切り者として組織から不当な圧力をかけられ、心身を削られていった。本人だけではなく、家族も辛い目に遭った。

職業への使命に忠実な内部告発者は、社会にとって不可欠であり称賛すべき存在だ。必ず守らなければならない。

ヤクルトのケースを詳報する。

「このまま飼い殺しにするのだろう」

 2024年11月14日午前8時、高橋圭介(仮名)は富士小山ヤクルト工場総務課の一室に入った。うつ病による休職中のリハビリ出社だ。

11月6日に渡された「リハビリ出社計画書」には、ヤクルトの幹部ら9人と産業医のハンコが押してあって、以下のような内容が記されていた。

期間

2024年11月14日〜2024年12月11日

 

在社時間中の作業内容

デスクでの自主学習

 

注意事項

リハビリ出社期間は、出社から退社、帰宅までのサイクルを支障なく実施できるかを確認するための練習期間であるから、勤務ではなく、欠勤または休職扱いとする。

 

そのため、業務をすることなく、周囲に支障のない範囲で自主的な学習(パソコン、読書等)を行う。

退社時間まで仕事も与えられずに過ごす。給料も出ない。

高橋は約15年、技術畑でキャリアを積んできた。だがリハビリ出社の期間が終わると、ベルトコンベアで流れてくる製品を見て異物があるかなどを確認する検品作業に従事した。

「臭いものには蓋をして、このまま飼い殺しにするのだろう」

高橋は不安になり、「ヤクルト」のロゴを見るのも辛くなった。胃が痛くなって、片耳が聞こえなくなることや、声が出なくなることもあった。

絶頂のヤクルト

高橋が追い込まれていったのとは裏腹に、ヤクルトは絶頂を迎える。

2025年10月14日、ヤクルトは「2024年世界で最も売れている乳酸菌飲料ブランド」としてギネスに認定された。ヤクルト本社が発行する『ヤクルトタイムズ』は社内号外を出した。社長の成田裕が、ギネスの認定証を受け取る写真が掲載されている。

「1935年に製造・販売を始めてから90年。節目の年に大きな金字塔を打ち立て、世界一の乳酸菌飲料であることが裏付けられる形となった」

「成田社長は『このたびの認定は私たちにとって大きな誇りであり、創業以来の歩みがグローバルに評価された証。日頃からご愛飲いただいているお客さま、そして地域に根差し、真心を込めてお届けしてきた従業者一人ひとりの努力の結晶です』と感謝を述べた」

「認定授与式の終了後、ヤクルト本社では認定授与式にスペシャルゲストとして出席した内田有紀さんが社員向けイベントにも参加。その場で号外が配布された。この号外は、全国のヤクルトレディを通じてお客さまにも届けられる予定。世界一の喜びと感謝のニュースが、日本全国を駆け巡る」

ヤクルトは1930年に、京都帝国大学医学部の代田稔が、乳酸菌の「シロタ株」の培養に成功したことで起業。1935年に福岡でヤクルトの製造と販売を開始した。

1964年には台湾で販売を始め、初の海外進出を果たした。

高橋は2008年にヤクルトに入社した。乳酸菌飲料の最大手であること、飲料品の安全性のための衛生管理が厳格であること、ワークライフバランスを大切にできる環境であることに魅力を感じた。

国内工場での製造課や品質管理課でキャリアを重ね、ヤクルトでの充実した仕事生活を送っていた。

生き生きと仕事をする高橋の姿を見て、息子は小学生になった頃からヤクルトスワローズの野球帽をかぶるようになった。

会社に訴えた「利他の企業文化」

2022年7月、高橋は台湾ヤクルトの中壢ちゅうれき工場に出向する。品質管理などを総合的にアドバイスする役目だ。

赴任してまもなく、様々な問題点を知ることになる。

・ゴキブリの工場内での大量発生、製品への混入

・食中毒につながる可能性のある菌の検出

・工場長の常習的な就業中の飲酒

・工場長ら幹部によるパワハラ、セクハラ

・職場でのアルハラ(飲酒の強要)

・出向者トップによる事態の放置

・「New Yakult」の乳酸菌数を偽装した宣伝

高橋は現地で声を上げ続けたが、台湾ヤクルトは事態に本格的に対処しない。

2024年3月27日、高橋は東京本社への内部通報に踏み切った。ここから、苦難の道を歩むことになる。

同年10月9日には、「台湾ヤクルトおよび国際部に関する問題点の報告書」を東京本社の人事部に提出した。その中で次のように綴っている。

「これからの時代、利他の心を持って働く従業員が大切にされる企業文化を築かない限り、ヤクルト本社の発展は望めないでしょう」

ヤクルトの言い分は

Tansaは高橋をはじめ、日本と台湾両国の関係者を1年半かけて取材してきた。内部通報者への仕打ち、工場の不衛生、台湾で「新ヤクルト」の品質を偽装して宣伝していることに関して、日本のヤクルトと台湾ヤクルトに質問状を送った。

日本のヤクルトは、広報部から2026年6月19日に回答があった。

広報部はまず、次のように前置きした。

「日本のヤクルトは台湾ヤクルトの株式を25%所有し、出向者を派遣しているものの、台湾ヤクルトが現地の事業環境や法令に基づき独立した事業運営を行っている。個別事案への対応については台湾ヤクルトが主体となって判断し、対応している」

その上で、高橋に関する内部通報に関しては、公益通報者保護法の守秘義務の観点から、通報があったかどうかも回答できないと答えた。

台湾ヤクルト中壢工場の元工場長の職務中の飲酒やハラスメントについては、個人情報保護のため具体的には回答できないが、法令・社内規程に従い適切に対応したと答えた。

台湾ヤクルトは、日本からの出向者のトップである品田泰彦が、日本の広報部と同じ6月19日に回答。食中毒を起こしかねない菌は検出されておらず、ゴキブリ発生については対策済みと答えた。

品質を偽装して宣伝していることについては否定。台湾ヤクルトのプレスリリースをもとにした記事に、消費者に誤解を与える可能性のある表現があったが、その記事は削除したと回答した。

だが同様の宣伝記事は他にもある。それらについては把握しておらず、削除依頼を進めるという。

ヤクルト側の言い分に、妥当性はあるのだろうか。次回から詳細に報じていく。

(敬称略)

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